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74,幕間

 開戦からがすでに七時間が経過しようとしていた。

 将とでもいうべきニーズヘッグを撃破したことにより、戦況は優位な状況を保ちながら終息の兆しを見せ始めている。

 負傷した場合は一度世界樹の村に戻り、肉体の再形成を選択できるほど前線は安定していた。

 日々野とアヤメも、イバラとその仲間たちと一緒に村に戻っていたが、村の人々からは緊張の中にどこか勝利への昂りと盛り上がりを感じさせていた。

 世界樹の上空を覆う雲はいまだに太陽の光を遮っている。

 そのせいか日々野の頭には、どこか拭うことのできない不安があった。


「どうやらお前らのおかげで何とかなりそうだな」

「ロッジ、無事だったか」


 後ろからかけられた声に振り向くと、そこにはロッジがいた。

 すでにオリーブから聞いているが、ロッジはニーズヘッグの一体を倒した者の一人。

 疲労を隠すためかそれとも高揚しているだけなのか、普段以上に陽気な様子で無理矢理肩を組んでくる。

 

「聞いたぞ。デカいの一体倒すためのキーマンだったって」

「俺がしたのは時間稼ぎだけ。速攻倒せたのは先走ったお前の妹とうちのバカ真面目、それに八割あの嬢ちゃん一人のおかげだ」

「その状況を作り出したのはお前なんだろ。気にせず胸張れよ」

「たく、二体倒して彼女助ける奴は言うことが違うねぇ。惚れちまうぜ」

「喧嘩なら買うぞ?」


 ロッジは両手を上げて冗談だとでもいうようなジェスチャーと示す。

 一連の会話を見ていたアヤメはあきれたとでも言いたげにイバラたちを連れて先に行ってしまうが、照れて赤くなった頬を隠せていなかった。

 それを見てニヤニヤするロッジに肘を入れて黙らせる。


「いって、で、お前は行かなくていいのか。あれと連戦だろ? どうせ無茶してんだろ」

「……多少な」

「なら、休める今のうちに休んどけよ。まだ何があるか分かんねえからな」

「ああ、分かってるよ」

「OK。んじゃ、俺はもう一仕事してくるわ」


 それだけ言うと返事を待たずに、前線へ駆けていってしまった。 

 ロッジの後を追ってまだ戦いたい気持ちはあるが、自分の消耗具合を考えると一度休まなければならない。今の状態では足を引っ張ることなく追われたとしても、後がない。


「とりあえず、あっこに行くか」


 戦闘のことは仲間に任せて今は休むことにする。そうして日々野はロッジとは反対の村の中心へと歩いた行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「突撃だけで芸がねえなぁ、このゴキブリども!」


