百合好きが美少女三姉妹の長女にTS転生した結果がこちら
『雨水ラブコメ企画』の参加作品です。
姉妹百合、TS百合要素が多分に含まれております。
企画の詳細はこちら
https://twitter.com/runandesu/status/944849017267134465
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/450796/blogkey/1859813/
追伸
2作目上げました
『転生神なんだが、姉妹百合はサイコーだな!』
https://ncode.syosetu.com/n5229ep/
コメディ寄りのモノです。
受験シーズン真っ盛りな寒い日。
「妹を妹に取られた………………」
そんな戯言を、ベッドに寝そべりながら呟いている女の子。
今年で18歳になる薄桃色髪の美少女である私、春恵だ。
何言ってんだコイツだって? だって仕方がないじゃない!
昨日まで、私に『お姉ちゃんお姉ちゃん』と甘えてきていた朱梨と衣緒乃が、朝食でそっけない態度だったんだよ!?
それは、先ほどの朝ごはんの時。
常に私を取り合うように競い合っていた妹2人が、仲睦まじい様子で微笑みあいながらご飯を食べさせ合いをしていたのだ。
「はい衣緒乃、あーーーして」
「あーん」
「おいしい?」
「ん、朱ねぇおいひーよ」
「ふふ、食べながら喋っちゃだめでしょ?」
「はい、朱ねぇもあーーーんして」
「あーーーん」
微笑みあっている2人の間には百合の花が咲き乱れているように錯覚するほど。
だからいつもの様に私も2人に、
「ほ~~~ら衣緒乃ぉ。こっちもあ~~~ん」
「ツーーーン」
私がおかずを箸で三女の衣緒乃へ食べさせてあげようとすれば、そっぽを向かれる。
‟ガーーーンッ! そんなぁ!?”
いつもなら、次女の朱梨へ食べさせようとする分まで食べようとして朱梨に怒られているのに!
それならば、と気を取り直して朱梨のほうに向き――――――
「あ、朱梨ぃ。あ~~~んして♡」
ショックを顔に出さないように、笑顔で朱梨に食べさせようとする。
きっと朱梨なら食べてくれるよね!
しかし結果は、
「(プイッ)」
こちらはもそっぽを向かれてしまった。
いつもなら、頬を染めながらも恥ずかしそうに食べてくれるのに!くれたのに!!!
ショックのあまり固まっていると、目の前で再び2人の甘い食べさせあいが始まった。
それから、味が分からないまま朝食を終えて自室に戻ってきた私は、ベッドの上で黄昏ている。
“もう……なにがどうなっているんだよぉ!”
本来、百合好きな私にとっては、とても眼福な光景のはずが素直に喜べない。
生前の口調が出てしまう程、モヤモヤしたキモチを抱えながら今までのことをボンヤリと振り返った。
それは春恵が俺だった、寒い師走のある日。
数年間通い続けた会社への通勤路、朝の寒さにウンザリしながら信号待ちをしていると目の前で手を握り暖を取り微笑み合っている女子高校生の2人組が居た。
2人の間には友情以上の何か、それを感じさせる熱い想いが見て取れる。
これはまさに百合カップルではないか!
“あぁこんなにも尊いモノが拝めるとは! 百合の女神さまありがとうございます!”
百合とは、まさに現在社会に現れた癒し。
百合大好きな俺にとって、人生を彩ってくれる最高のスパイス。
友達同士の様な距離感から、深く愛し合う関係。年の差や、実姉妹などの禁断の恋。百合と名の付くものなら漁りまくり、その多くはアニメや漫画、それらの二次創作百合が大半。
しかし、こうして現実の百合を拝めるとは!
限りある学生時代を百合の花で彩る2人。それは儚く、美しい、汚してはいけない尊いもの。
この2人が末永く愛し合えるよう、百合女神の祝福があらんことを!
心の中で感謝と祝福をしながら百合成分をたっぷりと補給している俺と、2人の世界に浸っている百合カップル。
出来ることなら、この最高の世界に浸りながらコーヒーでも啜りたい。
しかし、そんな雰囲気は悲鳴によって引き裂かれた。
悲鳴の方角を見ると、あり得ないスピードで走るトラック。その軌道は丁度、信号待ちをしている俺達にぶつかるコース。
“逃げなきゃっ!”
そう思って前を向き直ると、恐怖からか全く動かない百合カップル。
“尊い百合カップルを、こんなところで失うわけにはいかないッ!”
