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100万回転生したネコ


とあるネコが100万回生まれ変わった


転生というかただの生まれ変わりです申し訳ございません

注意! 人、者=己、自己意識のある生物


100万回転生したネコ01話


 ある時我がしもべが100万回生きたネコという絵本を読んでいた。

 その中に登場するネコが100万回生きたという。

 その話を僕から延々と聞かされた。

 

 我々にとって人間ごときは食料を作り、運ぶ僕である。

 その立場が分からぬ者もいるが、概ね自分の立場をわきまえた人間が多く、暮らしやすい。

 腹が減ったなら、一人暮らしの人間女の家の前で「腹が減った」と言えば、それに気付いた人間女は飯を持ってくる。

 虫などを狩るのは楽しいが、やはり人間は食事係なだけあって、なかなか良いものを作る。

 とはいえ、食べ過ぎると人間ごときと同じ病気になってしまう。程々が良い。

 それも分からぬ愚か者が食べ過ぎてブヨブヨになってしまう。まこと愚かなり。それではまるで僕である人間と同じでは無いか。

 

 私は肉体の管理はもとより、狩のテクニックを鍛えるのに余念無し。

 僕の人間がたまに道具を使ってスパーリングパートナーをこなす。なかなか優秀な僕に恵まれている。

 私は生来体が小さいので、単純な腕力ではあのドブ色の野郎に敵わない。

 しかしそれでもこの界隈で一定の評価を得ているのは、たゆまぬ自己管理の賜物である。

 私に習う猫も多く、タマ(これは人間女が私に付けた名称である。美しい名前なので気に入っている)一派として少しずつ力を増してきている。

 

 だが、所詮の猫の寿命は5年程だ。長くて10年。

 私はもう9歳になる。

 人間に全ての世話を任せているたるんだ連中はなんと20年も生きる者がいるという。果たしてそれが良い事なのか分からない。

 私は孤高を気取る者共よりも人間と関わる事が多かった。何事も程々が良い。

 だが、9歳になり、体の衰えを感じ、生まれた時から人間と関わり、僕と仲良く暮らす者共に、嫉妬を感じずにはいられない。

 大地に生まれて10年。その間に我々は何をできるというのか。

 タマ一派の者共はまだ心許ない。もうすこし見守っていたいのだが。

 

 

 やがて、視界にモヤがかかる様になった。

 

 私は歩いた。


 歩きながら、ふと、あの人間女が持っていた絵本の事を思い出した。

 一日の半分を家の中で過ごす人間は、外の風景や世の事を絵に描かねば知り得ないらしい。なんとも悲しい生き物であるが、そのために作られたモノは、我々ネコからしてみても、面白いものであった。

 100万回生きたネコ。


 私は歩いた。


 あるネコが100万回生き、何度も生まれ変わり、多くの人生を過ごしたという。

 

 私は歩いた。

 

 その猫は最後の最後に、愛する者の死によって世界の意味を見失い、とうとう復活できなくなったという。

 

 私は歩いた。

 

 なるほど人間の好きそうな恋愛の話である。あいつらは年中発情期だ。多産ではないから必要な性能なのかもしれない。とはいえ、たかが発情と交尾にあれほど意味を見出すとは、なかなか面白いものだ。

 

 私は歩いた。

 ネコの終わりの『墓場』へと。

 

 やがて辺りが暗くなった。

 

 ゴツゴツと肉球に当たるものがある。

 暗闇の中でうっすらと白く浮かび上がるそれらは骨であった。

 人間は分かっていない。

 死とはこの様なものなのだ。

 

 星空に突き刺さる尖塔が立ち並び、その陰で辺りは闇に沈んでる。

 まるで谷の底を歩いている様だ。

 我々ネコは皆、分かっているのだ。

 この場所と、そして自分が横たわるべき場所を。

 

 そして私は眠りについた。

 

 

 □

 

 

 ふと、気付く。

 

 私は眠ったはずではなかったか?

 体が浮き上がる。そして煩い。

 遠い記憶を掘り返されるような妙な感覚があった。

 

 それからしばらくして視界がはっきりしてきた。

 

 あの絵本というものは本当の話だったらしい。

 おそらく、体験したネコが何らかの方法で、人間に伝えたものだろう。

 人間の文字などは簡単過ぎて学ぶ事が恥ずかしいとネコ界隈では言われているというのに、どこの恥知らずがその様な事をしたのか。

 

 多くの同胞の魂を知っている。

 彼らは隙間からたまにこちらを覗いている。

 それが死というものだ。

 しかし、私はそうはならなかった。

 これが私の運命なのだろうか。

 

 私は家猫として生まれ変わった。

 



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