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魔王ちゃれんじ  作者: 大谷融
第一章 ビィとマカン
23/108

閑話:魔王少女ダンシング・マカン

◇◇◇◇◇◇



  ◇


 まだ商隊一行がロンデ村に到着する少し前のこと。


 日頃の蓄積していた疲れがでたのかビィが木陰で昼寝をしている間、マカンは2体のスケルトンに絡まれていた。


『ねえ持ってるよ。絶対持ってるって』


「な……ないっ」


『そんなことないでしょ。マカンちゃんは絶対持ってるわ』


 大木を背にして2人のスケルトンに挟まれた状態でマカンは弱々しく首を振って言葉と同時に否定の姿勢を取り続けていたが、2人はなかなか納得しようとしなかった。


『じゃあちょっとジャンプしてみてよ』


『ピョンピョンって。ね、できるでしょ?』


「うううう……」


『不安がることないよ。持ってるか持ってないか、ちゃんと音でわかるから。どうってことないとも』


「ほ、ほんと……?」


『本当よ。これでも耳には自信あるんだから』


『私も母さんも耳なんてないんだけどねえ。なんで音が聞こえるのか少し不思議だね。はっはっは』


 マカンは逃げ出したかった。なんで絡まれるのかよくわからなかった。

 しかしこの2人、逃げようとしてもなかなか手ごわい。そもそも同じ村の中で暮らしているので一時的な逃避はあまり意味がなかったりもする。

 なのでマカンは意を決して2人の要求通りに行動することにした。


「と、とぶ」


 そう言ってピョンピョンと何度かジャンプを繰り返した。

 いったいこれで何がわかるというのだろうか。


『ふむ。……やはりね』


『マカンちゃんは……やっぱり持ってるわ! そのリズム感は天性のものよ!』


「りずむ……?」


『そんな素晴らしい才能を伸ばさない手はないよ。次世代の魔王には強さと賢さだけでなく社交性も求められていると思うんだ』


「わかんね……」


『マカンちゃん。君は歌って踊れる魔王を目指すべきだ!』


「うたって、おどる……」


『大丈夫。私たちがしっかり指導してあげるから。頼りにしてくれていいのよ?』


「…………」


 なんとなくだが逆らえないものを感じてマカンは頷くのだった。



  ◇


『はい、1、2。1、2。そこでくるっとターン。そして決めポーズ!』 


「きめっ」


 カチャッカチャッという骨の打ち合う奇妙な手拍子に合わせてマカンは教えられた通りに踊ってみる。ダンスの種類は昔からこの村のお祭りで村人総出で踊られてきたフォークダンスの一種だ。主に連続した足の上げ下げのキレの良さで見栄えが映えるダンスである。


『……ううん。ダメだね。ぜんっぜんダメだ』


「むずい……」


『マカンちゃん、踊るのを恥ずかしいって思っているでしょ? その思いが体の動きを固くしちゃうのよ?』


「むずい……」


『難しい訳じゃないんだ。なんていうか、こう……残念だけど君からはやる気が感じられない。マカンちゃんはダンスをなめているよね? そんなことでは魔王になんてなれないぞ! 魔王をバカにしているんじゃないかい!?』