俺は咄嗟に、服の襟首を掴み火事場のクソ力で出来るだけ遠くに放り投げた。
これで軌道上から逃れたはず、あとは自分だけ。
あとどれだけ距離があるのかなぁと、チラッと横を見れば既に目の前に迫り来るトラック。
‟あ、オワタ/(^o^)\”
そうして俺は、為すすべもなく轢かれた。
この時俺は願った。
もし生まれ変われるなら、百合カップルを間近で見られる人生を送りたい……と。
死んだと思ってたら、知らない天井が見える。
“オギャー!?”
意識が再び覚醒した俺を、美人な男女がこちらを見下ろしてる!
そして、声が変だ!!!
どうやら願いが叶ったのか、俺は生前の記憶も持ったまま生まれ変わりを果たした。美人夫婦の長女、春恵として。
そして名前から分かる通り女の子になってしまったぁ!
‟オウ マイ ガー ! まだ童貞なので返品を要求する!”
はじめは性別が変わったことにショックを受けが、女性ならば間近で眺めても違和感がない! とポジティブに気を取り直す。
災い転じて福となす、とは正にこのこと!
そしたら、俺があまり手間のかかる赤ん坊でなかった所為か、翌年に次女の朱梨、翌々年には三女の衣緒乃、2人の妹が生まれ『もしや、禁断の姉妹百合が間近で見られる!』と当時は幼女ながらも大興奮。
なぜなら、両親が信じられないほど美形。ならば妹達も美形になると予想したからだ。
“美形姉妹による姉妹百合…………控えめに言って最高だろ!”
俺は妹達を百合に目覚めさせて、2人の百合百合な関係を最前列で眺めるために、小さい頃から一人称は“私”に変え、妹達に嫌われないよう優しいお姉ちゃんを目指した。前世では妹が居なかったので、初めての妹ということで優しくつもりだったけど。
意外なことに、母親とその妹である叔母が百合好きで、我が子も百合の道へ引きずり込むべく幼い頃から私と妹たちを百合漫画やアニメを見せるなど英才教育を施した結果、美しく育った妹たちを百合の道へ誘うことが出来て万々歳。
私自身が、妹達と百合百合な関係になるというオマケ付きで。
‟ど う し て こ う な っ た”
朱梨はこんな良い所があるよ、衣緒乃には違う良い所があるよ、とお互いを好きになるように良い所を妹たちに言い続けていたら『そんな風に私たちの良い所を見つけ出せるお姉ちゃんが好き』という雰囲気になってしまった。
母親たちは元より父親も、
『どこぞの馬の骨とくっ付くより100億倍良い! でもお父さんも構ってね』
理解力ありすぎるでしょッ!
ちなみに、ちゃんとした告白は受けていない。
予定とは違ったけど、嫌じゃない。
2人とも違った性格と容姿で、どちらも美少女。
実妹といえど、元男としては嬉しいから、これでもいいよね!
そんな私たちの日常風景の一例をあげよう。
例えば昨日のこと、
「もう……お姉は長女なんだから、もっとちゃんとしないと! 私達まで恥ずかしいでしょ」
そう言って土曜日の朝、寝起きで寝癖が付いている私の髪を整えてくれるのは、今年高校2年生になる朱梨。
紅色の髪の毛を私が誕生日にプレゼントした花のアクセサリー付きのゴムでポニーテールにしている。
紅い瞳に少し強気な眼付きでキリッとした美人さんだ。
「朱梨、ありがとう。 今日も美人さんだね♪」
「もう、お姉のバカッ! 朝から何恥ずかしいこと言っているの……」
とお礼と一緒に褒めてあげると、頬を赤くして照れながら罵倒してくる朱梨。それでも寝癖を直す手は止めないのは、嬉しく思っている証拠。
こんな風なやり取りは、ほんの序の口。
さらには、
「うんしょっ」
「衣緒乃、どうしたの?」
ソファーでテレビを見ながら寛いでいると、今年高校に入学した衣緒乃が隣にやって来たと思えば、横になり私の膝に頭を乗せてきた。そして、腰まで伸びてる藍色の髪の毛が、まるでひざ掛けのように広がる。
どう見ても膝枕です、ありがとうございます。
「ん~? もちろん春ねぇの膝枕で寛いでるの」
「なるほど」
「なるほどなの」
何がなるほどなのか、私自身も分からないけれど納得してしまった。
だって可愛いし!
