41 於久地の戦い
岩室重休視点です
於久地城 岩室長門守重休
三郎様に命じられ、於久地城に突入する。
於久地城は、織田下野守信清が治める犬山城の支城となる。
犬山城を攻める為に、是非とも落とさなければならぬ。
それにしても、信清め!三郎様の従弟でありながら、一色と通じて反旗を翻すとは!
必ずやその首を叩き落としてくれるわ!
さて、敵将は何処だ。
塀を打ち壊して城内へ共に攻め込み、市橋伝衛門らと共に敵将を探す。
辺りを見渡すと、こちらへ駆けてくる一群を見つける。
率いているのは、四十歳程の武者だ。
「この隊の将とお見受けする!某は於久地城城主、中島豊後守が臣、寺沢藤左衛門!いざ尋常に勝負願おう!」
挑まれれば、
「織田上総介が臣、岩室長門守!お相手つかまつる!」
と、応えねばなるまい。
二合三合と槍を合わせ、相手の槍を躱したところに、石突きで胸を打つ。
ドッと倒れたのを見て、周りの者に、「捕らえよ」と命じる。
此度の戦いは、裏切り者の織田信清の成敗が目的だ。
美濃との戦いを前に、尾張の者同士で争う必要はない。
出来るならば降伏して欲しいものだが、流石に虫が良すぎるか。
その時、一息ついて油断した訳ではないだろうが、寺沢藤左衛門を取り戻そうとした兵に槍を突かれてしまう。
「くっ!」
蟀谷に向けて穿たれる槍先を眺めながらも、頭に浮かぶのは正月の勝負。
森三左衛門殿の嫡男が放った蟀谷への一撃。
あの時と同じように、体を後ろへ反らしていく。
眼前に槍が通り過ぎるのを眺めながら、倒れ込む。
互いの将を救おうと兵たちが雪崩れ込むなか、本陣より退却の合図が届く。
結局捕らえる事は出来ずに、寺沢藤左衛門を取り戻されてしまう。
「「退くぞ!」」
と、互いに兵を退き本陣へと戻る。
しかし、今のは危なかった。
偶然ではあろうが、正月の時と同じ蟀谷への突きでなければ、食らっていたか…
いくら攻めの三左の子といえども、元服前の童に引き分けたのは屈辱であったが、あれがなければ討ち取られていたやもしれん。
複雑な気分ではあるが、何事も経験しておくものだな。
しかし、この於久地城を攻め落とす事は叶わなかったか。
流石は中島豊後守というところか。
これは存外、苦戦しそうだな。
信清自体は、どうという事はないが、流石に家臣には優れた者がおるな。
一色や武田、遠山などの援軍も見込んでおろうし…
このような所で足踏みなどしておれぬのだが、全く忌々しい限りだ。




