443 竹丸が!
播磨へ帰る前に権六殿と飲みながら世間話をしていたら、突然播磨への帰宅にストップが掛かった。
どうやら江北の国人衆を調略したと報告したのが原因みたいだ。
殿からは播磨へ戻れと命じられているので、無視して帰ってもよいのだが、折角だし、のんびりとさせてもらおう。
翌朝、待てと言った権六殿ではなく、殿の側近である堀久太郎(秀政)がやって来る。
「此度の御活躍、御見事に御座いました。流石は兵部少輔様に御座いますな」
「何の、偶々よ。近江での備えが、偶々上手く嵌まった形となっただけよ。それより、権六殿ではなく久太郎がやって来るとはな…。何ぞあったか?」
別に久太郎が屋敷に来る事は珍しい事ではない。
殿からの使いは、元俺の小姓だった久太郎である事が多いからな。
でも、権六殿が殿の許へ向かった後に、殿の側近である久太郎がやって来たんだから、殿の命で何やら厄介事を持ってきたのだろう。
殿は人使いが荒いからなぁ。
立場の弱い俺では、素直にハイハイと聞くしかないんだけど。
「兵部少輔様には江北の国人衆を調略せよとの命に御座います。某も同道する様に言い付かっております」
「儂がか?他の者でも出来よう?何なら殿が直接御声掛けなされた方が国人衆も喜ぶと思うのだが?」
その為に権六殿に教えたんだしな。
「何でも兵部少輔様は、己でなければ調略は難しいと仰ったそうですが?」
は?
「いや、普通に寝返るか分からぬと言いたかっただけなのだが…。この話を権六殿にしたのも、播磨へ戻る前に残っている仕掛けを知らせておこうと思っただけなのだがな」
利用しないともったいないから、教えただけなんだけど。
「でありましょうな。某もそう思ったのですが、黙っていた方が兵部少輔様の為になると思い口を噤んでおりました」
いや、言ってくれて良かったのよ?
俺の目的は達成したから、もう要らない仕掛けなのよ?
後は本能寺の変まで、気楽に暮らしたい。
「いや、良かったのだがな…」
「それに某も手柄を立てる機会があるやもしれませぬし」
お前が手柄を立てたかったのかい!
もしかして自分から俺の軍監に立候補したのか?
抜け目のない久太郎の事だし、殿から命じられなくても、自ら売り込んだんじゃないかな?
「ところで殿、竹丸の事は御聞きになられましたか?」
竹丸?
竹丸って久太郎の後に俺の小姓をやっていた安孫子竹丸の事かな?
久太郎と同じ様に殿へ差し出した…
「安孫子竹丸の事か?」
「左様に御座います」
竹丸がどうかしたのか?
「竹丸の父親である柴田家の安孫子右京進(忠頼)殿が野村での戦にて討ち死に致しまして…」
「何?右京進が?」
「はい。残念ながら…」
竹丸の父親である右京進は権六殿の家臣で、俺が子供の頃にウチで働いていた事がある。
権六殿がウチの酒を確保する為に派遣してきたんだけどな。
久太郎も竹丸と右京進、両方見知っているからな。
「そうか…。右京進には儂も世話になった(なったかな?)」
「はい」
竹丸に、お悔やみの言葉くらいは言ってやらないとな。
「それで?竹丸が父の後を継いだか?」
でも竹丸の方が出世してるしな。
「いえ、竹丸は先日、殿の命で長谷川丹波守様の養子となりました」
「何?丹波守殿の養子に?」
え?長谷川丹波守…与次殿の養子に?
「はい。竹丸は名を長谷川藤五郎秀一と改め、ゆくゆくは長谷川家の家督を継ぐかと」
与次殿とは茶会や歌会で会っているので知り合いだが、与次殿に子供は居たっけな?
覚えてないけど、弟の橋介殿は史実と違って出奔せずに織田家に居るけどなぁ。
しかし、竹丸が長谷川家にねぇ…うん?長谷川秀一?
あれ?
長谷川秀一って、後に15万石の大名にもなったあの長谷川秀一か?
竹丸が長谷川秀一だったなんて!
くそ!だったら殿に、もっと高額で売り飛ばしたのに!