私が寝ていれば横に寄り添って寝てくる、ソファーに座っていれば隣に座り寄りかかってくる、まるで人懐っこい飼い猫のような妹が衣緒乃なのだ。
今更これぐらいで驚いていては、この妹の姉はやっていられない。
「衣緒乃……アンタなにやってるの?」
寛いでいるところに朱梨がやってきた。
キリッとした目尻が上がり切れ味を増しているが頬を見るとムクれており、拗ねているのが一目で分かる。もちろん、理由は私が衣緒乃を膝枕しているから。
朱梨もこっちにおいで、と言おうとしたらスタタタッと早足で私の隣に座り、衣緒乃の反対側からそっと私に寄りかかってきた。
「朱梨?」
あまりにも早い動きに驚いき、声をかける。
嫌ではないんだよ? ほんとだよ?
まるで加速装置でも付いているかのような動きだったから、ちょっと驚いただけで。
「別にいいじゃない……衣緒乃だけズルい…………」
横から覗く朱梨の顔は、少し赤くなっていた。
衣緒乃は朱梨のことは気にする風もなく、「ぬくぬくぅ」と言いながら私の膝で頬をスリスリさせ堪能している。
“もうこの妹たち可愛すぎッッッ!”
本当ならこの姿を第三者として眺めたい。
2人の体温と百合の波動に悶えていると、遠くから話し声が聞こえる。
「はぁ~~~本当にいいわぁ~」
「まったくねぇ~~~」
それはまるで、私が行いたかったことを代弁するようなセリフ。
実際に、目線を動かせば少し離れたところで母親とその妹である叔母がダイニングテーブルで肘を突き合わせて、優雅に紅茶を飲みながら私たちの様子を眺めている。
是非ともそこに混ぜて欲しい。同志として語り合いたい。
そう思わずにはいられないけど、嬉しいやら悲しいやら、自分が当事者だから無理なんだよね……。
さらに耳を傾けていると叔母からこんな発言が、
「でも最近は、少しマンネリ気味だから早く一線超えてくれれば良いのに」
オイ、唐突に何言ってんのこの人。
いや百合好きとしては気持ちはわかるけど、叔母としてその発言はどうなのよ。
「キスぐらいしちゃえばいいのにねぇ」
と母親も爆弾発言。
その一瞬、ピクッと妹2人が動いた気がする。
それにしても、まったく他人事だと思って好き勝手言ってくれるなぁっ!
「優柔不断なままだと、そのうち嫌われちゃうぞ」
叔母の一言に、今度は私がビクッとなった。
確かに2人から明確な好意を寄せられているのに、それに対して答えていないのだから心に刺さる。
こんなにも可愛らしい2人のどちらかを選べだなんて、そんな辛い決断ができるのであれば、そいつは人間じゃない!
とはいうものの、やっぱりどうにかしないとダメなのかな……。
正直、この関係を壊すのが怖い。
ならば、このまま3人仲良く過ごしていたい。
そんな風に思っていたツケが回ってきたのか、次の日になったら妹同士がイチャラブしていたのだ。
「ハァ~~~~~。どうしよう」
むしろ、どうしようもないよね。
むしろ、当初の予定通り。
むしろ、2人の中からどちらかを選ばなくてよくなった。
むしろ、むしろ、むしろむしろむしろ…………………。
そんな言い訳ばかりが頭の中で飛び交う。
「あーーーーーもうっ! どうしたらいいのぉおおおお!」
叫び声が漏れないように手繰り寄せた布団に顔を突っ込む。
百合好きとしては喜ばしいことで、姉としても2人の幸せを願っているけどぉ!
裏切られたような、悲しいような、複雑な気持ちが渦巻いていて考えがまとまらない。
考えることを放棄した私は、そのまま布団にもぐり続けた。
気が付けばそのまま寝ていたようで、近くに置いてあった携帯を確認するとお昼過ぎの13時。
こんな時は、いつもなら妹たちが起こしに来てくれるのに、起こされなかった。気を使われたのか、もう私のことはどうでも良くなったのか。
“嫌われちゃったのかなぁ……”
また、考えが悪い方向へ向かおうとした時、ぐぅ~とお腹が鳴り思考が中断。
妹たちと顔を合わせ辛いけど、お昼ご飯が用意させているかどうかをそーっと居間に確認にしに行けば、タイミングが良かったのか2人は居間におらず、私の昼食も無かった。
少し放任主義で私たちの自主性に任せているところがる両親なので、お昼の時居なかった私の分は無いみたい。
「丁度いいから、気晴らしに行きますか」
そう思い、近くのカラオケへ向かうことにした。
お前受験生だろ?と思われるだろうが、前世の記憶があるおかげで勉強も出来て品行方正に過ごしていたおかげで、推薦で近くの大学へ進学が決まっている身。だからのんびり出来ているのだ!
