442 小癪な真似を
織田信長視点です。
山城国三条坊門小路室町小路妙覚寺 織田尾張守信長
傳兵衛への詰問も終わり、吉兵衛(村井貞勝)と共に近江の事で差配について詰めの話をする。
「備前守(浅井長政)殿へは、先ずは使いを送り降伏を促すという事で宜しいですか?」
「うむ。先ずは備前守の話を聞く」
吉兵衛の確認に頷く。
「備前守殿は降りましょうか?」
「さてな。勝ち目無しと見れば、或いは有り得るやもしれぬ。その上、江北三郡を安堵してやれば降り易かろう」
「三郡を安堵に御座いますか?浅井、伊香の二郡は分かりますが、坂田郡は半ば奪われております。六角家等が煩うは御座いませぬか?」
確かに右衛門督(六角義治)等からは文句を言われようがな。
しかし、備前守が降るのであれば説き伏せよう。
「そこは何とかしよう」
「しかしそうなると、兵部少輔殿に与える領地が有りませぬが?」
そこが頭の痛い所であるな。
備前守へ領地を安堵すると、傳兵衛に与えられる所領が無くなる。
何とか成らぬか?
「うむ。如何したものか…」
「但馬を与えますか?」
「いや、但馬を傳兵衛に与えると右近(坂井政尚)や久蔵(坂井尚恒)が不満に思おう」
但馬を切り取ったのは右近親子だ。
それを傳兵衛に与えては、森家との間に再び溝が出来よう。
折角婚姻で両家の仲を取り持ったというに…
「左様ですな。では、生野銀山は如何に御座いますか?」
「いや、銀山は直轄とする。既に代官も送っておるしな」
「でしたな。兵部少輔殿だけならば、銘のある太刀等を与えれば喜びそうではありますが、流石に下の者達が黙ってはおりますまい」
であろうな。
さて、どうしたものか…
「殿」
「如何した久太郎」
吉兵衛と共に頭を悩ませていると、近侍の堀久太郎(秀政)がやってくる。
「修理亮様がいらっしゃいました」
何?権六が?
確か傳兵衛と共に屋敷へ戻った筈だが…
「通せ」
傳兵衛の事で何かあったか?
何やら嫌な予感がするが、流石に考え過ぎか。
「権六、如何した」
「はっ、傳兵衛の事に御座います」
考え過ぎなどではなかったか…
「傳兵衛が如何した?」
「江北の国人を幾人か調略済みとの事。朝倉家の退路を塞ぐ事も叶いますれば、殿へ知らせねばと」
「何?」
何処まで手を伸ばしておるのだ傳兵衛は!
「ただ、傳兵衛も彼奴等が確実に浅井家を裏切るとは言い難いとの事に御座る」
他の者では寝返らせる事は難しいと…
つまり、国人共を寝返らせたくば己を連れて行けと言いたいか、
「ほほう。つまり傳兵衛は、彼奴等を寝返らせたくば、己を小谷城での戦に連れていけと?」
「恐らくは」
傳兵衛め、小癪な真似をしおるわ。
大手柄を立てておきながら、この上まだ貪欲に手柄を望むか。
父親の三左(森可成)以上に血の気の多い奴よ。
「ふっ、良かろう。傳兵衛にその国人衆の調略をさせよ」
「宜しいので?」
手柄の独り占めとならぬかと心配しておるのだろう吉兵衛だが、今更傳兵衛の功績が増えたとて大した違いもあるまい。
「構わぬ。今更だ」
儂の返答に吉兵衛と権六も頷く。
「では、某は傳兵衛の許へ…」
「いや、傳兵衛の許へは久太郎を遣る」
権六が傳兵衛の許へ戻ろうとするが、それを止めて久太郎を向かわせる。
「久太郎、傳兵衛の許へ赴き、調略の件を伝えよ。その後は傳兵衛と共に江北へと向かい、調略を手助けせよ」
「はっ!承知致しました」
久太郎が目附役となれば、多少は傳兵衛も自重もしよう。




