166 いらん事、言うなよ
岐阜城へ向かうと親父と平井宮内卿、平野右京進、久蔵、久蔵の家臣の瀬田左京が、待ち構えていた。
「で、如何なりましたか?」
親父に、殿と殿下の会談の結果を聞く。
「岐阜に屋敷を建て、殿下の妹君の屋敷とする事が決まった」
これで織田家と近衞家は良い関係になりそうだな。
後で本願寺と対立した時に仲裁してくれるか少し心配だが…
それにしても…
「妹君がお越しになられるのですか?」
なんで?
「うむ、朝倉左衛門督の継室として嫁がれたが、離縁して京へ戻られたとか…」
ひ文字姫かな?
朝倉義景に嫁いだが、離縁されたらしいし。
親父は離縁したと言っているが、殿下が離縁された妹を庇っているのだろう。
態々、妹を送り込んでくる辺り、殿との婚姻も視野にいれているのかもしれない。
熟女好き(この時代での)の殿なら受け入れるかもしれないなぁ…あれ?未亡人好きだっけ?
まあ、ひ文字姫の話は、いいや。
「で、殿下と殿との話し合いは如何な事に?」
そっちの方が大切やで!次はいよいよ上洛もあり得るからな!
「このままでは、富田武家の左馬頭任官は認めざるを得ぬそうだ。おそらく翌年の頭には許可がおりよう。若狭の左馬頭様には一刻も早く上洛して頂かねば、向こうが大樹の位まで授けられるやもしれぬ」
まあ、向こうが十四代将軍だからなぁ。
今から上洛を急げば、義昭が十四代目になれるかもしれないが、それが良い事なのか悪い事なのか、分からんなぁ。
出来れば足利義栄の左馬頭就任は諦めて、三好義継が松永久秀と結んで、三好三人衆と対立をはっきりと示した来年の二月以降の方が良いと思うが。
「三好は今、左京大夫と日向守らとの対立が続いております。来年春までには、家を二つに割る事になるやもしれませぬ。左馬頭就任は諦め、家が割れてから上洛を目指すのが良いのでは?」
「傳兵衛…お主は、いつも何処からその様な話を聞いてくるのだ…」
親父に言われたので、チラッと右京進の方を見る。
三好家に関しては、情報源を詮索されても良い様に念の為、実際に右京進のコネを使っての情報収集もしているので、知られても何の問題も無いはず。
右京進は適当に誤魔化しておいてくれ…
「まあ今は良い。後は久蔵が殿の直臣となった」
まあ、構わないかな。
陪臣よりも直臣の方が聞こえが良いし。
「申し訳御座いませぬ。与力としてお仕えする事は認めて頂けましたので、御許しくだされ」
久蔵が謝ってくるけど、殿の直臣となる分には全然構わないと前々から言っているのだが。
それに与力としてって…領地が変わるだけで、今とあんまり変わらんやん。
「傳兵衛。明日、関白殿下の御召しだ。支度をせよ」
「はっ?とても殿下にお会い出来るような身分ではありませぬが?」
頑張って抵抗してみる。
公家とか面倒なイメージしかないのだが…。
「殿下より是非にとの御召しだ。心して受けよ」
おかしいなぁ?普通、呼び出されるなら久蔵か親父だと思うんだが…久蔵の主は親父だし。
そんな考えが表情に出たのだろうか、親父が話を続ける。
「久蔵が殿下に、そなたの事を嬉々として話しておったわ」
おおう…オノレ久蔵メ…やっぱり会わなきゃ駄目かぁ。
織田家中の派閥争いやコネを使った調略くらいが俺の限界で、流石に他国との外交や公家とのやり取りとかは無理なんじゃないかなぁ。