カラオケで大声で歌って、気晴らしながらご飯をたべよう! 我ながら名案。
私はモヤモヤした気分を吹き飛ばすべく、早速カラオケへと向かった。
春恵がカラオケに出かけた頃、私と衣緒乃は2人で私の部屋に居た。
椅子に座る私と、ベッドにうつ伏せになる衣緒乃。
別に2人でイチャイチャしている訳じゃない。そもそも今朝のアレだって好きでやったわけじゃない。
「春ねぇ、ショック受けてたね」
ベッドの上にあったクッションを抱き寄せ、顎を乗せながら呟く衣緒乃。
ぼんやりと呟かれた言葉は、まるで私を責めているようにも聞こえてしまった。
あの時のショックを受けたお姉の顔を思い出すと、チクチクと心が痛む。
「なによ……衣緒乃だって賛成したじゃない」
衣緒乃が私を責めている訳ではないと分かっていても、そんな言葉が出てしまう。
こうなるだろうとは思っていたけど、実際に目の当たりにすると心に来る。
それは私だけじゃないはず。衣緒乃だって…………。
「ごめん、衣緒乃」
「んーん、気にしてない」
「……ありがとう」
衣緒乃は本当にいい子だ。
私の気持ちを分かっているから、こんな反応で返してくれる。
どうして私たちが、お姉に対してツレナイ態度をとって2人で……その……イチャイチャして見せたのか。
それは昨日の夜に遡る。
お母さんと叔母さんの『一線を越えろ』だの『キスをしろ』だのと一言に乗せられた私たちは、その日の夜に師匠とも呼べる2人に相談に来ていた。
もちろん、相手はお母さんと叔母さん。
ただお母さんたちの言葉に乗せられたわけじゃない。お姉が今年で高校を卒業してしまうからだ。
入学予定の大学は家から近い。とはいっても卒業してしまえば一緒に居られる時間が減ってしまう。なにより、私たちの目の届かないところに行ってしまう。そしたら最悪の事態が発生してしまう可能性に思い至ったのだ。
ただでさえ高校に上がる時も大変だったのに、それ以上に綺麗で可愛らしくなったお姉を他の人が放っておくわけがない。
だからその前に、もう一歩進んだ関係に成っておきたい。
「それで、春恵との関係を進めたいから知恵を貸してほしい……と」
そう言って腕を組むお母さんと叔母さん。
普通の家庭ならこんなことは相談できないけど、何しろ私たちをお姉好きに目覚めさせた張本人たちなのだから。
何より私たちの関係を一番応援してくれている。
私たちが生まれた時、流石に3人は辛いということで育児を手伝う為に叔母さんが家の空き部屋に住まうことになった。そして現在、叔母さんの部屋に詰め寄せていた。
「春恵ちゃんは、結構奥手だからねぇ」
頬に手を当ててため息を吐く叔母さん。
その仕草は女の私でもドキッとしてしまうほど色っぽい。
この人は、百合を見て楽しみたいだけのお母さんと違い、レズの人だ。未だに親しい女性が何人も要るとか居ないとか。たまに、お姉をイヤラシイ目で見つめてくるので気が気でない。
「いっそのこと、2人から春恵ちゃんに迫っちゃえば?」
「「だめっ!」」
叔母さんの提案に即座に反対する私と衣緒乃。
そんなことを許してしまえば、どこで先を越されるか分かったものではない。
結構抜け目ない衣緒乃相手では、分が悪い賭け。
さらに現在、私と衣緒乃は春恵不可侵条約を結んでいる。
内容は簡単。
・抜け駆けして春恵に対して、一線を越える行為をしない。
・春恵に近づく輩は2人で協力して追い払う。
となっている。
なぜこのようなものを結んだのか。
実は、お姉本人は自覚が無いようだけど、すごいモテる。
美人3姉妹と噂される私たち、それはモテる。そしてお姉は、両親に負けず劣らずの美形で、大らかな雰囲気に優し気な眼、腰より下に伸びた薄桃色のフワッとした髪はまるで優しさを身にまとうかの様で、誰にでも優しく、人の良い所を多く見つけ、微笑む姿は癒しと慈愛に満ちており、ファンの間では密やかに『聖母さま』と呼ばれるほど。
崇拝にも似た想いを持っている人も居るが、中には男女の関係、もしくは姉妹の契りを結ぼうとする有象無象もいる。さらには卒業が近いことも相まって、告白を企む輩が増えてきていた。
それらからお姉を守るために忙しい私たちは、お互いに思わぬ抜け駆けがないように手を組んでいた。
「でも、現状に変化がないと春恵はあのままよ?」
お母さんが言うことはもっともだ。
でも抜け駆けを許す訳にはいかないの!
