440 後の事は殿にお任せ
権六殿に連れられて、京へ戻って来られた殿の居られる妙覚寺へと到着する。
別に逃げたりしないのに…
する理由もないし。
到着すると直ぐに殿の前に通される。
「さて、傳兵衛よ。何か申し開く事はあるか?」
開口一番、殿はそう申される。
「御座いませぬ」
「何も無いと?」
俺の回答に、殿は目が細められる。
「はっ。反対に御尋ね致しますが、何を申し開けと仰有られますか?」
オレ、ワルイコトシテナイヨ?
「ほう?では先ず、お主は何故摂津ではなく此処に居る?」
最初から説明せよと?
よろしい!殿に俺が無実だという事を理解してもらおう。
「殿の御命令で右近将監(坂井政尚)殿が摂津へ向かわれた後、某もと思ったのですが兵が足らず、先ずは近江に居る当家の兵と合流しようと敵を避け丹波より京へ向こうたので御座います」
これは本当の事で嘘は言ってない。
敵を避け丹波を通って、近江の兵と合流するべく京へ向かったし。
まあ、摂津に向かう気は更々無かったんだけど。
「では、延暦寺の件は如何か?お主が園城寺を唆して山に火を放たせたとも聞いておるが?」
「それは有り得ませぬ。某が京へ着いた時にはもう、園城寺は坂本へ攻め入った後に御座いました。園城寺を唆す時間など御座いませぬ。それに延暦寺では山に残っておった僧と協力し、延暦寺の宝物を麓の洛北へ移しております。決して焼き討ちの荷担などしてはおりませぬ」
焼き討ちの犯人にされては堪ったものじゃない。
「お主は関係がないと?」
「無論に御座います。園城寺が坂本へ攻め入ったのは、某が京へ着く前に御座る。流石の園城寺も某が京へ戻っておるとは思いもしておらぬ筈。もし、某と園城寺に密約があったとすれば、某が京に居らねば動く事はありますまい」
俺の説明に殿も納得の表情を浮かべて…おられないな。
何故か腑に落ちぬといった表情だ。
「山を登ったのも、寺を焼く為ではないと?」
「先程も申しましたが、あくまで延暦寺の宝物を守る為に御座います。殿下(近衞前久)や座主(応胤親王)にも知らせております。確かに御二方の返事も待たず延暦寺へ押し入ったは咎められる事やもしれませぬが、返答を待っておっては宝物を守る事は叶わなかった事に御座いましょう」
殿下と座主の許可を得ずに延暦寺へ兵を入れたのは責められても仕方ない事だと認めてしまおう。
その御陰で宝物が焼失する事を防いだのだから、座主も強くは言い返してはこない筈。
焼失を防いだ側だからね。
「ふむ…まあ今は良かろう。御二方には儂からも話をしよう」
おお!殿が話をつけてくれると!
「有り難う御座いまする」
やったね!二番目の心配事が解消されたよ!
これで後の事は心配せずとも良くなった。
殿は頭が痛そうに額を押さえておられるが…まあ、殿の事だから大丈夫だろう。
延暦寺の宝物の事も、殿に任せてしまえば適当に処理してくれるだろうしな。
ちなみに一番は家族の安全だな。
「さて、今後の事だが…このまま北上し小谷城を落とす」
おや?浅井家滅亡って、まだまだ先の話だったよね?
「摂津の方は宜しいので?」
摂津の方もゴタゴタしているけど、浅井家を討伐する余裕はあるの?
「心配せずとも、敵の切り崩しを試みておるところだ。三好家も四国へ退いた故、此方に降り易かろう」
荒木村重なら、寝返る可能性大かな?
三好家に固執したりはしない筈。
池田勝正、知正がどう思うかは知らんし、後々の火種が残るだけの様な気がするけどね。




