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魔王ちゃれんじ  作者: 大谷融
第二章 新住人たち
36/108

マカンに弟弟子ができた②

  ◇


 模擬戦を終えた2人に近くに来るように呼ぶ。多少疲れはあるだろうが、小走りで2人は寄ってきた。しかしその表情は対照的だ。してやったりの満足感あるマカンと、不満がありありと浮かんでいるカルナール。そして当然のようにカルナールはその思いを俺にぶつけてきた。


「なぜ模擬戦中にあんな妨害を?」


「妨害に感じたか?」


「当たり前です! 戦いに集中している時にあんな真似をされては、下手をすれば大怪我につながる!」


「と言ってるが、マカンはどう思う?」


「どってことない」


 この子は慣れてるからな。カルナールとは視点が違う。


「だそうだ。カルナール、文句を言う前に俺の意図を考えてみろ」


「……マカンちゃんが有利になるように仕向けたのでは?」


「確かに結果はそうなったな。しかし俺は別におまえにだけを狙って石を投げた訳でもないし、マカンにだけ投げるタイミングを教えていた訳でもない。勝負における条件は同じだったんだ」


「しかしマカンちゃんはビィ先生がそういうことをするかもしれないと最初から知っていたのではないですか? それは予め教えていたのと同じです」


「そりゃそうだ。なにせ俺の弟子だからな。俺が教えてこいつを伸ばす。こいつの実力はその指導の賜物だ」


 俺は胸を張って答えてやった。称賛されてしかるべきだと思う。

 マカンは戦いの才能はあってもまだ小さな子供でしかない。何年も訓練を重ねた戦士にも勝てるように成長しているのは俺の手腕あってのものだ。


「つまりマカンちゃんはビィ先生が妨害行為にでることを最初から知っていたと言える訳ですよね? 実質2人がかりでやられたようなものですよ。それでは公平な勝負とは……」


「――公平な勝負なんてある訳ないだろう?」


 この辺の考えの甘さが実戦を経験していない奴の浅いところだな。


「そもそもおまえとマカンでは年齢も性別も体格も魔力量も何もかも全て違う。どこに公平さがある? マカンが不利だから手を貸したという話ではないぞ。戦場じゃ自分より弱い奴を優先して殺していくのは当たり前の考え方だし、逆に強い奴から逃げたり防御に徹したりして生き述べることを優先して戦うのも一つの戦術だ。単純に剣の技量で劣っているのならそれ以外で補うことを考えるべきだし、ならば地形を活かす、味方を呼ぶ、魔術を使う、ハッタリで騙す、なんでもありだ。そして負けて死んだ奴にそれを卑怯だとか非難する権利はない」


「しかしこれは殺し合いの戦いではないんですよ!?」


「当たり前だ。でもな、訓練でできないことは実戦でもできやしないんだよ。だからできるだけ実戦を想定した訓練を積まないと意味がない。おまえは命がけの戦いの最中に、こんなことは習わなかったとか、想定していない不公平だとか言い訳する気か?」


「…………っ」


 カルナールが習ってきた剣術はミシェン流。戦前からある剣術だが、基本的に1対1の正々堂々とした戦いを前提にした剣術なのだ。


 多人数に囲まれることを想定していない。武器を投げつけられるといった攻撃を想定していない。ゴツゴツした不安定な足場や高低差のある場などで動きまわることを想定していない。人間以外の生物――獣や魔物と戦うことを想定していない。


「俺が今まで習ってきたことは無駄だったと……?」


「いや、そんなことはない。俺の戦友にもミシェン流を修めた奴がいたが、そいつはすげえ頼りになる強い男だった。培ってきた技術は本物だった。ただ、実戦で生き残るために自分なりに工夫して新たな剣術に昇華していたのだと思うがな」


 つまり必要なのは否定じゃない。必要なものが足りていないことを肯定してこれから付け足していく方向性を認識することだ。


「まあ俺の戦い方自体が雑多だからこその言い分ってやつでもある。剣じゃ勝てないからリーチの長い槍で殺す。短剣を投げたり石を蹴って意表をつく。時には煙幕なんてものも使ったこともある。なんでもありが信条で、そうやって鍛えるのが俺のやり方だ。もしおまえがミシェン流の教えだとかに忠実でありたいと思うなら俺に習わない方がいいだろう。絶対に後悔するからな。どうする? やめるか?」


「いえ! 自分がまだ未熟であることは最初からわかっています。それに別にミシェン流こそが至高であるなどとも思っていませんし、強くなるためには貪欲であるべきだと考えます。ぜひこれからご教授ください」


「ああ。そう言ってくれると思っていた。幸い今この村にはグラムスさんっていう剣技に特化した化物もいる。教えられることは多いだろう。おまえのやる気が折れない限りは強い戦士に鍛えてやる」


「はい! よろしくお願いします!」


 勢いよくお辞儀するカルナール。それをなんだか偉そうな雰囲気で見守るマカン。優越感を持っていそうだが、本音を言えばマカンよりも鍛え甲斐がありそうな気がしている。そのうち単純な剣の勝負だとマカンじゃ勝てなくなるんじゃないだろうか。いや、そうなるように頑張ってみよう。