解決案が出せない私と衣緒乃は唸り声をあげる。
むしろ今の状態で安定してしまったからこそ、うまく抜け出せない。だからいい案が出ない。
何も出ないまま時間が過ぎていく中で、お母さんの妙案が。
「だったら、朱梨と衣緒乃がイチャイチャすればいいのよ」
「なるほどねお姉ちゃん。それで春恵ちゃんに焦らせて、関係性を進める作戦ね」
「「それだっ!」」
即座に食いつく私たち。
確かに、他に関係性を変えようとしたらこれぐらいしか方法がないかもしれない。
他の方法といえば――――
お姉が他の人に告白されたり、いやいやこれは絶対にダメ!
私が男子と付き合……論外ね。
お姉以外の女子と付き合うとか…………相手はお姉以外考えられないわ!
そうなると、残りは衣緒乃と。
たぶん、衣緒乃も同じ考えでしょうね。
こうして作戦を実行された。
結果は上々。
むしろ効き過ぎているかもしれないわね…………。
「今日はこのまま続けるとして、春ねぇは単じゅ……純粋だから簡単に騙されてたね」
「そうね。あれだけ私たちがアピールしておきながら、今更嫌いになるわけ無いのに。まったく、私たちの愛がどれ程なのか分かってないわ!」
今考えると、コロッと騙されたお姉に少し腹が立ってきた!
確かに衣緒乃は可愛いくも愛おしい妹であり恋敵だけれども、一番大好きなのはお姉だっていうのに。
「でもさ、朱ねぇ。私たち、1度もちゃんと告白したことないよね」
「それは! ……たしかに」
元々春ねぇにベッタリと甘えていた私たち。
それから春ねぇを1人の女性として好きになって、お互いに気持ちをこっそりと打ち明け合い、春恵不可侵条約を結んでしまったので、告白する機会はなかった。今の現状は、それが原因と言われたらグゥの音も出ない。
「あたしも、春ねぇが大好きだけど、朱ねぇも好き」
「なっなによ急に!?」
唐突に始まった衣緒乃の告白に顔が熱くなる。
え、まさか演技じゃなくて本当に……!?
そう考えると急に胸が高鳴る。っていやいや、私が大好きなのはお姉なんだから!
「今の関係も好き。だけど春ねぇと、もっとあ~んなことや、こ~んなこととかしたい」
「ちょっ! なっなななな何言い始めているのよアンタは!!!」
「朱ねぇはしたくなの?」
「ッ!?」
少し眠たげな青い瞳が、まっすぐに私を貫く。
アナタはどうなの?と問いかけてくる。
まるで私の心の内を見透かしているかのよう。
「わ、私だって……その、し……したいし」
「ナニを?」
「え……エッチなこと……とか」
顔から湯気が出ているのでは、と思うほど熱い。
もう私何言ってるの!?
ここまで言う必要なかったのに、衣緒乃のあの眼に見つめられると話さなければいけないような気がした。
「あたしは、キスしたり、恋人のようにデートしたりっていみだったんだけどなぁ。
朱ねぇのエッチ」
「なっっっ!? い、衣緒乃ぉぉおおお、絶対にわざとでしょ!」
「フフ、バレた」
「いーーおーーーーのーーーーーー!」
したり顔でのたまう衣緒乃。
こっこのヤロウ!
恥ずかしいことを言わされて怒った私は、逃げる衣緒乃を追いかける。
私たちはふざけ合いながらも、明日からどうするかを話し合った。
翌朝。
カラオケで気分爽快、元気ハツラツ!
妹たちのことは、もうなんてこと――――――無いわけないじゃんッ!!!
昨日カラオケから帰ってきた私の前で、またもや見せつけるようにイチャラブする朱梨と衣緒乃。
膝を突き、前のめりになりました。ギャグマンガだったら吐血してたねッ!
でもなんだろう、少し冷静になって眺めていたら2人から百合の波動のような幸せおオーラというか、そういうモノが感じられなかった。
‟もしかして、わざと?”
そう考えると納得がいくのだけれど、なんでわざわざそんなことを?
