453 伊香郡東野館
殿から国境付近で伏せていろと言われたので伊香郡東野村へ向かう。
率いてきた兵は山城の方へ隠し、俺は麓の館の方へ入る。
「御無沙汰しております、兵部少輔様」
城の主である東野左馬助政行と近隣の村を治める大谷伊賀守吉房に出迎えられる。
疋壇城で別れて以来だな。
「左馬助、伊賀守も息災であったか?」
口約束だったから少し心配だったけど、2人共ちゃんと織田家に付いてくれて安心したよ。
「「はっ」」
「二人共、約定通り織田家へ仕えてくれて安堵しておる。旧主に刃を向けるのは心苦しかろうが、此度は討ち取る必要はない。寧ろ越前へ逃がす心構えで追い立てれば良い」
「宜しいので?」
左馬助が俺に擂り潰されると思っていたのか、意外そうな顔で尋ねる。
「構わぬ。無論、討ち取って手柄にしても構わぬぞ。まあ、来るのはほぼ朝倉軍であろうから、気兼ね無く戦えようがな」
こう言っておけば、罪悪感無く働いてくれるだろう。
最悪サボるかもしれないが、後で殿の命令だと適当な理由をでっち上げて土地を取り上げてしまえばいい。
働きが悪くて土地を没収されるなんて話は良く聞くし。
俺が欲しいのはコイツ等じゃなくて、伊賀守の息子である大谷吉継だしな。
朝倉軍の撤退ルートは、史実通りであれば刀根坂の峠を越えて越前へ抜けるルートとなる筈なのだが…
問題なのは調略した東野家や大谷家がある東野村、小谷村が通り道になっているので、出来れば敵が村を通り過ぎてから攻撃したい。
村で戦うと被害が大きくなって、2人に恨まれるかもしれないし。
東野さんはどうでもいいけど、大谷さんとは仲良くしておきたい。
正確には大谷さんの息子と仲良くなりたい。
やっぱり、後ろから峠へ追い立てるのが無難かな?
え〜っと、麓の柳ヶ瀬村を治めているのは…
「幕臣の椿井三河守(定房)殿に御座いますな」
大谷伊賀守が領主を教えてくれるが…誰?
幕臣って事は、ここにはいないのかな?
「三河守は山城国に居られる故、然程気にされる必要はないかと」
東野左馬助が、誰か分からず微妙な顔をしている俺にフォローを入れてくれる。
有難い。
在地じゃないなら三河守とやらも、金さえ積んでやれば文句は言わんだろう。
大樹の前で、三河守の協力の御陰で撃退出来たとか持ち上げてやれば喜ぶんじゃないかな?
しっかし、まだ始まってもいない小谷城攻めからの逃亡者を待ち受けるだけってのも暇だなぁ。
敵が来るまで皆にこの辺りの散歩でもさせるか…
この辺りは賤ヶ岳の戦いの舞台になるので、下見させても…流石に早すぎるか。
敵さん、早く来ないかなぁ…
こういう無駄な時間だけが過ぎていくっていうのは、苦手なんだよなぁ。
何か策でも考えたいところだけど、恐らくだけど俺に対してこれ以上の手柄を立てるなって言われてるんだと思うんだよなぁ。
何もないなら赤穂に帰してもらえませんかね?
流石に宇喜多さんとか三好さんとかの動きも心配なんですけど。
何も知らせが来ないから、残った奴等で上手い事やってくれてると信じてはいるけど。
帰りたくなくなる事態になる前に帰して欲しいかな。
越前に近づくのも避けたいしね。