  ◇


 少し俺とカルナール少年との間に師弟の絆が生まれてきたが、これは今日行うべきの最初のとっかかりにすぎない。


 マカンを鍛えることこそが本題であるし、エステルもずっと見学させておくわけにもいかない。


「エステル。おまえは、とりあえず素振りからだ」


 木剣を渡す。さきほど2人が模擬戦で使っていた奴よりも小さな小剣を模した木剣だ。本物の剣に比べれば半分ほどの重さしかない。


「お、重いです……」


 それでも重いものを持ち慣れないエステルの腕には負担なようだった。

 持ち上げることができないなんてことはないが、ただ持つのと振り回すのでは腕や体にかかる負担がまるで違う。

 剣を振る。これだけで体が泳いでよろけてしまう。まずはこれを体勢を崩さずすばやく素振りできるようになるまで体を作ることから始めよう。戦い方とかそんなのはその後だ。


「最初はゆっくりでいい。体の芯をまっすぐに保ち、姿勢を崩さないで上から下に剣を振ることだけを心がけろ。体のどこに力がかかるのか、痛むのか、それを意識して理解しろ」


「は、はい……」


「何回やれとは言わないが、回数は声に出してはっきり数えろ。ほら、最初から」


「い……いーーーちーっ」


「カルナールはエステルに振り方を指導してやれ」


「はいっ。エステル様、よろしいですか?」


「う、うん。よろしくねカル君……。えっと、にーーーいーーっ」


 しばらくはこの組み合わせでいいだろう。カルナールは型はしっかりしているからこういう指導には向いてると思う。まあ自分でやるのと人に教えるのとでは勝手が違うものだが。教えることで自分なりに学べることもあるし、やらせてみるのは悪くない筈だ。


「よーしマカン。おまえは俺と模擬戦だ。いつも通り本気でこい」


「おけっ」


 エステルたちとは距離をとってマカンと向かい合う。

 外野の2人の視線も当然こちらに向いてくる。マカンもそれを意識してかいつもよりやる気に満ちているようだ。後輩2人にいいところを見せようと思っているのだろうか。


 甘い。



  ◇


「ゆうしゃぁ……」


 いつも通りけちょんけちょんにした。こいつが調子に乗るとろくなことがないので、少々念入りにいじめてやった。その甲斐あってマカンは盛大に仰向けになって伸びている。そして相変わらずの悪態だ。

 人前で勇者呼びするなと言ってあった筈だが、距離があるし小声だったのでエステルたちには聞こえなかったようなので見逃してやろう。


「……マカンちゃん、大丈夫ですか……?」


 エステルが心配そうに尋ねてきた。ちなみに彼はそうそうに音を上げて今は小休止中である。


「ずいぶんと派手に打ち込んでいましたが……」


 カルナールの顔色も青い。俺はマカンに大怪我させないように注意して木剣を打ち込んでいたが、2人から見るとそうとう強烈な打撃に見えたようである。まあ普通の人間にやっていたら痣ができる程度ではすまないだろう。骨折どころか内蔵にまで影響がでていても不思議ではない強さで打ち込んでいた。そればかりか蹴ったり投げたりもしていた。

 2人が心配するのも当たり前だ。そして自分がそんな風にやられたらと考えたら萎縮もするだろう。


 しかしマカンは無事である。無傷とは言わないが大きな怪我はない。こいつの頑丈さは本当に羨ましい。


「じゃあ次、カルナールとマカンが交代だ。カルナール、こい。エステルは素振り再開だ。休憩しすぎんな」


「「は、はい!」」


「大怪我はさせないつもりだ。萎縮せず、本気でかかってこい」


 要するに小さい怪我はさせるが。

 こういうことは痛い思いをした方が覚えが早い。もっともやりすぎて大怪我はもとより、怪我するのを極端に怖がるようになってしまっては逆効果なのでそこは加減しなければならない。


 基本は剣術の指導であるが、俺の場合は手も出るし足も出る。ついでに握っていた石なんかも投げたりする。さすがに実戦を模しているという建前上、相手の木剣を素手で握って止めるような真似はしないが、それ以外は体術に関してはなんでもやる。


 その結果、カルナールもしばらく後にはマカン同様に伸びていた。


「……いっしょ……」


 それを見てマカンが何やらニヤついている。後輩がのされたのがそんなに嬉しいのだろうか。

 最近思うのだが、ひょっとしてこいつ性格悪いんじゃないだろうか。


「マカン、休憩終わり。もう立てるだろう? もう一度かかってこい」


「……あとごふん……」


「いいから起きろ」


「あうぅぅ」


 木剣でマカンの頭を軽く小突いた。

 のろのろと立ち上がってきた、と見せかけて素早い動きでマカンは木剣を振り回した。

 俺はその一撃を自分の木剣で受け止めた。体勢が悪かったわりには力の入ったいい一撃だ。

 不意打ち上等、油断してやられる方が悪いというのはこの訓練中では何度も言い聞かせている。だから当然これもありだ。


「ほら次、打ってこい! たまには俺に当ててみせろ!」


「おけっ!!」


 それからしばらくマカンとカルナールを交互に相手しつつ、2人が立ち上がれなくなったら反省点を述べていく。そんな感じで今日の指導を終えた。


 ちなみにエステルの素振りは全部で20回できただろうか。

 ここまで基礎体力のない奴は初めて見た。うまく指導できるのか心配でならない。先達という意味でも頼りになるグラムスさんに今度相談してみようかと思う。

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