ますます妹たちが何をしたいのか分からなくなり、夜になると私は助けを求めるべく昨日メールで親友に学校へ来るよう呼び出していた。
『親友よ、助けて><』
『どうしたの急に』
『とても困っているの。だから相談に乗って!』
『任せて╭( ・ㅂ・)و 』
こんな感じでメールでのやり取りをしており、なにこのイケメン対応!である。
私が女子だったら惚れてたね。いや、心は男なので……!
場所は学校。
私と親友の家から丁度中間地点にあるから待ち合わせ場所に指定した。
既に自由登校な我が身だけど、いつもなら妹たちと一緒に登校しながらイチャイチャ登校していたが、今日は2人をソッと見送って時間を潰してから私も学校へ向かう。
だって昨日とは打って変わって、今朝からジッとこちらを観察するかのように見つめる2人にどんな風に接すればいいのか分からないんだもん!
そして学校に到着し、待ち合わせ場所の食堂へ。
「それで、そんな妹たちがどうしたいのかを図りかねていると」
「その通りでございます」
「あんなにお姉ちゃんLOVEな朱梨ちゃんと衣緒乃ちゃんがねぇ……ついに我慢できずに手を出した?」
「むしろ何もしていないよ!?」
「だよねー。むしろ喜びそうだもんね」
同じく推薦合格を貰っている親友の明奈と膝を突き合わせていた。
小学校からの付き合いで、すべて同じクラスな幼馴染。まさに気の置けない仲。
私たち姉妹の関係も、私の趣向もよく知っている人物の1人。
「というか、もっと関係性を深めようと思わなかったの?」
「それは……思ってるけど……」
「ヘタレねぇ~」
「うぐっ…………」
現在食堂は閑散としており、ほとんど人がいないので密談するのにもってこいだから、このように開けっぴろげに会話ができる。
それにしてもこの幼馴染、本当に容赦がなさすぎるよ。
「春恵が奥手だから、2人とも現状に変化を求めて行動に移したんじゃない?」
「変化……やっぱり私嫌われて…………」
「……ハァ。じゃあさ、もし2人から嫌われたとして」
「グフッ!?」
やっぱり嫌われているの!
ショック過ぎて変な声がでた。
お姉ちゃんなんて嫌い!とか言われた2度目の転生待ったなし。
「だからも、もしもよ、もしも」
「な、なーんだ。驚かせないでよ」
「そこで、あたしが春恵のことが好きって言ったら……どうする?」
「…………ふぇ?」
すき、スキ、隙? 好き!?
小学校からの付き合いで、親友である明奈が私を好き。
まさか、本当に? 今までそんな素振りを見たことがなかったのに。
驚いて見返すと、こちらを見つめてくる明奈の表情は真剣そのもの。
え…………でも、えぇ!!!
混乱している私の隣に椅子を寄せてきて、ギュッと手が握ってきた。
包まれている手は、まるで炎にくるまれているように熱い。その目線すら、身を焦がすほどの熱量が含まれている気がした。
「あたしは本気――――」
「「ちょっとまったーーーーっ!」」
さらに明奈が何かを言いかけた瞬間、遮るように待ったをかける2つの声。
声の方を向くと、ゼェハゼェハと息をつく朱梨と衣緒乃の姿。全速力で走ってきたのか髪が乱れており、汗もうっすらと滲んでいる。
頬に張り付いた髪の毛がちょっとセクシー、って何のんきなことを考えているんだろう私。
「私としたことが、今最も警戒すべき人物を見逃していたわ!」
「ここで正体を現すとは……もっと警戒しておくべきだった」
「どうして2人がここに?」
妹たちは授業中のはずだし、私たちが食堂に居ることすら知らないはず。
私の疑問に、さも当然という風に返事が返ってくる。
「お姉がどんな行動に出るかなんて、ずっとお姉を見続けてきた私たちなら簡単に予想できるわ」
「そう、伊達に同じ産道を通っていない」
「それは関係ないよね!?」
「だてに春恵ニウムは摂取していない」
「なにその怪しい物質!」
「1度取ると病みつきになってやめられない、止まらない」
「本当に危ないモノだった!?」
「確かに春恵ニウムは……危険ね」
「朱梨まで!?」
「いつでもどこでも春恵ニウムを摂取できる2人がうらやましいわ。あたしなんて、
数日経つと禁断症状が出そうになるもの」
「なにそれ怖!? 私っていったい何なの! ていうか、2人はどうしてここへ?」
