31 槍の稽古
宴会の翌日、下方左近殿の館に稽古に向かう。
俺は酒造りの印象が強いので、内外に槍働きも出来るとアピールし続けなければならないのだ。
金勘定は武士の働きではない、と軽く見られてしまうから、武士としての評価をあげないと。
熱田の戦いでアピール出来たと思うかもしれないが、俺を知らない人は当時九歳の子供が、本当に活躍したとは思わないだろう。
周りの家臣の手柄を、俺の手柄にしたと思うのが普通だ。
だから、強い人に俺の実力を認めてもらい、強さを皆にアピールしなければいけないと思い、親父に頼み込んだのだ。
下方左近殿は小豆坂の七本槍の一人にして、織田家一番槍ランキング、柴田権六様ら並居る諸将を抑えての堂々の第一位の猛者だ。
技量も力も胆力も体力も、相手が勝っているのだから、当然敵うわけもない。
唯一勝てそうなのが、体の柔らかさくらいだが、あっさり見切られてしまう。
仕方がないので、ひたすら防戦して隙を窺うが、どれだけ粘れるかという勝負になってしまった。
稽古なので、たまに打たせてくれるのだが、服部右京進親子を吹き飛ばした(と噂されてしまった)打ち下ろしもあっさり防がれてしまう。
馬上じゃなかったから、高さが足りないせいだと思うことにしよう。
まあ、敵前で思いっきり体を捻ってる時点で隙だらけで使えないのだが。
振りかぶると打たれるので、コンパクトな振りになるのだが、年齢のせいでパワーが足りない。
技量も劣っているので隙をつくことも難しい。
払おうが巻こうが対処されるのでツライ。
足で砂を蹴ってやろうかと思ったりもしたが、酷い目に遭いそうなので自重する。
自然と突きが主体になっていく。
防いで突いて戻すを繰り返していくうちに、なんだか良い感じになっている気がする!
ワンパターンにならないように工夫しているが、左近殿も分かっていて付き合ってくれているのだろう。
段々楽しくなってきて、捻りを加えたり、踏み込みが鋭くなったりしては、調子に乗って撃沈されるを繰り返す。
結局、5本中1本を運良く当てただけの惨敗に終わってしまった。
しかし、突きのスキルがアップしたような気がする!
トレーニング量を増やしたいが、成長期にやり過ぎは禁物と聞いた事があるからなぁ。
本当か嘘かは知らんが、我慢しよう。
さて、今回のイベントは終了したので、あとは蓮台に帰るだけだ。
俺は戸田の領地を貰ったから、毎年清須へ来なければならないのだろうか?
まだ、領地は親父預りだし、登城したりもしないのだが。
早く蓮台に帰って、新しく蒸留酒にもチャレンジしたいところだが、今年から美濃攻めが本格化しそうなので、暇がないかもしれない。
木樽で蒸留器を作れる人が近場にいるかなぁ。
九州の職人を連れてくるという訳にもいかないし。
桶職人といえば福島正則の親父さん、というくらい有名だが、態々蓮台まで連れてくる理由がないから、地元の職人に任せるか。
尾張一の職人とかいうのなら、連れて行く理由にはなるのだろうけど…
仕方ない、福島正則は秀吉に任せて上げよう。




