16 松岡家で
熱田に着いた俺たちは、加藤順盛の屋敷へと向かう。
下之一色村城では、大したイベントも起こらなかったので割愛させていただく。
熱田の有力者の加藤氏。きっと有名な人材を紹介してくれるに違いない。わくわく。
「山田喜三郎宗清と申します。どうぞ、宜しくお願い致します」
誰?へー、家康の手習いの先生をしていた事があるんだ。
どこかで聞いた話だな。
よくは知らないが使えるのだろうか。
なんなら文官にこだわらず、違う山田さんでも良かった気がする。
字は綺麗だし、手紙外交には使えるか。
弟さんがいるんだ。なんなら家族も呼んでもらってもいいんだよ。
「良き方を紹介して頂き有難う御座います」
と、微妙な内心を悟られずに笑顔で感謝しておく。
いいんだ、増田長盛さえいれば。
帰りには山田村に寄るから、引っ越しの準備しておいてくれと、喜三郎を送り出す。
さて、熱田に来たからには又左衛門(前田利家)殿に挨拶しておかねば。
松岡家にいるというので訪ねると、又左衛門殿と長八郎(村井長頼)殿が出迎えてくれる。
黒母衣衆に松岡っていたなぁ。親族かな?
長八郎殿は又左衛門殿の家臣で、出仕停止となった又左衛門殿にも付き従う忠臣だ。
権六郎(柴田勝家)様や半羽介(佐久間信盛)様などの武官は親父を訪ねて蓮台城へ来ることがあり、その折に挨拶させられるので顔を会わせた事がある。当然、又左衛門殿やそれに従う長八郎殿にも会ったことがある。
「又左衛門殿、お久しゅうございます。お元気そうでなによりです」
「おお、小太郎殿、よく来られた」
又左衛門殿は少しやつれたような気がする。出仕停止が大分堪えているようだ。
「此度の事、森三左衛門様に骨を折っていただき、誠に感謝しております、とお伝え下され」
長八郎殿は丁寧に感謝してくれる。
「この御恩はいずれお返ししたいが…」
又左衛門殿、暗いな。
「戦で手柄でも立てれば、直ぐにでも戻れましょう。又左衛門殿ならば大丈夫にございます」
まだ数年戻れないけどな。
「うむ、必ずや殿のお側へ戻り、御恩をお返し致す」
が、やはり元気がない。酒を飲んで愚痴ってると聞いたのだが、仕方ない。
「そろそろ、今川が動きそうな気配があります。恐らく翌年の夏前後。大戦になりましょう。手柄を立てる好機に御座います」
「ほう!では、槍の腕を磨かねばならんな!」
チョロいな、又左。手柄を立てる機会があると分かると、元気になった。でも、手柄立てても戻れないんだよなぁ。
長八郎殿の方は、何で分かるんだと言いたげな表情をしているけど。
「家督を譲ったことや前線の城主を入れ替えたこと、米の動きなどを見ていると、なんとなく分かるものです」
などと、適当なことを言って誤魔化しておく。
「それよりもこの機会に是非とも、槍の又左殿に一手御指南給りたく」
と、稽古をねだる。やっぱり稽古は格上の人と戦いたいよね。
夕刻、乙福という松岡家の娘さんが呼びに来るまで、稽古を続けた。
でもなんか又左衛門殿と乙福、この二人怪しい…
山田さんの諱の宗清は、父親の宗純の宗と子孫の通字の清を足しました。




