451 まだまだ諦めぬ
木下秀吉視点です。
山城国二条大路西洞院大路 妙顕寺 織田家家臣 木下藤吉郎秀吉
「如何に御座いましたか?」
殿との話し合いを終え、宿にしておる妙顕寺へ戻ると、与力の竹中半兵衛が結果を尋ねてくる。
「残念ながら、既に森兵部少輔殿が殿の命を受けて、江北での調略を行っておるそうだ」
但馬国で山名家との戦を終え、次に行われた摂津国での三好家との戦は、三好家が四国へ引き返した為に中途半端な結果となってしもうた。
この摂津国での戦いで大きな手柄を立て、大領を授かる事を目論んでおったのだが、肩透かしをくらった思いだ。
故に此度の小谷城攻めを前に、殿へ江北の国人衆の調略を申し出たのだが、既に兵部少輔が行っておるとして却下されてしもうた。
おのれ兵部少輔め!
毎度毎度、儂の出世の邪魔ばかりしおって!
だいたい播磨に居る筈の兵部少輔が、何故に儂より先に近江に居るのだ!
しかも既に大層な手柄を立てており、その上で更なる手柄を立てようというのか!
出世など興味ありませぬよという様な態度を装いながら、手柄を独り占めしようとは、何れだけ強欲なのだ兵部少輔は!
「左様に御座いますか。流石は兵部少輔殿と言ったところに御座いますな…」
半兵衛も冷静を装っておるが、動揺が隠せておらぬ。
兵部少輔の動きは、半兵衛でも埒の外の話であったのだろう。
摂津での戦に現れるならば兎も角、誰が近江へ現れるなどと想像出来ようか!
「しかし、兵部少輔は何故に近江へ先回り出来たのだ!」
「兵部少輔殿は朝倉家が近江を攻める事を想定して、予め丹波衆への根回しをしておられたのでしょう。そうでなくば此程早く近江へ到着する事など出来ますまい。我等が摂津へ向った事も衆目を集める為に利用し、素早く近江へ向かったのやもしれませぬな」
兵部少輔の動きに半兵衛が嘆息する。
「おのれ!兵部少輔め!」
思わず兵部少輔への恨みが口から出てしまったが仕方あるまい。
「嘆いてばかりもいられませぬ。このまま戦を終えれば、右近将監(坂井政尚)殿の与力として但馬へ向かう事となるやもしれませぬ。そうなれば藤吉郎殿の出世も難しくなる。なんとしてでも手柄を立て、近江に所領をいただかねばなりませぬ」
そうであったな。
このままでは右近将監殿の与力のまま、但馬へ向かう事になりかねぬ。
「で、あったな」
「藤吉郎殿、もう一つの話は如何に御座いましたか?」
そうであった!
半兵衛から言われたのは、江北での調略の他にもう一つ。
「そちらの話は許しを得られた。於市様を岐阜へ戻す様、備前守(浅井長政)を説き伏せて参れとの事じゃ」
「それは良う御座いました。これで於市様を取り戻した上で戦で手柄を上げれば、近江で城を得る事も叶いましょう」
そうじゃ!
殿は身内の方にとても御優しい。
ここで妹君を無事御連れ出来れば、殿の心証も非常に良くなろう。
そうなれば、この近江で城の一つや二つは頂けよう。
この藤吉郎、まだまだ立身出世、諦めはせぬぞ!




