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魔王ちゃれんじ  作者: 大谷融
第二章 新住人たち
32/108

新旧の住人初顔合わせ②

  ◇


 父さん、母さん、セイジロウ、そしてマカンの4人を全員の前で正座させた。


「……なじぇ」


 マカンが恨みがましい視線を向けてくるが、あの3人のことを任せたのに暴走させた管理責任を問うているのだ。

 確かに扱いにくい3人ではあるが任せたからにはやりきってもらわなければならない。理不尽に感じるかもしれないが、名目上あの3人はマカンが使役している魔物という扱いなのだ。である以上はマカンがその行動の責任を負うのは必然だった。

 この辺はまた後で懇切丁寧に説明してやるとしよう。

 もうヤだとか言い出しかねない気もするが。


「少々ハプニングがあったが、この場でちゃんとみんなに説明しておこう。この2体のスケルトンとこっちの緑のは河童という……魔物だ。最初に断っておくが、人によっては色々言いたいことがあるかもしれないがこれに関しては一環して魔物であるということを表面上の事実としての主張を覆すつもりはないのでそのつもりで」


「おまえ……なんかムチャクチャだぞ」


 さっき俺に蹴っ飛ばされたグラムスさんがしかめっ面で睨みつけてくるが無視する。言い分が苦しいのは重々承知している。しかしそれを貫かないでどうするというんだ。

 いやホントにどうしようもないんだよ。何か全て丸くおさめる良い方法があるなら教えてくれ。


「それとこちらのスケルトンがさっき俺の親だという主張をしたが」


「そうだ。ビィ、どういうことだ? 僕の義理の親になるだなどという発言を軽々しくされては黙ってはいられない。場合によっては叩っ斬るぞ」


 これに関してはジルユードには同情したくなるな。俺だって複雑怪奇な気分なんだから。


「事実だ。俺の両親は15年前にこの村が魔物に滅ぼされた時に死んだ。しかし死んだ後にアンデッドとなって蘇り、この村に留まり続けていたんだ」


 再会した時はファントムだったことはあえて言わなかった。どう考えてもファントムからスケルトンに変化しましたとかみんなを混乱させるだけの余計な情報だろう。俺が他人から聞いてもなんだそりゃとしか思わないに違いない。


「最初はろくな自我も無く俺も討伐しようとしたが、襲ってこないしどうにも奇妙な感じを受けたんでしばらく様子を見ていたんだ。そうしているうちに俺の弟子がスケルトンの支配に成功してな。それからだんだんと生前の記憶を取り戻していった。奇跡的な光景だったよ」


 嘘だけど。


「……ちがくね?」


 おいマカン、おまえ事前に決めておいた設定ちゃんと覚えてないだろ。自分が魔物を使役できる稀有な人間だって設定まで覚えてないとか言わないでくれよ?


「俺か両親しか知らないようなことまで当たり前のように知ってるし、何より死んでるくせに馬鹿みたいに明るいし、こんな2人があかの他人である訳がないって思ったよ。だからこの2人は俺の両親なんだ」


 最初は信憑性に乏しい話になるんで俺との関係については伏せようかとも思いもしたが、よく考えてみればどうせそのうちバレる。ならばこの場で暴露しておいた方が良いだろう。


「……いや、ビィ。さすがにそれを鵜呑みにする訳にはいかない。それが本当だと認めるということは、僕の義理の両親がアンデッドであるということを認めるということなのだよ。侯爵家の姻戚にスケルトンを加えろというのかい?」


 貴族にとって体面は大事なものだというのは俺でも知っている。だから同情してやったんだ。嫌なら婚約解消してくれ。


『ジルユードさん。ご懸念はよくわかります』


『私たちとしてもご迷惑をおかけすることになって大変心苦しく思います』


『ですからビィの恥ずかしい過去を暴露するので許してください』


「わかった」


「ぅおいっ! わかったってなんだ! いいのかそんなに簡単に認めちまって!?」


「貴様が認めている以上は仕方ないだろう。この村から出せない情報が増えてしまったけど、逆に言えば外に漏らさなければ問題ないのだよ。それにもし漏れたところで誰が信じるというんだい?」


「ぐっ……」


 むしろそれは俺が言おうと考えていた言い分だったのに。先に言われてはやりこめられたかのようだ。

 そしてこのやりとりではっきりしたのはジルユードが両親の擁護に回ってくれているということだ。俺のやろうとしていることを支援してくれるというのは嘘ではないらしい。

 ……なんて簡単に信じて良いとも思えないがな。なにしろ俺を暗殺しようとしたこともある女だ。




 両親についてはまあ皆が納得してくれたかどうかはともかく説明はした。ジルユードが認める発言をした以上は反論できる者はほとんどいないだろう。なにしろこの場にいる奴隷10人と兵士崩れの3人はクロインセ家が雇っている。ジルユードは書類上の主人に該当する。多少の不安と不満は封殺されても文句は言えまい。

