14 ごめん…他の人に頼んでくれ
さて、津島に到着して、太郎左衛門を大橋邸へ使いに出す。
その間に、市で刀や槍を眺めたり、その鍛治屋の名前を聞いて雑談したり、冷やかしながら町をウロウロする。
さすが津島、ウチの町とは段違いに栄えているなぁ。
なにも買わないのもアレなので、五郎助という鍛冶屋の槍を一本と替えの穂先を買って、梶之助に預ける。
なんの変哲もない普通の槍だが、将来何かの役に立ってくれればいいのだけど。
暫くして太郎左衛門が帰って来たので、大橋重長の屋敷へ向かう。
すぐに中へと通されると、男が二人待っていた。
「お初にお目にかかります。森三左衛門が嫡男、小太郎にございます」
と、いつもの台詞を吐く。
「おお、そなたが小太郎殿か。お噂は、かねがね。某が大橋清兵衛に御座る。この度は新しい酒を造られたそうで、我が家でも大層な評判になっております」
俺の噂の事も気になるのだが、まずは酒の話か。
まあ、その為に人を紹介してくれるのだから、構わないのだけども。
どうせなら有名武将を頼みますよ!
「父も酒造りには乗り気なので、今年はこちらにも卸せるかと思います」
ウンウンと嬉しそうに頷いてるよ、清兵衛さん。
「それはそれは。三左衛門殿には、何卒宜しくお伝えください」
ところで、清兵衛殿の隣に控えている人は誰だろ?
この人が紹介してもらう人材だと思うんだけど。
ひょろっとして、あまり強そうに見えない。
まあ、文官ぽい人を頼んだからかな?
「某、この度、清兵衛殿に紹介を受けました、平野右京進長治と申します」
でも、親父と同じくらいの結構な歳だと思うけど、大丈夫なんだろうか。
そんな考えが顔に出たのか、右京進殿が、ニコニコ説明してくれる。
「某は養子でしてな。義父は元々、津島におりましたが、上総介様と戦い敗れ、各地を転々としておりました。
数年前に津島に戻り、某を養子としましたが、上総介様の処へ仕官するのを快く思わず、毎日愚痴を聞かされております」
と、苦笑混じりに答えてくれる。清兵衛殿が続いて、
「そこで、織田家でも実力のある、森様に仕えてはどうかと。
満休殿も、津島にいる為には、織田家へ仕えるしかないのは、わかっておられます故、直臣でなければよいのではと」
満休っていうのは、右京進殿の義父の法名らしい。
清兵衛殿も、満休って人にさっさと出て行って欲しいらしいな。
「某も、三人目の子が生まれたばかり。生活がかかっております故、どうかお願い致します」
うむ、物凄く正直にぶっちゃけたな。
あまり、武士らしくないけど、元々実父が公家の出らしい。実父や兄は、少納言だとかなんだとか。
なんで平野家に養子に出されたのだろうか?もっといいところはあるだろうに…
織田家が上洛して、朝廷との関わりが増えれば使える人材…なのかもしれないなぁ。
でもそんな話、全然聞いたことないけどなぁ。
ということで、平野右京進長治を家臣に加えた。
ごめんね、今年生まれたばかりの長泰くん。
陪臣の子だから、この世界でも大名にはなれそうにもないよ。
君クラスの武将なら、手離す気はないから。
別の世界があるならば、そこの転生者か何かに、大名にしてもらえるように頼んでくれ。




