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魔王ちゃれんじ  作者: 大谷融
第一章 ビィとマカン
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家宝の発掘

  ◇


 故郷ロンデの村に帰ってきてから2ヶ月ほどが経とうとしていた。

 最初はどうなることかと心配していたが、思いの外生活は安定し、それなりにのんびりとマカンと過ごす毎日を満喫している。


 さて今日は何をやろうか。

 小屋周辺に張り巡らせる予定の柵もまだ完成していないが、先日から始めた燻製小屋つくりもまだまだ途中だ。この小屋は以前村にあった物を母体にした大規模な修理というところだが、完成すれば燻製肉を作ったりといった用途に使える。といったところで俺も中途半端な知識しかないので火力の調整などでも苦労するのだろうが。

 しかし狩りに行けば肉はそれなりに獲れそうだし、川には小ぶりだが魚もいる。多く獲れた時には保存を考えなければならない。そんな理由もありここに拠点をつくる以上そういった設備があるにこしたことはなかった。


 それらとは別にマカンへの教育に関しても教えなければならないことは山のようにある。しかし焦って詰め込んでも溢れてしまうし、少しずつ反復させて学習させ身につけさせていくべきだとも思っている。時間はあるのだ。

 ただ戦闘技術だけは比較的早めに伸ばしてやるべきではあるので、武器を使った戦闘訓練をもう少し濃密にやっていくべきか。

 などと考えながら小屋の外で一人で朝食をつくっていた。


 ああ、小屋の中に厨房用意しようかな。雨の日とか不便だし。


 ピピピピピピッ。


 そんなおりに聞き覚えのある鳥の鳴き声が聞こえて顔をあげた。

 木々の頭上を通り越して手の上に乗りそうな小さな青い羽の鳥が飛んできていた。

 その鳥は俺の前までやってくると、すうっと風景に溶け込むように消えてしまう。


「おおっと」


 そして鳥の代わりに一つの青い石が虚空に出現したのであわててそれを掴んだ。落としてもそうそう割れたりはしないが、火の中や鍋の中に飛び込むのは遠慮願いたい。


 掴んだ石は伝石と呼ばれる魔導具で、特定の人物などにメッセージを伝える能力がある。鳥の形態をとって相手の元に届く物はかなり高度な作りの代物らしいが、特定の人物をどこまでも追っていけるようなものではなく特定の場所に絞られる。さらに距離にも制限があり、目的地が遠すぎたり扱いを間違えると墜落したり迷子になったりする困った魔導具だ。

 

 つまりこれを飛ばした相手はそれほど遠くにはおらず、俺がこの村にいることを知っている人物ということになる。

 まあこいつが来た時点で誰からのメッセージかはほぼわかっているのだが。


『――やあやあ、ビィ。久しぶり――』


 伝石に魔力を通すと内包されたメッセージが頭に流れ出した。

 しわがれた老人の声。予想通りの人物の声である。先日俺がとばした鳥を受け取ったのもこの爺さんの筈だ。

 挨拶の定型文の後に続く肝心の中身は、もうすぐここに商隊が訪れることを知らせる内容だった。




 もうすぐ商隊がやってくる。

 それは嬉しい知らせだった。やってくるのは気心知れた信頼できる顔見知りだし、ここでは調達できない物資を運んできてくれるのもありがたい。

 もう少し先になるかもと思っていたが、俺の方も落ち着いているしここに当分根を張るつもりにもなっていたから早くなって悪いこともなかった。

 ならばこれからやるべきことは、訪れる商隊を迎え入れる準備にするべきだ。

 まだ今日明日のことではないが、直前にドタバタするよりかは事前にすませておくべきだろう。


 仮宿となる家は準備できないが、彼らもそれくらいはわかっているだろうし野営だって慣れたものだ。あとは場所さえ確保できていれば良い。

 生憎とあちらこちらの地面は荒れて雑草が生い茂っているので立地はよくない。数人ならともかくもう少しまとまった人数になるだろうから、しばらく逗留する間の居心地を良くするためには広い場所を確保し手を入れる必要があった。

