8 蜂須賀小六と稲田兄弟
前野さんは影が薄いので…
前野屋敷を出て、すぐ近くにある宮後城に向けて出発する。
将右衛門(前野長康)殿とは、何故かはわからないが気が合った。
幼名が小太郎仲間として、宜しくやっていけそうだな。
次の目的地の宮後城の城主は、あの秀吉の家臣で有名な蜂須賀小六だ。
是非とも家臣にしたいところだが、残念なことに信長との仲は、あまり宜しくない。好かれてはいないだろう。
もともと蜂須賀城に住んでいたが、信長の父、信秀に攻められ、側室の安井御前の実家の宮後城に移り住んでいる。
ちなみに、本来の城主だった安井御前の弟は、小六に家督を譲り、その息子は、妻の実家の浅野家に婿養子に出されて、後の五奉行の一人である浅野長政である。
その結婚相手は、同じく養女のやや。その姉が、秀吉の妻になる寧々だ。
寧々と結婚すれば、ごっそり人材横取り出来そうだが、秀吉が出世しないのは、それはそれで不安だし、スルーさせてもらおう。別に天下人を目指している訳ではないし。
禿げ鼠の小男と恋愛結婚した人を、惚れさせるような体格はしていないからな。
宮後城に何の用があるかといえば、新しく仕官した稲田掃部助景継の弟たちがいるからだ。
親と蜂須賀小六が友人で、弟たちを預かってくれていた。
この度の仕官にともない、呼び寄せることになり、迎えに来たのだ。
後の稲田植元、蜂須賀小六の家老だ。秀吉対策には少し遠いが、青田刈りは逆行転生物の醍醐味だし。
ちなみに、祖父の修理亮は、岩倉城で信安追放に協力したりしていたが、掃部助の仕官にともない、すでに岩倉城を出て蓮台城へ移っている。
「彦右衛門殿、弟どもの事ありがとう御座いました」
掃部助が蜂須賀小六こと蜂須賀彦右衛門正勝に頭を下げて感謝している。後ろには母親と弟二人と妹三人も頭を下げている。
「気にすることはない。そなた等の父、大炊助とは、義兄弟の間柄。当然の事よ。それよりも、これからしっかりと励めよ」
流石蜂須賀小六、義理堅い。親友の子供たちに対する気遣いがみてとれる。
どちらかと言うと小柄な体格に温和な顔をした、良く言われる山賊のイメージとはまったく違う男だな。
義兄弟の子が、信長の家臣の家に仕官となる事に引っ掛かりがあるだろうに、いい人だな!好漢ってやつかな。
「亀之助、それに梶之助も壮健でな。父の名に恥じぬよう励めよ。奥方らも体に気をつけてな」
「彦右衛門様には、大変お世話になりました。彦右衛門様がお助けくださらねば、私たちはどうなっていたか…誠にありがとうございました。お体にお気をつけて」
と、掃部助の母親が頭を下げる。
同じく掃部助の二人の弟たちも、神妙に頭を下げる。
「紹徹殿、小太郎殿も、皆のこと宜しくお頼み申す。三左衛門殿にも宜しくお伝え下され」
なんだろう、好感度上げるしかない立ち居振舞いだな。
秀吉にくれてやるのはもったいないが…
縁があったら、共に轡を並べ戦いましょう。
無事、家族の合流がなったところで、掃部助は、先に帰ることとなった。
稲田兄弟は、好意で手配してもらった舟で川下り。先に蓮台城へとお帰りになられましたとさ。
流石に勝手に行っといて、とはいかないからな。
余った馬は、勿論俺が乗ります。その為に、行きはタンデムで我慢したんだからな!
そして我々は、今回の旅の最終目的地に到着した。