293 赤松義祐
赤松義祐視点です。
播磨国飾西郡置塩村置塩城 赤松左京大夫義祐
この置塩城へ籠城してから幾日が経っただろうか…
儂等が龍野の下野守を討伐せんと、備前の浦上家に助力を頼むと、下野守は別所家のみならず、京の大樹にも援軍を頼みよった。
これら敵方の援軍によって多数の城を落とされ、危うい所であったが、阿波の篠原家より援軍を得る事が出来、岫雲斎殿の援軍が到着するのと浦上家が下野守を討つまでの時を稼ぐ為に籠城する事となったのだが…
「安芸守、まだ篠原家の兵は来ぬか?」
側に控えている鳥居安芸守(鳥居職種)に尋ねる。
「既に播磨へ入り、高砂城を落としたと聞き及びましたが、それ以降の話は…」
それは儂も聞いておる。
しかし、城を囲む別所家や摂津の国人達には、背後を突かれたという動揺が見られぬ。
無論、岫雲斎殿が高砂城を落としたとの話が伝わった時には、敵にもかなりの動揺が見て取れたのだが、今はそれもない。
「まさか岫雲斎殿は、既に敗れたのではあるまいな…」
「其れこそまさかに御座いましょう。岫雲斎殿が簡単に敗れるなど、考えられませぬ」
ならば何故未だに現れぬのか…
安芸守と二人で思案していると、安芸守と同じく奉行人の四宮勝介(四宮祐久)が現れ小声で話しかけてくる。
「殿、岫雲斎殿より書状が届きました…」
岫雲斎殿より書状が届いた事を小声で話すとは、如何なる訳か?
「勝介、如何した?」
「それが、書状を届けに参った者が、篠原家の者ではなく、織田家の者で…」
「なんだと!それは如何なる事か?!」
何故、織田家の者が、岫雲斎殿の書状を持参したのか?
勝介から書状を引っ手繰ると、書状の内容を確かめる。
内容は、篠原家は織田家と和睦して阿波へ引き揚げる、というものだった。
岫雲斎殿の名と共に、織田家の島田弥右衛門と森傳兵衛の名が記されている。
「どうやら岫雲斎殿は織田家と和睦し、阿波へと逃げ帰った様だ」
安芸守に書状の内容を教え、溜め息を吐く。
篠原家の兵が阿波へと退いたとなれば、我等の戦も更に厳しいものとなる。
勝ちの目は無いやも知れぬな。
「殿!一大事に御座います!」
気落ちしている所へ、安芸守、勝介と同じく奉行人の祝融軒周登が現れる。
周登は慌てておる故、良くない報告なのだろう。
篠原家の撤退という話を聞かされ気落ちしている所に、更に悪い話を聞くのも億劫だが、聞かぬ訳にもいかぬ。
「英賀の三木家が、兵を収めるとの事に御座います。なんでも大坂の法主よりの指示であると」
篠原家に続いて、三木家もか…
「口惜しいが、ここまでか…」
無念を呟くと、三人も項垂れる。
「殿、如何為されますか?」
安芸守が尋ねてくるが、答えは決まっておろう。
「周登、織田家と別所家に和睦を申し入れよ」
主家に成り代わろうとする痴れ者の息の根を止めてくれようと思ったのだが…忌々しい限りだ。
「下野守の風下に立たれると申されますか」
勝介も呻く様な声で無念を述べる。
「業腹ではあるが、家を潰す訳にはいかぬ」
沈痛な雰囲気の中、織田家への臣従を決める。
しかし、このままでは終わらぬぞ。
織田家が京に戻れば、また機会は訪れよう。
和睦を申し出ると、直ぐに織田家の島田弥右衛門と申す者がやって来て、儂等は龍野の下野守の後詰めの為の兵を出す事となった。
下野守を救う為に兵を出すなど冗談ではないが、然りとて出さぬ訳にもいかぬ。
渋々龍野へ兵を率いらせる為に、嫡男の次郎を呼び出す。
だが、織田家の要請により兵は出すが、浦上家と戦う必要はない。
その事を良く良く次郎に言い聞かせ、龍野へ送り出す。
あと一歩で下野守の首を取る事が叶うのだ。
ここは出来るだけ時を稼ぎ、下野守の力を削いでおかねば。
織田家や池田家が畿内に戻れば、再び下野守を攻め滅ぼす事も叶うやも知れぬしな。