確かに2人なら私の行動を把握していそうだけど、ここへ来た理由とか、明奈を警戒すべきだったとか、一体どういうことなの。
いろいろと話しに付いていけてない。
「もちろん、お姉の相談にかっこつけて私たちを出し抜こうとしている明奈さんを阻止するために来たのよ」
「つまり、えぇっと、朱梨たちは明奈が私を好きだって知っていたってこと?」
「そう。そして私たちが、春ねぇ近くに居られないこのチャンスを明奈さんが逃すはずがない」
「お姉の行動パターンさえ分かっていれば、ある程度は予想できるわ。今回は最悪な予想が的中してしまったけれども」
どうしよう。色々な情報が舞い込んできて頭がパンク寸前。
落ち着け私。。
明奈は私が好きで告白しようとしていて、朱梨と衣緒乃はそれを邪魔しようとしている。ということは――――
「じゃあやっぱり、朱梨と衣緒乃は私を嫌いになったわけじゃ……ないんだね?」
「お姉は何当たり前のことを言っているの。私たちがお姉を嫌いになるわけ無いじゃないッ!」
「天地がひっくり返ってもあり得ない」
「よ、よかったぁ~~~~」
1番の心配事が解消されて、ヘナヘナと力が抜けて机に突っ伏した。
ネガティブなことは、気になり始めたら止まらない。否定していても心のどこかで『もしかして?』と思ってしまう。
‟だからほんとうに、本当に良かったよぉぉぉぉ!”
それにしても、なんで2人はあんな事をしたんだろう。
現状に変化を求めてってことは、もっと先に進みたいってこと?
でも、私も望んでいるけれど、それはどちらかを選ばないと不誠実で。
あれ、不誠実ってなんだっけ? それに明奈も私が好きで、それも嫌じゃなくて…………。
「あっこれ完全にドツボにハマってるわ」
「お姉、ほんと顔に出やすいんだから」
「またそれも、春ねぇの良い所」
「しょうがないわね。……春恵」
頭の中でグルグルと考えていると声をかけられる。
明奈の声に振り向くと、綺麗な顔が目と鼻の先に――――
「……んっ!?」
そして、私の唇に柔らかいものが押し当てられた。
まるでシットリとしたマシュマロの様な肌触り。ただ触れ合っただけなのに、唇から溶けてしまいそう。
「な、なななななぁぁああああ!!!!」
「抜け駆け、ダメっ!」
妹たちのそんな声が聞こえてきたと思ったら、グイッと明奈が離れていった。
私、明奈にキス、されちゃった……んだよね?
一応、前世も今世もキスすら未体験で、あれが生まれて初めてのキス。
「お姉っ!」
キスの余韻にボォーとしていたら、正面に入れ替わるようにやってきた朱梨に顔を両手で挟まれた。
長いまつ毛に少しキリっとした瞳。キュートな小ぶりな鼻にピンク色の唇。
あぁ、やっぱり朱梨は可愛いなぁ。
と眺めていたら、徐々に顔が近づき――――
「んっ!?」
唇を奪われた。
そう認識した瞬間、一気に体が熱くなる。
朱梨とキス。
明奈の時とは違い、唇の感触が分からなくなるほどの衝撃が頭の中を駆け巡る。
まるで夢のような、1秒もしない触れ合い。
「んぁっ」
朱梨の口から声が漏れて、一瞬、細い透明な糸の橋がかかりこの一瞬の出来事を現実のものだと教えてくる。
ドキッドキッドキッと心臓が破裂しそう。
「春ねぇ」
今度は朱梨と入れ替わり衣緒乃が私の頬に優しく手を添える。
‟まさか…………”
そんな思いを肯定するように、衣緒乃の柔らかな唇が押し付けられた。
今度は更に、優しく味わうように唇が動く。
「あむっ」
「んんっ!」
衣緒乃の唇で、私の唇がなぞられる度に甘い痺れが頭に駆け抜ける。
‟私は今、百合カップルのようにキスされて、貪られているんだ……”
沸騰しそうな頭の奥底で、そんな思いが駆け巡る。
やばい、なんだクラクラしてきた。
「衣緒乃、アンタやり過ぎよ! なにちゃっかり味わってるの!?」
チュパッと音を立てながら離れていく衣緒乃。
「とても、おいしゅうございました」
「感想なんて聞いてないわよ! 許したのはキスまでで、誰も味わっていいなんて――――」
キス、キスされた。
3人から、キス。
クラクラする頭の中で反響し、頭がさらに沸騰していく。
‟きもちよかったなぁ……”
そんな感想を胸に、オーバーヒートした私は騒がしい声をBGMに意識を手放し――――
「あぁ!『聖母さま』の唇が!」
「私も春恵様とキスがしたい!」
たかったけど、手放せなかった!