 こぼれた愚痴通りに、トリカブトの前に広がる森からは黒いキメラが次々に湧き出てきていた。

 薄く黒い外殻を持った素早い昆虫型のキメラはゴキブリと呼ばれても仕方ないだろう。

 地を駆ける速度はなかなかのもの。だが、ドームを目指して走るだけのキメラ達に、突然発生した濃霧が全身を覆う。

 キメラといえど構造の基礎となっているのは昆虫系の生物であるのに違いはない。

 その霧を一息吸った途端、足の動きが止まりそのまま転倒。

 速度を維持したままトリカブトの足元に滑り出たところを、拾い物の剣を突き立て絶命させる。


「マジキモイわぁ、この虫。お前みたいに人間が来た方がまだ面白みがあって、マシだったなぁ。場所取りミスったぁ!」

「喋る余裕はあるようだな、トリカブト」


 トリカブトの愚痴に短く答えるとリンドウは襲い掛かる針を手にした槍で弾き落とす。

 だが槍を構えなおす前に、別の男の肥大した腕による右の大ぶりが襲い掛かる。

 黒く曲線を描き、腕を守る鱗は斬撃を受けたとしても刃を滑らせて防いでしまう。

 リンドウの槍の刺突も同じくだ。

 故にリンドウは切り落とすことはせず、のけぞることで回避。

 だが、突然横腹に衝撃が起こる。

 予想外のことに、視線を移動させると太い蛇のような尾の先端があった。

 付け根はもちろん目の前の男の腰部。

 人間と勝負していると考えていた意識が甘かった

 のけぞっていなかったのなら先端で済まなかったのだから、まだマシだと自分に言い聞かせ、反撃に出る。

 衝撃によろめきかけるが何とか踏みとどまり、そのまま槍の柄の部分を男の足に振るう。

 大振りが空ぶったせいで重心が偏っていたこともあり、鎧の男の体が崩れた。


「穿て、華竜の息吹」


 槍から放たれた光線が男の腹部を貫き、傷口から生まれた炎が全身を覆っていく。

 貫通した光線は後ろにいる敵に向かって飛んだが、流石にもう一首得ることは出来なかった。


「次」


 残る神兵に向けて挑発。

 額に血管を浮かべ、休む間も与えないかのように数人が連携して攻撃に出てくる。

 怒りは秘めている力を出すこともあり、軽々しく挑発などをするのは愚策とも捉えられるだろう。

 事実、敵はポテンシャルも固有能力も、今まで戦闘したことのあるゲルトナーの戦闘員より圧倒的に高い。

 だが、それ以上に敵のほとんどが戦闘に慣れていないことに気付いていた。

 接近を恐れた遠距離攻撃に、失敗した時のリカバリーもとれない。

 たった今燃え尽きた鱗の男は、殴りかかる勇気と工夫はあったが足元がお留守だった。

 勿論、未知の能力を使用され、先程のように攻撃を受けるかもしれない。

 だが、油断しなければ問題ない。

 そう考えなおし槍を構え直す。


「だれか、儂を手伝ってくれんか? 老体には少々きつくなってきての」


 そこから離れたところでボケが大型のキメラに手刀を突き刺しながら、呟いていた。

 相手しているのは巨大な狒々のようなキメラ。

 首裏に差し込まれた手刀の痛みに暴れまわっている。それだけで周囲の地面にクレーターを作り出すほどの力は脅威でしかない。

 危険を感じたボケは一度離れて様子を見るが、頸動脈を断たれているはずだがその勢いが収まる様子はない。

 このままで放置しておくのは悪手だと判断してボケは止めを刺すため最接近を試みる。

 飛び散る土片と振り回される拳を回避して、接近していく。

 狙うは先ほど刺した手刀の切り口。

 軽く飛び上がると、老人とは思えない身のこなしでキメラの体毛を掴み、首元に手刀が届く範囲まで迫った。

 スッとすれ違いざまに手刀を振るい、胴と頭を断つ。

 そのまま着地すると遅れて狒々の首がずるりと落ちて潰れる。

 勝利に浸る間もなく、次に迫る敵の方に意識を移そうとした時だった。

 背後で何かが動く気配を感じ取り、振り向こうとする前に衝撃が全身を襲った。

 地面をはねるように転がりようやく止まったが、ダメージのせいで全身が動かない。

 目に入ったのは首を失ったはずの狒々型キメラが、拳槌を振り下ろそうとしている光景。

 回復が間に合わず揺れる意識の中で回避どころか防御もろくに出来ないボケに、容赦なく拳槌が振り下ろされる。

 ここまでかと、ボケは諦め迫る死を受け入れかけた。


「飛べ、黒烏」


 何処かから飛来した黒線が狒々の腕を切断すると同時に、ボケを倒れる狒々の体から守るように地中から木々が生え出る。


「寝るには早いぞ。ご老人」

「ほほ、まだ休ませてくれんか。タガヤ」


 ボケの近くにタガヤが現れる。

 この中で唯一有効的な遠距離攻撃手段を持つタガヤは上空から迫るキメラの対処を請け負っていたが、ボケの状態を見て応援に来たのだった。

 開始した時は毒が効く相手はトリカブトの能力で展開されている毒霧で排除し、耐性があるキメラや毒の量が足りない大型のキメラはボケとリンドウが倒す役割になっていた。

 だが、神兵と名乗る敵にリンドウが応戦したことでボケ一人に大型の対応が集中することになったのだ。

 飛行種の数は減り、キメラ全体の数も上空から見た限りでは確実に減っては

 全員が能力の連続使用と結界の展開による、激しい消耗が戦闘に見え始めている。


「後、どれくらいじゃ」


 ボケの質問にリンドウが胸ポケットから出した懐中時計を見せる。

 ヤヌスから告げられている予定の時刻まで、あと二時間といったところ。

 ボケは目線でリンドウに礼を伝え、立ち上がった。


「まあ、もう踏ん張りじゃな」


 ボケは再生を終えた体で再び戦いに戻る。

 飛行型のキメラがいなくなった分、タガヤがボケのカバーをできる。

 タガヤはどこか拭えない不安を覚えながらも、今は目の前の敵に立ち向かうしかなかった。

 

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