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エピローグ

「順番に進んで進んでってくださ~い。食料なんかは移動した先に用意してあるそうですので、荷物は服装とか大切なものだけでいいですよ~」


 アロエが屋根の上から、その場の人達に大きめの声で呼びかけを行っていた。

 列をなして待つ人々は、恐る恐るといった様子で、光る世界樹の(うろ)に入っていく。

 洞の大きさも大人二人ほどということもあり、全員が新たな世界に移動するには少々時間がかかっていた。


 日々野がモーテスに勝利してからすでに二時間。

 勝利を喜ぶのもそこそこに、世界樹の村は崩壊する世界から脱出する準備で慌ただしい雰囲気に変わっていた。

 時刻はまだ昼過ぎのはずだが、空は夜が来る直前の青紫色に塗り替わっている。

 それは細かな説明は受けていない人々にとっても、何かヤバいことが起こるまでの制限時間(タイムリミット)が迫っていると理解するには十分な光景だった。


 とはいえ最初から、スムーズに事が進んでいたわけではない。 

 星月が異世界へとつながる門を開いたは良いが、誰も一番に入るのをためらい、足踏みしていた。

 その状況を変えたのはあの男だった。

 

「もう儂、長老じゃないもん。か弱い老人だもん。ゆっくり縁側で待たせてほしいよー」

「いい年こいて語尾に、もん。とか付けないでください、長老! この村には長老がまだ必要なんですから、ほら自分の荷物もって、さっさと先陣切ってください」

「それ儂じゃなくてもできるじゃん! てか、本当に必要だと思っていってる、それ!」


 盛大な突っ込みを入れて屋敷から飛び出したボケが、待ち伏せしていたオリーブに捕まり、そのまま世界樹の方へと引きづられていく。


「か弱いだぁ? 何言ってやがんだよ。途中から勘が戻ってきたとか言って、俺たちが武器と能力使って戦ってた敵に拳だけで圧倒してた上に、騎士長とかいうボスキャラにも勝ちやがったくせによぉ」


 ひょっこりと顔を出したトリカブトが口をはさんで、すぐに去っていった。

 ボケに嫌がらせをしに来ただけだったようだ。


「トリカブト、何言っとんじゃ! て、ちょ、オリーブ、マジでこれ大丈夫なの!」

「はいはい、元気そうで良かったです。じゃあ、行きますよー」


 そうしてオリーブとその他数人の部下の助けによって、ボケが世界樹の洞の中に放り込まれ(入っていき)、記念すべき異世界転移の一号となった。

 ボケの必死の抵抗を目の当たりにしたお陰で、人々の緊張はほぐれ笑いまで生まれていた。

 これを見越してあれだけ騒いだのだ。

 哀れな老人の姿は、演技であり本音ではなかったと、信じて部下たちは敬礼を送る。


 その後、霧立とカグヤが入り、星月特性のロープで合図を送ったことで、転移先の安全も確かめられた。

 さらに鈴や他我矢、ロッジなどの星月のことを知っている面々が続くことで、勢い付いた人々の列は緩やかにだが、止まることなく洞の中へと進んでいくのだった。



 人々も減っていき、まだこちら側に残っているのは数人だけとなった。

 日々野はふらりと、そのうちの一人の所に向かう。


 男は竜胆の花が咲いた場所で手を合わせていたが、日々野の気配に気づくと立ち上がった。


「俺たちは墓などは作らない。だが、花ぐらい添えて置くのも悪くないかと思ってな。……俺も鈴と出会って何か変わったのかもしれない」

「俺もアヤメには色々教わったし、影響されてる。人と関わるって言うのは、多分そういうものですよ」

「そうだな。ふ、まさか人間で敵だったお前とこのような話をするとは思わなかった」


 リンドウは日々野の肩を叩くと、世界樹へと続く道を歩き出す。

 二人は歩きながら、誰もいなくなり、静かになった村をゆっくりと見回した。

 村の中は戦闘前と、ほとんど変わらない。

 変化があるとしたら最後の襲撃の際、世界樹の上から落ちてくるキメラで崩れた家屋数棟くらいだろう。


「お前はここに残ると聞いたが」

「自分も星月先輩からさっき聞いたところです。世界樹がボロボロになったせいで、こっち側に一人残る必要があるとか」

「人柱か」

「そんな言い方しないで下さいよ。しばらく、一人旅するくらいの気持ちでいるんですから」

「アイツのことだ。忘れて二度とここに来ないかもしれないぞ」

「……念のため、自力で行く方法でも編み出しときましょうか」


 どうやら世界樹のエネルギーを奪われただけでもかなりの損害だったところに、日々野がスルーした最後の光線が決め手になったらしい。

 難しいことは分からないが、星月曰く「日々野一人程度なら残ったウロボロスの力とかで世界の状態をギリ維持できる」らしい。


 日々野もリンドウも星月のことを、忘れることはないと思う程度には信頼している。

 故にリンドウが言った通りの人柱のような扱いにも、笑いながら話せていた。


 やがて到着した世界樹の根元では、胡坐(あぐら)をかいた星月があくびをしながら待っていた。

 洞に入るのはリンドウだけだ。

 日々野はリンドウがこの世界から去るのを見送ろうと、数歩手前で立ち止まる。

 リンドウはそのまま光る洞の中に入るのかと思いきや、ふと、何かを思い出したかのように振り返った。


「向こうで暇が出来たら、手合わせでもしてみるか」

「負けたときの言い訳、考えといた方がいいですよ」

「フ、万が一のためにな」


 それだけ言うと今度は止まらずに、光の中へと歩いてゆき、向こうの世界へ転移していった。

 

