10 森一家
五郎右衛門が迎えに来て蓮台へと帰ると、年始の準備と、来年の岩倉城攻めの準備をしなければならない。
それにともない、稲田掃部助の上の弟、亀之助くんが元服して初陣を迎える。
十五歳で初陣、普通かな?頑張って活躍して、森家の武名を上げて来て下さい。
下の弟の梶之助くんは、俺の小姓になりました。現在、十歳。
小姓には早い気がするけど、俺の年齢に合わせたのね。
本当は小姓などではなく(そんな身分でもないので)、ただの御付きの者というか、学友というか、見張り役というか、研究助手というか…
えっ?五郎右衛門が、大変だと脅かしてくるって?
大丈夫、楽しくて楽チンな楽々な職場です。怖くないよ。
さて、今年のお米の収穫量は、昨年より多かった。塩水選の効果が出たのかは分からないが、増えたと言っていたので、今年は、規模を拡大していくそうだ。
あと、椎茸栽培を大幅増加する。留守が長引いたけど、椎茸菌、死滅してないだろうな、五郎右衛門!
色々やりたい事はあるが、まずは、我が愛しきブラザー於勝ちゃんに挨拶しなければ。
森家唯一の常識人たる小太郎くんが教育してやらねば、将来が心配だ。
乳母のお立に任せておいたら、鬼武蔵ルートに一直線に違いない。
ぜひ四天王には、他の人がなって欲しい。福島正則とか水野勝成とか冨田長繁とか。
もう少し大きくなったら、とある武将が、坊主を虐殺したり、関を燃やしたりする話をしてやろう。
きっと将来、その武将のことを反面教師として、自重した行動をとってくれるだろう。
筆を猫じゃらし代わりにして弟の於勝ちゃんで遊んでいたら、乳母のお立に追い出されたので、妹達に見つからないように撤退を開始する。
森家には、現在三人の娘がいる。長女・菊、次女・藤、三女・松。これに、まだ生まれていない四女・梅を入れて、同母の四姉妹。
人呼んで、出戻りシスターズ。まあ、今いる三人は、本人のせいではないけど。
長女の夫は、本能寺の変で討死。
三女の夫は、長久手の戦いで討死。
次女の夫は、後にとある理由から、森家に居辛くなって出奔している。
四女は…まあ置いておこう。
妹も森家の人間だということで。
この世界では、幸せな人生が送れますように。
年が明けて、永禄二年(西暦1559年)一月。
親父たちは、岩倉城を攻めに出ていった。
亀之助は無事に元服して、稲田太郎左衛門植元と名乗って、初陣することとなっている。
さて、親父が戦に出たということは、日課の時間以外は、自由だということだ。
下っぱ扱いしている五郎右衛門といえども、戦になれば親父と出ていってしまう。流石に古参だからね。
いつもなら、独り寂しく実験エリアで、研究に勤しむのだが、今年からは、助手が手に入った。
小姓の梶之助を連れ、以前に生駒屋敷で注文していた物を引っ張り出す。
生駒の商売と言えば灰だ。いろんな灰を集めてもらった。ついでに油も、動物植物性問わず、沢山の種類を集めてもらった。
灰と油があれば、やはり石鹸を作ってみたい。俺が植物油担当で、梶之助が動物油担当だ。
梶之助、もっと離れてくれ。臭いからな。
出来たものは、皆の意見を聞いて候補を絞っていこう。これで少しは、死亡率が減ればいいな。
最後に濁酒や、布や紙で濾してみた物を小分けにして、炭や灰を適当に種類や分量をかえながら放り込んで、今日は終了だ。
灰をぶち込んだら清酒になったという逸話の知識しかないので、本当にそうなるのかもわからない。
水車もあることだし、いっそのこと精米からやったほうがいいのかな?
種類を増やして、数打ちゃ当たるの精神で、少しでも結果が出れば、本職に丸投げだ。
妹たちの名は、四女以外適当です。




