9 家康の兄弟子に俺はなる!【地図あり】
こんな話がある。
桶狭間の戦いの後、清須同盟を結んだ織田信長は、松平元康を遠乗りに誘い、光明寺へと連れ出した。
そこで一人の和尚を紹介した。
その和尚は、八幡太郎義家の軍法に通じているが、源氏の血筋の者にしかその軍法を教えてくれない。
「織田家は平氏だから断られたが、元康君は、清和源氏の正統の出だから、教えてもらえるよ」
と、信長に言われて、和尚にその軍法を学んだ。
軍法を学び終えたなら、源義家の名から『義』か『家』の文字を名前に入れなきゃいけないと言われて、元康から家康に改名したという。
めでたし、めでたし…
ぜってー嘘やん!誰が清和源氏の正統やねん!
あんた賀茂氏ちゃうん?どこが正統やねん!
と、ツッコミを入れたくなる話だが、軍法を授けてくれる青井意足という僧が、ここ光明寺にいる。
そして、我が森氏は、八幡太郎義家の子、陸奥七郎義隆の孫、森伊豆守頼定を祖とする、河内源氏の一流!
つまり、俺には八幡太郎義家の軍法を学ぶ資格がある!
と、いう事で、親父に話をつけて光明寺へとやって来た。
親父は、「うちの家は藤わ……」とか、意味不明な呟きをもらしそうになっていたが、森氏は由緒正しい源氏の家系だ!
なぜなら、俺の(まだ生まれていない)弟が、江戸時代に作成した家系図がここにある!間違いない!!
日光東照宮には、藤原朝臣とか彫られた燈籠が奉納されているが…ウチの家は源氏の家系なのだ!
もう!間違えちゃダメだよ、於仙ちゃん。
青井意足の教えてくれる八幡太郎の軍法って、孫子や闘戦経の事だと思うが、これで俺は徳川家康の兄弟子になるのだ!(予定)
「ではな、小太郎。年末には迎えをよこすから、それまで勉学に励むよう」
短期集中講座なので、爺ちゃんと五郎右衛門は、俺を置いて帰っていった。
えっ?マジですか。お世話する人とかいないんですか?
五郎右衛門!椎茸つぶしたら、分かってるだろうな!ちゃんと面倒みるんだぞー!
さて、年末になって迎えがきた。
寺での生活は、勉強では問題ないのだが、食事が1日2食なのと、肉が食えないのが辛い。
成長の為に、肉をくれ!
軍法の勉強は、まずまず順調で、未来で『軍師・傳兵衛』の大河ドラマもあるかもしれないと、心の片隅5%くらい夢想している。
空いた時間で、岩倉への調略をしておく。
ウチの親戚連中で伊勢守家に仕えている者たち。
もともと美濃の森氏は、蓮台の直ぐ近くにある森村に住んでいたので、そこの遠縁のものが伊勢守家へ仕官している。
やはり血縁は大事にしておきたい。勝敗のほぼ決まった今なら、血縁を頼りに来てくれるだろう。
宜しく、名も残らぬ親戚さん。
そして、いつものように山内、堀尾の両家に心を込めて文を書く。
秀吉じゃなくて、ウチにおいでよ。
牢人になるよりましだよー。
暫く勉学に励んでいると、年末だから帰って来いとお呼びがかかった。
別に出家したわけではないので、ちゃんと家へ帰って年賀の挨拶などを受けねばならない。
親父も正月の挨拶の後、信長に年賀の挨拶をしに清須へ行かねばならないからな。伝統は大事。
その間は、嫡男が上座にいないとな。うんうん。
勝蔵君には、まだ早い仕事だからな。
たぶん小太郎に軍師の才能はありません。