 それと厠として使える穴を掘ったりしておくのもいいだろう。

 火を使うために薪の準備やカマドを造るのもいいかな。

 そういったことを考えると少し楽しくなってくる。物作りは好きな方だが、自分のためよりも誰かに役立つ物を作る時の方が楽しく感じる。


 だが。

 商隊がやってくると知って心にひっかかるものが多少あった。


「……先になんとかできるならしておくべきだが……」


 実はトラブルの種に心当たりがある。

 できるなら事前にそれをどうにか片付けられないだろうか。

 しかし簡単になんとかなるのか? ……困った。


 俺が何を困っているのか。

 実はこの村――出るのだ。

 かつてこの村で生活していた村人の亡者が化けてでるのである。


『やあビィ、お早う。今日は朝から顔を見せに来てくれて嬉しいよ。……どうしたんだい? そんな深刻な顔をして』


『どうしたの? お腹痛いの? さすってあげる? あらやだ、母さん触れなかったわ』


 本当に困った。どう説明したらトラブルにならないのだろうか、この2人のことは。



  ◇


「マカン、今日は発掘作業を行うぞ」


「おー」


「目的の物はこの壁の向こうの部屋、そこが両親の寝室になっているんだが、その床板を剥がしたら剣が埋まってるらしい。その発掘が今日のミッション目標だ」


「おー」


 というわけで両親を穏便に成仏させる条件は何か考えた。その時に一つ思い出したのだ。父さんが俺に渡したかった代物があったことに。

 元々は魔族との戦争に役立てて欲しかったらしくて今はそれほど手に入れる必要があるかは疑問だが、俺個人としては今後も戦いから逃げられない人生を歩む見通しだ。優れた名剣であるならば手に入れて損はないだろう。

 人によっては訓練によって手慣れたサイズや重量の剣以外だと、逆に扱いに困って名剣だろうと足を引っ張る結果につながるが、俺はどちらかというと武器に関しては雑食だ。なんでも触ってきたし使えるように鍛えてきた。その中でも自分に合う合わないは当然あるが、そうそう持て余すことはないだろう。


 まあ、もし使えそうもなかったら売り飛ばすという手だってあるのだ。両親には今のうちから言ったりしないが。

 先祖伝来の品を手放すというと批難されるかもしれないが、大戦経験者として言わせてもらうと一つの物品にこだわるのは愚かしい。そんなことより大切なものなんていくらでもある。


 件の剣は両親の寝室の床下に埋まっているらしいが、そこに到達するのが苦労しそうだったので今まで放置していた。

 屋内から入って寝室の前近くまではいけるのだが、扉付近の屋根が崩壊していて完全に入り口がふさがっているのだ。これをどけるのも骨だし、下手に動かしてさらに屋根が崩れてくるのを誘発するのも怖かった。


「もえもえきゅん?」


「燃やすのは最後の手段だな。あと変な言い方するの止めなさい」


 マカンの魔法で一旦完全に焼き尽くすという手もなくはない。が、できればやりたくなかった。

 すでに崩れているとはいえ自分の実家に火をかけるのには抵抗があるし、埋まっているとは言え剣に影響がでては元も子もない。剣身は残るだろうがそれ以外が燃え尽きてしまっては見栄えが悪いに違いなかった。


