450 宮部乱
今浜へ向かった三雲三郎左衛門が、無事に上坂兵庫助を調略して戻って来た。
これで南の佐和山から北の菅浦まで小谷城の西、湖側を封鎖出来た事になる。
しかし、横山城が落ちた事で孤立した為に已む無く降伏した磯野員昌、別の人を調略しに行ったら一緒に臣従してきた阿閉貞征、三郎左衛門が説得してきた上坂兵庫助、そして何故か知らんが摺り寄ってきた浅井井規…なんだか自分で調略したという実感がないな。
まあ、調略出来ている事には違いないんだろうけど、なんだかモヤっとするなぁ。
宮部継潤の調略くらいは、やる気を出して真面目にやるか。
森家の所領である金山から、弟の於乱ちゃんと伊集院藤兵衛がやって来る。
藤兵衛は親父の家臣で、今回の事で於乱ちゃんの傅役を命じられた男だ。
「よう来た、於乱」
「御久しゅう御座います、兄上」
まだ五歳なのに確りしてるなぁ。
俺が同じ歳の頃は、もっといい加減だった様に思う。
「話は聞いておるな」
「はっ、確りと御役目を果たして参りまする」
まだ五歳だ。
流石に不安が隠せていないなぁ。
「安心せい。これより参る宮部城は此度の戦での拠点。織田家の者も詰める事となる。継潤も無体な事をする男ではないし、出来ぬ。それに小谷城さえ落とせば、お主が宮部城に居る意味も無くなる。直ぐに家へ戻れよう。其れよりも、継潤は元々延暦寺の僧で学がある。継潤の教えを受ける事はお主の為にもなろう。確りと学んで参れ」
「承知致しました。継潤様の許で精進して参ります」
於乱ちゃんは真面目だねぇ。
「藤兵衛も於乱の事、宜しく頼む」
「はっ、命に代えても於乱様には危害を加えさせはしませぬ故、御安心くだされ」
「うむ、頼んだ」
「一命に代えましても」
おう、本当に代えてくれ。
危険は無いとは思うけど、本当に頼んだぞ!
「さて、織田家の兵が参るまであまり時間も無い。早速宮部城へ参るが、何ぞあるか?」
「御座いませぬ」
於乱ちゃんも覚悟は決まっているみたいだし、さっさと宮部城へ行くか。
「御初に御目にかかる。某、織田家家臣森兵部少輔に御座る。此れに居るは、某の弟、乱と傅役の伊集院藤兵衛に御座る」
「森乱に御座います」
俺が継潤に紹介すると、於乱ちゃんと藤兵衛は頭を下げる。
「宮部善祥坊に御座る。此度は格別の御配慮、感謝致しまする」
「なに、善祥坊殿を迎えられるのであれば惜しくは御座らぬ。よくぞ決心していただけた」
宮部継潤に向かって賛辞を送る。
俺、善祥坊さん評価してますよアピールをする事によって宮部家内での友好度を上げ、於乱ちゃんの身の安全を買う作戦だな。
「於乱よ、善祥坊殿は近江随一の識者よ。学べる事も多い。今日より善祥坊殿を父と思い敬い、尽くせよ」
「はっ。養父上、これから宜しく御願い致しまする」
俺が於乱ちゃんに継潤に尽くす様に言い含めるが、於乱ちゃんは承知していると言わんばかりに継潤に頭を下げる。
流石は於乱ちゃん。
自分のやるべき事を理解している。
「ううむ、流石は兵部少輔殿の御舎弟に御座いますな。いやはや、将来が楽しみな男子に御座る」
継潤も於乱ちゃんの事を気に入った様で、於乱ちゃんの傅役に、自分の家臣の中から田中久兵衛という男を付けてくれた。
田中久兵衛といったら後の田中吉政の事だろう。
田中吉政といえば豊臣秀次こと宮部吉継の傅役。
於乱ちゃんは、無事秀次のポジションを奪えた事になるのかな?
その後の話もサクサクと進み、正式に於乱ちゃんを継潤の養子に入れる事になった。
これにより於乱ちゃんは、宮部乱可継と名乗る事となってしまった。
なんかその内、切腹させられそうな名前に似てるけど…まあ、大丈夫だろう。




