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77,継承

「起きたまえ、少年」

 低く響いた声に目を開く。

 目の前に座っているのは見覚えのない外国の男。

 ふと、横を見るとそこは暗い海が一面に広がるだけ。そこでようやく自分が船(木製二人乗りの大きさでボートと呼ぶ方が正しいのかもしれない)、の上にいることに気づいた。

 先ほどまでの戦闘がどうなったのか思い出せない。

「ここがどこか気になるか?」

 此方の様子を察したのか男が聞いてくる。

「ああ」

「冥界へと続く大河」

 間髪入れずに返ってきた答えに全身がこわばる。

 だが、男の口角がニヤリと上がり、それが嘘だと気づいた。

「案ずるな。まだ死んでいない。我もお前も、アヤツによばれただけだ」

 そういって指先を上空に向ける。

 その動きを追うように視線を上に向けるが、満天の星空と小さな三日月が昇っているだけ。

 しかし、その間には薄い膜のようなものがドーム状に広がっていた。

 見たのはこれで二度目だが、見間違えはしない。上空に広がる障壁は、砂漠の世界でウロボロスが展開していたものだ。

「どうやら、アヤツはよほどお前のこと気に入ったようだ。でなければ我を喚んだりはせん」

 未だ状況が飲み込めないまま、男は話を進めていく。

 ただ話の間にも、日々野は一つずつ可能性を潰していた。

 アヤメとの念話が行えないことから、ここが先ほどまでの場所とここは違う次元であること。

 尾喰龍鎌(テールイータ)を出せず、ウロボロスもいない。おそらくではあるが、すでに自身とウロボロスにあった繋がりが絶たれている。何らかの意図があってウロボロスから切られたのだろう。

 しかし、全身の痛みは本物。ここは夢や砂の世界ような精神世界ではない、現実に近い場所。

 今この状況において、日野日々野はただの人間となったということだ。

 恐ろしいことに気付いてしまい、ぞっと冷や汗が背中ににじむ。

 張り付いたような男のほほ笑みが怪しいものに見えてくる。

「我は全を知る天なり。故に、お前が力を持つ者として相応しくあることも、分不相応でもあることも知っている」

 肌がひりつく感覚。ボケ長老や星月先輩、モーテスなどと対面した時に受けた、圧のある存在感と同じものを感じ取るが、ここで負けてはいけない。

 男の目を見たまま、はっきりと言い返す。

「つまり俺がウロボロスの力を受け継ぐに値するか確かめるわけだな」

「いや、別に。ぶっちゃけ、アイツが認めてるならオッケーなんだけど」

 ヘラッと先ほどまでの空気が嘘のように男の口調と態度が崩れた。

 日々野も男の変化に拍子抜けするが、その様子に爆笑している男の姿を見てなぜか納得がいった。

 初めの威厳に溢れた態度は演技だったのだろう。今のうるさいくらいに笑うほうが男の纏う空気に一致している。

「あー、久々に王様モードやったけど、やっぱ疲れるわ。これ」

「え」

「ビビらせちゃってごめんねー。一応、礼儀って言うか雰囲気は大事じゃん。あ、さっきまでのが演技だから安心して。油断させようとかそんな考えなくて、フレンドリー、マブダチって感じで話した方がやりやすいっしょ?」

「わかった、わかったから、ちょっとタイム」

 怒涛の勢いで話す男に、慌ててストップをかける。男は黙る。何故だ。

 数分でここまでの状況を二周ほど思い返す。

「とりあえず、ここはどこで、あなたは誰なのか聞いてもいいですか?」

「あ、そっか。まだ自己紹介してなかったか。えーでは失礼しまして。俺は……そうだなメネスって呼んでくれ。んでもってここは、ウロボロスと俺にとっての思い出の場所だ。敬語NGな」

「……メネスは何者なんだ」

 言動や空気からメネスという人物像が固まらず、尋ねるが

 ニヤニヤと笑うだけで答えるつもりはなさそう。

 地震のような揺れが起こり、暗い夜空のヒビが入る。水面も波が起こり、船が大きく揺れる。

「もう時間が無いみたいだな。最後に兄弟、一つ質問だ。これからお前が得る力は、ウロボロスのものなのはわかっているな。じゃあ、それ以外。ウロボロスが背負ってきた使命や罪は受け継ぐのか? 勿論、気にしないっていうのも選択肢の一つだ。お前はどうするつもりなのか、それを訊かせてくれないか?」

 何時か聞いたことのある質問をネメスもしてきたことに、笑いそうになりながらもはっきりと答えた。

「正直、別にどうするつもりもない。俺が力を欲しいと思ったのはアヤメを守りたいからだ。その課程でなら、目障りな奴らは潰し、世界だって救う。……まあ、ウロボロスには世話になってるから、少しなら仕事を引き継いでも文句はないけどな」

 過去のことも、世界の真実も知った今も、日々野の望みは変わらない。

 言葉に込められた思いを、ネメスはしんに感じ取った。

 揺れる船の上で立ち上がり、天を仰ぐと覆われていた闇を裂いて晴天が現れる。

「そうか。では、お前の生きる道が、永久に明るいものであることを、太陽の化身たる我ネメスが保証しよう」

 ネメスの静かな宣言すると、カッと目をつむるほどの眩しい陽光が降り注いだ。同時に、日々野の全身の感覚が薄れてゆき、元の世界に戻るのだと直感した。

 白に染まった視界では、目の前に立つネメスの輪郭しか見えないのだが、なぜか、その顔は笑っていることが日々野には分かった。

予定では残り3話!

出来るだけ頑張るので、もう少しだけお付き合いください!




補足:設定(読まなくても問題ありません)


 文章力の問題で本編で書けなかった設定です。

 ウロボロスのルーツはエジプト神話に出てくる太陽神ラーの護衛的な蛇or竜、メヘンらしいです。(中国の世界観とか北欧神話とかの意見もあるのですが、個人的にエジプト神話説が好きです)

 そのあと、なんやかんやあってで色んな立ち位置に置かれたけれど、大体は"無限"の属性を与えられるようになりました。


注!ここから妄想

 古代エジプトから欧州の方に移る(メヘンからウロボロスになった)原因は十字軍とかの宗教関係の侵略だったら面白いなーって思いまして。

 その際に、メヘンがエジプト神話の系譜を捨ててギリシャ系に来たら神格は保ってやると持ちかけられるが、友人でもある古代の王ネメスを裏切れず、その誘いを拒んだ。

 その結果、ウロボロスの名と蛇ゆえの悪の属性を与えられた。


 ネメス元は小さな村の若者だったが、魔法の素質とその度胸から、ウロボロス(当時はメヘン)と友となりエジプトを作り上げた。とかの設定です。


 みたいな感じのことを書きたかったと、呟いてみました。




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