 これでこの世界の残る人間は二人だけになった。

 

 星月はリンドウと笑いながらやってきた日々野に、からかうような口調話しながら肩を組んでくる。


「なんだ、二人して俺の悪口でも言ってたのか?」

「いえ、先輩のことだから迎えに来なかったらどうするか、話してただけです」

「安心しろよ。五十年も経たないうちには迎えに来るから心配すんな」

「時間の感覚おかしいんですね」

「だてに長生きしてないってことよ」


 さらりと嫌味をかわしたかと思えば、星月は日々野の目を見て、真剣な顔になった。


「さて、と。俺は努力した奴には、それ相当のリターンがあるべきだと思ってる系の人間だ」

「いきなりどうしたんですか?」

「いいから聞け」

 

 星月の事なら三年の付き合いのなかで嫌と言うほど知っている。

 なぜ、今更性格のことなどいうのか日々野には理解で出来なかったが、一先ず口をつぐんだ。


「アヤメの種魂は本当に全部なくなったのか?」

「そのはずです。最後の剣を使ってから、アヤメの気配がなくなりました。それに、ここにいないのが何よりの証拠じゃないですか」

「本当か? 何処かに落としてるとか隠してたとか、よく思い出せ。お前は確かに覚えてるはずだぞ」


 何かを知っているかのような星月の口調に、日々野の心臓が大きくはねる。

 すぐに思考を加速させて記憶をたどっていく。

 ここで再会した時にはすべての種魂を回収したといっていた。

 だが、その前は?

 そこから連想して、一つの可能性を思い出した。


「急げよ、後輩。また会える俺らの見送りなんかより、お姫さんを迎えに行く方が大事だろ?」


 ()()を思い出したのが表情に出ていたのだろう。

 星月はニヤリと笑うと、そのまま門の方へと歩き出す。

 日々野は深く一礼すると、光の中に消えていく星月に背を向けて、全速力で森の向こうにあるディーゼルに駆け出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 忘れていた。

 もしも、彼女が回収した種魂が世界樹の村にあったものだけだったなら。


 半日近くかけて休むことなく走ることでたどり着いたディーゼルの街は、キメラたちによって破壊の限りを尽くされていた。

 そのキメラたちもいなくなったことで、半ばゴーストタウン化した街を横目にゲルトナーの寮に到着する。


 肩で息をしながら、エレベーターのボタンを連打するが、予備電源も落ちているのか反応はない。

 すぐに見切りをつけ、もうひと踏ん張りと、横の非常階段を二段飛ばしで三階まで駆け上がる。

 焦りすぎたせいで、途中二度も転び落ちたが、それでもなんとか自室の扉の前に立っていた。


 初めて会ったあの日にアヤメから渡された、小さな一かけらの種魂。

 それを俺はどうしたのか?

 もしも、それが残っているのならば。


 大きく息を吸って吐くのを繰り返し、数分かけて、呼吸を整える。

 それでも心臓がバクバクと音を鳴らしているが、これは緊張のせいだ。

 意味のない言い訳を自分にしてから、ドアを開けて、ゆっくりと家に入っていく。


 部屋の中から生活音は聞こえず、耳が痛くなるほどの静けさが張り詰めていた。

 だが、彼女がそこにいるとわかった。


 はやる気持ちを抑えながら、暗い廊下を静かに進み、リビングに続く扉を開ける。


 リビングは、一週間ほど前に出ていったままの状態で保たれていた。


 そして視線は自然と開いた窓の外、物置と植木鉢の並んだベランダにたたずむ一人の女性に向かっていく。


 日々野が部屋に入ってきた気配に気づいたのか、彼女も、初夏の朝日に照らされて光る淡い紫の髪を揺らしながら振りかえる。


 爽やかな花の匂いが混ざった風が頬を撫でた。

之にて「神緑神戯~世界の庭師と花の精」完結です。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

書き始めてから気付けば三年半。

終わらせるにあたって、達成感よりもどこか寂しい気持ちがあります。

話数を追うごとに遅くなる更新頻度など、追いかけて読んでくれていた(いるはず)には、申し訳ありませんでしたとしか言えません。

誤字脱字や文体の変化など、自分で読んでいても笑ってしまうほど酷い物です。

もっとうまく書きたかった部分やもっと濃く書けたところなどは、あげだしたらキリがありません。

このあとがきですら、そう思っています。


ですが、無事完結させたことは自分の中でこっそりと誇らしく思っています。(反省の3倍程)

初志貫徹といいますか、四年間ズルズルと引っ張りながらも逃げずに、やり遂げた自分を褒めてあげたいです。

よくやった! えらいぞ、自分!

この小説を書いてきた中で得た反省点は、次の小説で活かそう!


さて、他にも書きたいことは山ほどありますが、本編より長いあとがきを書くわけにはいきませんので、ここらで〆ようと思います。


よろしければ、もう一つ連載中の小説がありますので、読んで頂ければ嬉しいです(現在六話! 短い!)。

改めて、ここまで読んで頂いた皆様、ありがとうございました!

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