『これじゃビィのがんばりも無駄になりそうね』


「うううう……」


 マカンは少し泣きたくなってきた。

 自分が何をやらされているのかよくわかっていないのだ。やる気を出せと言われても困る。


『マカンちゃん。もう諦めるの? こんなことで魔王になる夢を諦めちゃうの? それで本当にいいの?』


『……やはり次の魔王には私がなるしかないようだね』


「が……がんばるっ」


 しかし魔王になることを諦めるわけにはいかなかった。こんなことでめげていてはいけないのだ。

 なぜこれで魔王になることを断念する話に発展するのかは全くわかっていなかったが、それでもマカンは再度挑戦する意欲を奮い立たせた。


『そうだ、その意気だ! じゃあ次は母さんも一緒に踊ってあげてくれ。マカンちゃんは母さんの動きをよく見て、合わせてみるんだ』


『わかったわ。マカンちゃん、よく見るのよ?』


「……おけ」


『はい、1、2。1、2。2回手を叩いて、また1、2。1、2――』


 マカンのダンス特訓は続く。



  ◇


『このダンスはマカンちゃんには向かないね』


 時間をかけて挑んだ結果、最終的にはそういう結論がくだされた。


「うううう……なじぇ……」


 マカンは四つん這いの姿勢でうなだれた。あれだけがんばったのに、何の成果もあげられなかったのだ。


『母さんに勝てないようじゃ見込みなしだ。これじゃ世界の壁は越えられない』


『この足の一振りで並み居る男どもを悩殺できるようになって初めて一人前よ。残念だけどマカンちゃんにはそれだけの情念が感じられなかったの……』


『それも仕方ないのかもしれないね。君の脚線美の前ではマカンちゃんは子供にしか見えないんだ。比べる相手が悪かった』


 子供にしか見えないと言っているがマカンは子供である。

 このダンスは足の長さ、美しさ、キレの良さが全てといってもよく、単純に子供体型のマカンでは大人と比べると見劣りするのは当たり前なのだ。スケルトンと比べるというのも本来シュールな光景になるのだが、そこに突っ込みをいれる人材はここにはいなかった。


『……このダンスではマカンちゃんは世界が獲れないのはわかった。これは別の手を考えなければなるまい』


『素質はあるのよ。だからもっとマカンちゃんにあったダンスで勝負すべきよね』


『しかし、残念ながら私はこれ以外のダンスは知らないんだよなあ』


『そうよねえ……』


 所詮は小さな村育ちの2人である。世間に数多あるダンスも何種類か見たことがある、程度で実際に教えられるほどの知識はなかった。


『仕方ない。振り付けから一から考えるべきか……』


 などと考えだしたところ、


「さっきから何してんの? 遊んでてええん?」


 セイジロウが通りかかった。


『やあセイジロウ君。いやね、マカンちゃんに将来のためにダンスを教えてあげようとしていたんだけど、私たちはあまりダンスを知らないことに気がついてね。それで困っていたんだよ』


「ダンスて踊りのことやんな? なんやな、それならワイに相談してや。自慢の河童踊り教えたるわ!」


『それはどんなダンスだい?』


「太鼓の音に合わせて掛け声あげて踊るんや。太鼓……はないわな。ちょっと代わりのもん用意しよか。待っといて」


 そう言ってセイジロウが用意したのは空の大きな水ガメだった。その口を獣の皮をたるみなく張って塞いでしまう。

 その皮を指先や平手で叩くとポンポンといったくぐもった音がひびいた。


「あんまええできやないけど、これで我慢やな。これをこんな感じのリズムで叩いてみてや。ああ、この棒で叩くんや。交互にな」


『わかった、やってみるよ』


 トントン、トトトン、トン、トトトン。


「ああーーあーー、えいえいさあさあっ、えいさっさー、ほぉらやいさっさー。ヨイショヨイショ!」


 水ガメで作った簡易鼓の音に合わせ、セイジロウは声を張り上げながら踊りだした。テンポ的にはさっきまでのダンスよりもゆっくりと。しかし両手を空に掲げて左右に振るなど動きの幅は大きい。


