5 いざ小折の城へ
浮野の戦いも終わった秋、親父も無事に活躍して帰ってきた。
俺は、収穫した椎茸を売りに、寄り道しながら丹羽郡小折にある生駒屋敷(小折城)まで行くことになった。あそこには曹洞宗の寺もあるし、なんとかしてくれるだろう。
本当は、生駒屋敷はついでで、宮後城に行くのが目的だけど。
馬が3頭。俺は、爺ちゃんとタンデムです。一応、言っておくと、ちゃんと一人でも乗れるよ。
まずは、爺ちゃんと武藤五郎右衛門、この度正式に家臣となった稲田掃部助と共に松倉城を目指す。
「なぜ若まで、生駒屋敷まで行くのです?近場の商家や伝手のある津島でも構わないと思いますが」
と、五郎右衛門が面倒臭そうに聞いてくる。
「少し買いたい物もあるが、途中の松倉城の坪内殿に周りの状況を聞いておこうと思ってな。我が家にとって木曽川は要だからな。少しでも誼を結んでおかないとな。美濃との戦の事もあることだし」
「ほう」と掃部助は感心してくれたが、五郎右衛門は胡散臭そうな顔をしている。
なぜだろう、爺ちゃんも「また何かする気だろう、小太郎?」と、何故か楽しそうに聞いてくる。
「なにもしませんよ。周辺の話をいろいろ聞かせてもらうだけです。何もしていないのに、問題児扱いはやめて下さい」
本当だぞ、津島に直接行くのではなく、小折へ向かうのは、木曽川流域の国人衆に利益を与えて、縁と安全を買うためだ。
将来、森家が金山に移った時にもこの川を使うのだからな。
「何をおっしゃる。以前、種籾を塩水などに浸けたりしておられたではないですか」
「あれには、ちゃんと意味があっただろう。米の収穫量も上がっている」
すかさず五郎右衛門が言葉を被せてくる。全く要らんことを。
塩水選で実の詰まったものを選んで収穫量を増やそうとしただけなのに。
あと、大豆を作らせた事だな。大豆があれば、豆腐とか枝豆とか食べられる。
石鹸、砂糖、薬などなど、やりたいことは山ほどあるが、お金もコネも何もない。
火薬なんかは、面倒臭そうなので止めておいて、簡単楽チンでウハウハを目指そう。
今なら茶器とかの買い占めってどうなんだろうか。
まだ、信長の名物狩りの前だし、唐物は無理でも、近くの瀬戸焼とか志野焼とか今のうちに手に入れておけば、千利休が値段を上げてくれないかなー。
やっぱり唐物じゃないと、まだ値はつかないのかなぁー。
登り窯とか作って、磁器とか作ってみるのもありかもな、某番組で作ってたし。
なんちゃって曜変天目茶碗とか、賭けに出てみるのもいいかも。美濃に蛍石の鉱山あるし!
まあ、金山城を手に入れてからの話だけどね。
今回の旅の目的は、宮後城の蜂須賀小六の元にいる、掃部助の弟たちを迎えに行くことだ。
将来植元と名乗る弟は、蜂須賀小六と義兄弟の契りを結び、その家老となるので、まだ元服前で義兄弟になる前に回収させてもらおうということだ。
ついでに、木曽川流域の有力者である坪内、蜂須賀、前野と生駒の家に挨拶に行こうと思っている。
生駒は、本当に蜂須賀小六に会うついでなのだが、坪内、前野、蜂須賀は、秀吉より友好的な関係になっておきたい。
だが秀吉の家臣となる者を、ごっそり奪ってしまっては、秀吉が出世できずに、その仕事を肩代わりしなければならないかも。
少なくとも、姉川の戦い辺りまでは、出世して欲しいので、そこまでの家臣には、なるべく手を出したくないな。
今はまだ、木曽川流域の国人衆と仲良くなる事を第一に、森家の力を蓄えよう。
金とコネがあれば、大抵なんとかなるものだ。