68,円卓
カグヤの後を追ってたどり着いたのは、日々野がボケに過去を見せられたあの場所だった。
中庭の中央にはござが敷かれ、円形の巨大な卓袱台が地面から生えている。それを囲むように座った人影が五つ。
すでに日は落ちているが、星の明かりとかがり火が辛うじてその場にいた人々の顔を照らしていた。
星月、タガヤ、ボケ、リンドウと日々野が知っている顔がほとんどだが、残りの一人は見覚えはあるのだが名前を思い出せなかった。
「よ、久しぶりだな。日々野」
「星月先輩はよくそんな態度がとれますね。人のことを殺そうとしたくせに」
「過ぎたことだ、気にするなよ。お前も生きてる、彼女も戻ってきた、みんな笑ってる。それでいいじゃねえか」
「それも一理あります。でも、いい感じにまとめようとしないでください」
「は~い、二人とも。それは後にでも二人で話してね~」
日々野と星月のヒートアップしかけた感動の再開にカグヤがくぎを刺して止める。
その隣ではアヤメがトリカブトを睨みつけ、今にも剣を抜いてもおかしくない様子だった。
カグヤの言葉に日々野はひとまず星月への文句を後にして、アヤメの手を引きながら自分たちの席であろう空いている場所に座る。
「で、ご挨拶なんて丁寧なもんはいらねえよなぁ。とっとと始めましょうぜぇ」
「ふむ。じゃが、日々野君はトリカブトのように初めて見る顔もあるのではないか?」
「後でアヤメに聞いておくので大丈夫です」
「そうか。ならヤヌス、頼むぞい」
ボケがヤヌス、星月に丸投げする。
星月は最初からその気だったのだろう、すくっと立ち上がり、わざとらしく咳ばらいを一つすると話し始めた。
「結論から言わせてもらう。明日、俺たちはモーテスの野郎を倒さないと死ぬ。逃げられても、負けても死ぬ」
「ちょ、どういう意味で」
「日々野、あとで教えるから黙って」
「……分かった」
日々野が驚きと共に叫びそうになったが、アヤメが袖をつかみながら止めた。
事実、この場でこの世界の崩壊について知らないのは日々野だけであった。
星月も確認の意と日々野にそれとなく教えるために言っただけのこと。他の者からしたら、それを知っていることは前提条件のような感覚だった。
つまりは、日々野を止めたアヤメの行動は時間のない今、ファインプレーであったわけだ。
「さて、モーテスを殺す作戦なんだが、先に彼奴の能力について簡単に言っとくと、不死身。それと瞬間移動と造兵。この三つだ」
「不死身か……。で、殺すための方法はあるんだろ。早く教えろ」
「ち、少しは焦れよ、リンドウ。……で方法なんだが、二つある。一つは彼奴の残機分殺しつくす。これはこの世界を破壊することと同義だから無しな。で、二つ目の方法が断絶した別世界で殺すこと。こっちが本命」
「別世界って、そんな簡単にできるのか?」
「簡単じゃないぞ。だけど、このメンバーなら可能だ。というか可能にするだけの人材をこの数十年かけて集めたんだからな?」
星月はさも当然とでも言いたげな表情で、質問してきたリンドウに返した。
そういわれると照れてしまう。リンドウは下を向いてそれもそうか的な顔で黙った。
「それで、人員配置はどうするつもりなのじゃ? 儂など戦闘に加わっても邪魔になるかもしれんぞ」
「……はぁ? 爺。ついにボケたかぁ?」
「黙れ、クソガキ」
「はいはい、二人ともケンカしない。長老もさっき収めてね~。ヤヌス、話進めていいわよ」
「ああ。まず、世界を分断させるための結界班、実際にモーテスを戦うのに分かれてもらう。結界はボケ、リンドウ、トリカブト、タガヤに維持してもらって、その中で俺とカグヤ、日々野、アヤメが戦う」
全員がその言葉を理解するのに数秒必要した。
最初に手を挙げたのは一番、このことを理解できない日々野であった。
覚醒したとはいえ、およそカグヤや星月級の戦闘力であろうモーテスと戦えるだけの力が自分にはないと分かっている。
にもかかわらず、ボケやリンドウを差し置いて自分が選ばれた理由がわからなかったのだ。