『おお、なんだか凄いね!』


『面白そうね。アナタ、私にもそれ叩かせてちょうだい?』


 トントンチャッカチャッカ、トンチャッチャ。


 棒でカメ自体を叩くことで音に変化が与えられ、さらにテンポよく生き生きとした河童踊りが披露された。

 初めて合わせたはずなのにまるで何年も一緒に研鑽してきたかのような息の合い方だった。


「さあさあマカンちゃんもご一緒に」


「おお……おどる!」


 それに触発されたのかマカンも復活した。

 無理やり何かを覚えされられるのには強い抵抗感を感じるが、楽しそうに何かをやられると加わりたくなるのがマカンの性分だった。


「「えいえいさあさあっ、えいさっさー」」


 チャッカチャッカ。




 そんなこんなで小一時間踊り狂った。マカンはセイジロウの見様見真似だが、それほど早い動きではないので若干遅れてもそれほど違和感がなく踊れていた。今は小休止だ。

 マカンは良い汗かいたぜとばかりに汗を布で拭いながら水筒から水を飲んでいる。そこにスケルトン夫婦が怪訝な声をあげた。


『……楽しかったけど、やっぱり何か違うねえ?』


『これじゃ世界は狙えないと思うのよ』


「お二人さん、河童踊りは神聖なもんで誰かと競うようなもんやないで」


『そうなると困ったねえ……』


「なんやじゃあ別の踊りにしてみよか?」


『まだ他にあるのかい?』


「あるでー。ワイの爺ちゃんは全国の踊りを研究しとった。あっちこっち旅してな、戻ってきたらどこどこじゃこんな踊りが流行っとった言うて教えてくれたんや。爺ちゃん仕込みの踊りがいくらでもあるわ。ワイに任せとき」


『ふふ。頼もしいね』


『マカンちゃんはまだ踊れる? もう疲れたかしら?』


「やる。がんば!」


 河童踊りはなかなか楽しかったらしい。マカンもやる気に満ちていた。


『その意気やよし! 一緒にダンスを極めよう!』


 こうしてマカンたちはセイジロウから提供された幾種類もの踊りに挑戦するのだった。



  ◇


 ドンドコドンドコドンドコドンドコ。


「ハッハッハッハッハ!」


 ドンドコドンドコドンドコドンドコ。


『ハッハッハッハッハ!』


 ドンドコドンドコドンドコドンドコ。


『マカンちゃんがんばって!』


「……………………なんだこりゃ?」


 だいぶ疲れていたのだろう。軽く昼寝をするつもりが熟睡してしまったビィが夕方頃に目を覚まし、マカンたちを探して物音がする方へ向かうとそこでは奇妙な光景が展開されていた。


「はっはっはっはっは!」


 2本の木の棒が地面に突き立てられ、その棒に膝の高さぐらいにあわせて1本の別の棒の両端が固定されていた。その棒の下をマカンが胸をそらしながら膝を曲げ、背中は地面につかないように倒れないように注意しながら掛け声と母さんスケルトンの鼓の音に合わせて通り抜けようとしている光景だった。


『いけるわマカンちゃん!』


 ドンドコドンドコドンドコドンドコ。


『ハッハッハッハッハ!』


「れっつ…………りんぼぉっ!」


 そして、マカンはついに最後まで姿勢を崩して倒れることなく通り抜けるのに成功した。


「やった! やりおったで!」


『すごい! すごいよマカンちゃん! それでこそ私が見込んだ次期魔王だよ!』


『これで……これできっと世界が穫れるわ!』


「だれのちょうせんもうける!」


『いやあこれは勝てそうにないね』


『マカンちゃんの未来は夢と希望に満ちているわ!』


「ええもん見させてもろたわ。爺ちゃんも草葉の陰で泣いとるで」


「…………いやホントになにやってるんだ?」


 一人まったく状況が理解できないビィを他所に大盛り上がりだった。


『ああ、ビィ。起きたんだね。見てたかい? マカンちゃんはやりきってみせたんだ! あの子はやっぱり素晴らしい素質を持っていると思ってたんだよ』


『ビィ。マカンちゃんを見込んだアナタの目はやっぱり正しかったのね……。母さん久しぶりにとても感動したわ』


「……このぶんやと、河童踊りの匠と言われたワイの名を継がせる日も遠くなさそうやな」


 などといい笑顔らしきものを見せる面々を前に、ビィはただただ誰か状況を説明してくれと思うのだった。

 次話から二章に入ります。

 次章からはキャラも増えますが、作風としてはこんな感じで続いていく予定です。ストーリーが進んでいったらちょい作風変わるかもしれませんが。


 書き溜める間しばらく間があきますm(_ _)m

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