122 甲斐での釣果
井ノ口の町が岐阜に、稲葉山城が岐阜城に改名された頃、新しく貰った領地で雑用をこなしていると、甲斐国に送った者達が帰って来た。
勝三郎以外。
斎藤内蔵助、前野将右衛門、竹腰摂津守、本多弥八郎、堀尾茂助らと共に出迎える。
内蔵助と摂津守は会ったこともないだろうし、紹介も兼ねて。
「よう戻った。して、首尾はどうであった?勝三郎は如何した?」
皆の様子を見る限り、勝三郎に何かあった訳でもないだろう。
「曽根内匠助殿が、既に駿府へ落ちられた後だった為、勝三郎殿は内匠助殿を追って駿府へ向かわれました」
いや、確かに曽根昌世を家臣に欲しいとは言ったが、駿府まで追いかけなくても良かったのに…
出来ればで良かったのだが…
昌世も駿府へ逃げた後、武田に呼び戻されるまで、義理立てしているのか、残った親族を慮ってか知らないが、何処かに仕官したという話は聞かないから、ウチに仕官してくれる可能性も低いと思っているのだが…
まあ、何かしらの成果を持って帰ってきてくれれば良いか。
「して、其方らはどうであった?」
「はっ、某は武田太郎殿の元家臣である雨宮十兵衛殿を連れて参りました。この者、槍働きに優れ、必ずや殿の御期待に沿うことができましょう」
ふ~ん、雨宮さんねぇ…知らん!
村上さん家にそんな名字の武将がいたような気がする。
渡辺六左衛門が自信たっぷりに報告してくるので、かなり期待出来るのかもしれない。
「我等は名取将監殿と、天野加兵衛殿をお連れしました」
奥村藤蔵が、此方の顔色を窺うように報告してくる。
堀田新右衛門は黙って控えている。
うん、どっちも知らないな。
「将監殿は先代、無人斎殿に疎まれ信濃の地にて遁世しておりましたが、此度加兵衛殿の力もあり、召し抱える事が出来ました」
無人斎って武田信虎の事か…疎まれてって、何かしたのかな?
「将監殿は、何やら無人斎殿をお諌めしたところ、疎まれてしまったとか」
俺の顔を見て言葉がたりないと思ったのか、新右衛門が説明を足してくれた。
信虎に箴言できる立場にいたなら、だいぶ地位が高かったのかな?
信虎のイメージが悪いから、相対的に名取将監がまともな人の様に感じてしまうが、実際にはどうなのかな?
「天野加兵衛殿は…恐らく、板垣駿河守殿の令孫に御座いましょう」
うん?今、板垣とかヤバイ名前が聞こえたけど聞き間違いだよな?
「今、板垣と申したか?」
摂津守が、俺が怖くて確認出来ない事を確認してくれる。
「はっ、かつて武田家の両職にあった板垣駿河守殿の令孫でありましょう」
たしか両職にあった板垣信方が討ち死にして、息子が後を継いだのだが、使えなくて職を剥奪された上に寺に押し込められて、誰かさんに殺されたんだっけ?
家は信方の娘婿が継いで、嫡流の孫は…どうしたんだったっけ?
え~、これって武田家からどう思われるだろう…
「十兵衛と将監に関しては、そのまま召し抱えよう。問題は加兵衛殿か…皆、どう思う?」
取り敢えず、ウチのブレイン共に話を振ってみる。
「加兵衛殿は蟄居を命じられたと聞き及んでおります。武田より何か言うてくるやもしれませぬな」
摂津守は否定的なようだ。
「当家を頼り落ち延びたのだ、無下には出来ますまい」
茂助は容認派。
「既に別の者が家督を継いでおる。家督を取り戻そうとしなければ、案外何も言ってこないのではないですかな?」
将右衛門は楽観派。
「天野と偽名を名乗っているのです。武田が何か言ってくれば、そのまま天野某を雇い入れたと言えば宜しいかと」
内蔵助は知らない振りをしていろと。
「内蔵助殿と同じく。殿は、人の縁を用いて事を成すのが得手に御座れば、甲斐への伝手を持つ加兵衛殿を留めれば、何れ殿が役立てる事でしょう」
弥八郎も賛成っと。
って俺、そんなに伝手ばかり使ってるのかな?
結構、槍働きとか美味しい所は頑張ってるつもりだけど。
まあ、いいや。
取り敢えず賛成4、反対2かな?
「加兵衛殿には後で会って話を聞くが、当家で召し抱える事としよう」
まあ、何とかなるだろう。
甲斐お使い編5 完
連日投稿終了
板垣加助に偽名で、天野加兵衛を名乗らせました。
一応、母方の姓です。たぶん。