 唯一口を挟めるとしたら貴族であるエステル・カモルなんだが、彼は何か発言する気はなさそうだった。


「おい、じゃあビィビィよお、その緑の魔族――」


「魔物だ」


「……緑の魔物はなんだってんだあ? スケルトンが両親ならおまえの子供かなんかか?」


「! ビィせんせ、そなの?」


「マカン。おまえがそんなに説教が好きだとは思わなかった。あと足崩すな。正座を続けなさい」


「うぇっ!?」


 さて。グラムスさんにつつかれたセイジロウについても皆を説得しないといけない訳だよなやっぱり。

 当然なんて言うべきかは事前にある程度考えていたさ。こいつが騒動の種になるのはわかりきっていたからな。


「このタガッパ・セイジロウという名の魔物についてだが――よくわからんうちに住み着いていた。正直俺も困っている」


「ちょ、ちょう待ってビィさん!?」


「うるさい黙れ。だがこの子、俺の弟子であるマカンが責任もって躾けるからというので飼うのを許可した」


「……いった? ううん……」


 マカン、おまえ本当にその場のノリだけで発言するの止めなさい。あとで怒られるのはお前で困るのは俺なんだから。


「だからそこの河童はマカンのペットだ。何かやらかしたらマカンの責任だ。もちろん師であり保護者でもある俺も知らん顔をするつもりはないが、最も重い責任があるのはこの子だ。まずみんなにはそのことを理解してもらいたい。つまり、文句があるならこの子に言ってくれ」


 そう言うとその場の全員の視線がマカンに突き刺さった。

 魔物を飼うということはそれだけ重い責任を負うことになる。魔物が暴れて誰かが怪我をしたり、最悪死んでしまうような事態になったらどうするというのだ。


 そうならないと言い切れるのか?

 もし魔物が暴れるようなことがあっても対処できるのか?

 本当に信じられるのか?

 言いたいことは山程あるだろう。

 

 下手をすると命に関わる重大事だ。だからこそ視線に込められた熱量も多い。

 そのあまりの注目度合いにはさすがのマカンもたじろいでいた。


「…………ま、マカン! ビィせんせのでしです! ビィせんせはりっぱです! なんかあってもマカンをみすてません! だから……だから…………せきにんは、ビィせんせがきっととる……」


「おいっ」


「いやそりゃそうだろう。ビィビィよぉ、おまえ自分で保護者名乗ったんだから知らぬ存ぜぬは通じんぜ」


「ぐっ……いや、だがそれではマカンのためにならん。この子が自分の意思でやろうとしたことなら、この子がとれる範囲では責任を負わせるべきだと思っている」


 間違ったことは言っていない筈だ。


「…………ぐすっ……うっうっ……マカンが……ぜんぶわるいから……せきにん、ぜんぶマカンが……わるいからぁ。うう……」


 なんで涙目になる。おまえこの程度でへこむような性格じゃないだろうが。

 そして見守っている奴ら全員が俺に対して「大人げない」とか「どうすんのこれ可哀想じゃない?」みたいに視線を向けてきてマカンに同情する流れになってしまっている気がしてならない。

 俺は少々マカンを甘やかしすぎてきたという自覚がある。だからここいらで厳しく接するべきかと思っていたのだが、その方針に理解を得るのは少々難しそうに感じた。


 しかもムカつくことに河童がしたり顔で口を出してきた。


「あんなぁ、ビィさん。マカンちゃんに嫌われようとも時に厳しゅうあたらなアカン思うてるのはようわかんねん。ワイの親も暖かかったけど厳しかった。だからこそワイも立派に成長できたと感謝しとる。でもな、マカンちゃんはまだまだ子供や。ビィさんしか頼れる大人のおらへん子供なんや。ここはワイの顔に免じて今だけはマカンちゃんに優しゅうしたってくれへんかな?」


「おい。今話してるのって、おまえが妙なことしでかしたらどうするのかっていう話だっていうの理解して言ってるか?」


「ありゃ?」


「ああわかったよ。お前の顔に免じてこの件にも俺が全責任を負うさ。つまりどういうことかっていうと、おまえが何かやらかしたら速攻で首を落としてやる」


「あわわわわわわ」


「みんなもそういうことだから、この河童に関しての苦情は俺に言ってくれて構わない。顔が不気味で気持ち悪いとか息が臭くてたまらないとか見てるだけでイライラするとか急に話しかけられて怖かったとか目があって悪寒が走ったとかなんでもいい。こいつが馬鹿をやったと判断した時は厳しく罰していくことにする」


「そんな殺生な……」


「だからすまないが、しばらくは敬遠しながらでもこいつがどんな生き物なのか観察してもらいたい。本当に害がないのかどうか。共存できる生き物なのかどうか。それをとりあえずでいいから考えてみてほしい」


「ビィさん……」


 父さん母さんもそうだけど、セイジロウも基本的には明るく陽気な性格をしている。本来は憎悪の対象であるべき魔族なんだが、どうにも憎めないというか恐怖を感じるような陰鬱とした雰囲気とは無縁だ。

 だからこそ特殊な条件下に限られるだろうけど受け入れてもらえる可能性があると思えた。これも人徳といってもいいのかもしれない。


 幸いというべきか、ここに集まっている人員のほとんどは立場の弱い雇われ人だ。そしてここは国の監視の目から遠い無法地帯に近い状況の場所であり、俺やジルユードは多少の無茶は押し通せる立場にある。グラムスさんたちにしても元軍人だ。上司の命令には理不尽不合理であろうとも従わなければならないことを熟知している。

 だからとりあえず父さん母さんセイジロウの3人の存在を周知させて認めさせることはこれでできたと言っていいのだろう。

 後は実際に許容できない問題が起きないかどうかだが、それこそ今心配しても仕方ない。




 これで一先ず終わりでいいだろう、と思ったらマカンが何やら難しい顔をしていた。


「……おっちゃん、わいろでばいしゅうする?」


「せえへんよ!? マカンちゃん、何言うてんの、ビィさん顔怖い怖いやめてなにも変なことしてへんからちょっ」


 ……こいつ絶対マカンに変なこと教えるよなあ。ここに居続けさせるのを認めるのは早まったかもしれん。

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