遅れてやってきた生徒たちに、私たちのキスシーンが目撃されて騒ぎ始めた。
そうだよね、朱梨と衣緒乃が居るってことは休み時間だから他の人も来るよね! って、時計をみたらお昼休みだし!
私たちのキスシーンを見てカオスとなりつつある食堂から、明奈の咄嗟の判断により手を引っ張られながら逃げだした。
「ほら春恵、逃げるよ!」
「ふぇ?! 明奈ちゃん、そんな引っ張らないでぇ!」
駆け足で逃げていく私たち。朱梨たちを置いてきてしまったけど大丈夫かな。
2人のことが気になるけど、騒ぎが大きくなる前に私は足を懸命に動かした。
そのまま明奈に手を引かれて無事帰宅。
居間に行けば、のんびりとお茶をしているお母さんと叔母さん。
「あら、春恵おかえり。明奈ちゃんもいらっしゃい」
「お邪魔します。春恵のお母さん」
「あら、2人とも何か雰囲気が変わったわね。まるでキスしたばかりの初々しいカップルみたい」
「ブフゥ!?」
お母さんの一言に私は噴き出した。
くっ! 流石お母さん、観察力がすごい。というかピンポイント過ぎません?!
ただの百合好きとしての観察力なのか、母親としてなのか。できれば母親として、であってほしい。
「てっきり、あの2人から選ぶと思っていたのに以外ね」
「いや、叔母さん。そういう訳じゃなくて……」
叔母さんからは、はっきりとしたら言葉が。
どうしよう、当たらずも遠からずで何と言ったらいいのか。
説明に悩んでいると、意外なところから助け船がやってきた。
ドダダダダッ!
「「私たちもキスしたからっ!」」
と的確なセリフと共に、居間へ駆け込んできた朱梨と衣緒乃。
え、この状況すらも読んでいたと? どれだけ私に関する予想ができるの!
2人の妹が末恐ろしい。
「あらあら、ということはハーレムかしら? お母さん百合ハーレムも好きよ」
この人何言ってるの?!
「そうね……今まで誰にするか選ばせようとしていたから、いけなかったのね」
「なるほど、そうすればみんなハッピー」
朱梨と衣緒乃まで!
というか本人置いてきぼりなんですが(´・ω・`)
「私も異論はないわ。これでようやく、貴女たちに遠慮することなく春恵とイチャイチャできるし」
親友よ、お前もか!
完成された百合包囲網によって、私の発言権はほぼゼロへ。
いや嬉しいよ? こんなにも愛されているということが。
でも、どうしたらいいのかな……?
「大丈夫。春恵は私たちを愛してくれれば、それだけで良いの」
明奈はそう言って、困惑している私の左腕を抱き寄せる。
私、なにも言っていないんだけど、また顔に出てたのかな!?
って、程よく育ったお胸がッ! お胸がッ!
「お姉は奥手で優柔不断だから、私たちがリードしてあげる……」
そう言って、朱梨が私の右腕を。
明奈よりも小さい膨らみがッ!
「そう。だから春ねぇは、今まで以上に私たちを甘やかして?」
最後に衣緒乃が正面から抱き着いてきた。
高1とは思えない膨らみがッ! 大きなたわわが、私の胸を押しつぶしているッ!
「姉さん、ハーレムはOKなの?」
「本人たちが良いのであれば、構わないわ」
叔母さんの問いかけに、気軽に答えるお母さん。そしてその返事を聞いて、おもむろに立ち上がる叔母さん。
あれ、なんでこちらに歩いてくるのですか?
「それなら、私も参加しようかしら」
彼女はそう言って後ろから抱き着いてきた。
更に大きなたわわなが背中にッ! そして仄かに匂う大人の色香がッ!
「やっぱり、叔母さんも狙っていたのね……」
「ムッ……でも、これは拒めない」
「叔母さまなら良いかな?」
「フフ、3人ともありがとう」
あれ、私の意見は?
困惑する私に、胸がさらに強く押し当てられる。
「あらあらまぁまぁ、妹が娘に取られちゃったわ」
嬉しそうなお母さんに見つめられながら、私は嬉しいやら恥ずかしいやら、展開についていけずに目を回し、心の中で叫んだ。
‟どうしてこうなったのぉ!?”