「この外壁に穴を空けて中に入るつもりだ。俺が斧で叩き割るからマカンはどこか崩れてこないか見張っておいてくれ」


「おけ」


 木材を組んだ壁の厚みは外より中の方が圧倒的に薄いのだが、いざという時に逃げやすいのは外での作業だ。時間短縮よりも安全を優先した。

 それに俺の膂力はそこらの木こりよりも上だと自負している。そして建物自体も傷んでいて刃が入りやすい。そこまで極端な時間はかからないだろう。

 斧も手持ちの砥石で刃先は研ぎ直したし、腐っていた柄も新しい物に交換したから力いっぱい振るっても問題ない筈だ。


「せーのっ」


 気合いを入れて壁に斧を叩き入れた。




 小一時間斧を振るい壁に俺が通れそうな穴を空けることに成功した。幸いどこかが崩れてくるということもなかったので中に入っても大丈夫そうだ。


「マカン、俺は中をあさってくる。おまえは危険だから入ってくるなよ?」


「がんば」


「おう。お前は薪でもつくっておいてくれ」


「おけ」


 俺が中にいる間、それほど時間はかからないだろうが、手持ち無沙汰になるマカンには斧を手渡して叩き割った壁の木材をさらに細切れにしてもらう作業にかかってもらった。



  ◇


「父さん、どこだ?」


『ここだよ、ビィ』


『あら母さんはここよ?』


「わかってるから。今は剣の場所を聞いてるんだ。……で、ここか?」


 中に入ると床を剥がす場所を父さんに確認する。とはいっても父さんたちの姿は薄っすらとした影の塊にしか見えない。人の姿すらしていないので、どこを指しているのかは少々分かりづらかった。

 しかし父さんが移動した先で大方の目処はついた。どうやらベッドの下らしい。

 ベッドは夫婦2人で寝られるサイズなので正直に言うと少し面倒だった。床には崩れた天井の破片が散らばっていて元より動かしにくいし、所々腐っているので下手なことをしたら床を踏み抜いてしまいそうなのだ。

 これも叩き割っちまった方が早いかなあと思案する。


 頭上を見上げてみた。

 外から見て予想していたよりずっと空がよく見える。それだけすでに屋根が崩れているのだ。だから屋内で激しく動いても落ちてきた屋根の下敷きになる可能性は低そうだった。

 その分日陰を好む両親はこの寝室の中ではあまり動ける範囲が狭そうで窮屈そうにしているが、屋根がない分壁にかかる負担も軽減しているので、いきなり壁が倒壊してくる危険性もそれほど高くないだろう。中であれこれ作業するには思っていたより悪くない。


「マカン! ちょっと中に入ってきてくれ!」


 マカンの手も借りて強引に動かすことにした。

 ベッドはサイズが大きいといっても重量自体は先日のフォレストベアーの方がずっと重い。しかし片側だけを持って持ち上げるのはバランスが取りにくくけっきょく引きずることになるので、両側から持ち上げてしまうのが最も楽だった。




「えっほ、えっほ」


「足元気をつけろよ。それ踏まずにまたげ。転けるなよ、慎重に」


「えっほ、えっほ」


 声をかけながらマカンと2人でベッドを運んだ。

 そして観察。

 ベッドの下の床板の一部が木目がずれていることに気付いた。どうやらここらしい。

 簡単には剥がせないように釘を打ち付けて固定してあるので斧で強引に叩き割って地面を露出させた。


 そこからは簡単だった。

 埋めてあるといっても浅くすぐに掘り返せるほどでしかなかったため、すぐに目的の物とのご対面だ。


「これか……」


 それは長方形のろくに装飾もない鉄箱に収まっていた。

 箱を引き上げ部屋の床の上に置いてみる。ずっしりとした重さが感じられた。

 あるのはわかっていたし中身もわかっているのだが、隠されていた幻のお宝を発見したような気分になって少し興奮してきた。


「ビィせんせ、あけよ?」


「おお」


『私もこの家をたててからすぐに埋めて隠してしまったからね、この箱を目にするのは久しぶりだよ』


『確かアナタはこの箱を開けたことはなかったのよね? 長年仕舞っておいた秘蔵の品とのご対面、ちょっと興奮するわね』


 父さんたちも霊体ながらに気分が高揚しているようだ。声にいつも以上に張りがあった。

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