「俺が? なんでなんですか?」
「理由はモーテスを殺せるかどうかだ」
「はぁ? 俺がそいつより弱いってことかぁ? それとも覚悟がないとでも言いたいのかぁ?」
「説明させろ。いいか、モーテス自身の戦闘力は高くない。ここにいる、メンバーなら誰であっても引けをとらないと思う。問題はその攻撃が効くかどうかなんだよ。一応モーテスも神の座にいたやつなんでな、神気を宿した攻撃じゃなきゃ通用しない」
「神気って、ウロボロスが放ってたあれのことですか?」
「多分それであってる。まずこの世界の存在だから当たり前なんだがトリカブトとボケ、タガヤは神気を持っていない。次にリンドウも多分出せると思うけど不確定な要素は外す。んで残ったのが、俺、俺の力を分けたカグヤ、ウロボロスの力を使える日々野、神気は出せないけど日々野と一体化できるアヤメ、というわけだ。着いてこれてるか?」
「ふむ。儂らは戦わんでええということじゃの?」
「そゆこと。まあ結界維持には相当な体力は必要だけどな。言い忘れていたけど、人間側の戦力は多分もうないに等しい。ここにいない奴らでも十分に対処できるくらいの戦力だから。まあ、これくらいか。他に質問はないな?」
星月に質問したのは、ボケ以外はおらず、全員説明に納得した様子で、すでに話は終わった様子だった。
空気を読んで星月が、一応この場の仕切り役であるボケに視線を向けると、ボケもその視線の意味を理解して頷く。
「じゃあ、今日が最後の晩餐にならないように、明日は死ぬ気で戦おう! じゃ、解散。あ、日々野は残れよ、アヤメちゃんの代わりに俺が説明してやるから」
星月が形だけの閉会の言葉を言うと各々散っていき、アヤメもカグヤと共に母屋の方に消えていく。
その場には日々野と星月の二人だけが残ることになった。
しばらくは星月がアヤメにしたものと同じ世界崩壊について説明をすると日々野も何となくだが理解しすることが出来た。
「……ほんとなんですよね。この話は」
「ああ。嘘をついても意味がないだろ? 理解できないなら生きて、別世界をその目で見てみろよ」
「別世界なんてコリゴリですよ。ここが自分が生まれた世界だって言うことすら信じがたいんですから」
「そうだよな……で、信じるのか?」
「はい。本当はウロボロスから聞いてましたし、裏が取れたっていう感じですかね」
「てめぇ、言うようになったなぁ……それよりもウロボロスはいるのか」
「あ、いますけど」
そういって尾食龍鎌を卓袱台の上に出す。
星月は懐かしそうに数秒だけ鎌に触れると、手を離して礼をいった。
「まさか、こいつにまた会えるとは思っていなかったからなぁ。感謝してるぜ日々野」
「いやいや、感謝されるようなことじゃないですよ。この鎌を手にしたのも偶然ですし、俺の方がウロボロスに助けられまくってます」
「でもお前じゃなきゃ、このじゃじゃ馬は走ってくれなかったと思うけどな……さて俺たちも戻るとするか! みんな中で旨いもんでも食ってるんじゃないのか!」
「ここに食料ってあるんですかね。それより何人くらい土の街の人がこの村に来たんですか? ていうか全くそこらへん聞いてませんでしたけど」
星月の動きがピタリと止まると吐き捨てるようにその数を明かした。
「大体二百人だ」
「え、二百ですか……よくそんなに来ましたね」
「いや、怒るのはそこじゃねえんだよ。あの野郎、時刻過ぎても人連れて来やがって。それだけの人数を輸送する羽目になった俺の苦労を教えてやりたいぜ……」
「よくわからないですけど、星月先輩の優しさってことじゃないですか」
「いや、置いていくならリンドウさんも一緒に残らせるとか脅しやがったんだよ。彼奴、人間のくせに度強ありすぎるだろ」
「はあ、そうですか」
日々野の興味はすでに失われている。
というか、それはいったい誰なのかを考えていた。リンドウを引き合いに出していることから見て、鈴と呼ばれていた少女かと予想を立てたりしながら、母屋に向かった。




