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64,vs響火

世界樹の村


 村の中では一般的な建物。

 そこにたった一人、村一番の切れ者オリーブが机の前で瞑想でもしているかのような姿勢のまま、額から汗が流れ落ちるが、拭うことなどせずピクリとも動かない。

 そのところ村の周囲で現在進行形で戦っている仲間たちから届く戦況を聞き、必死に頭を回転させているのだが、その様子はオリーブの姿を見ても芳しくないということがありありとわかってくる。

 誰も入りたくないであろう張り詰めた空間に、一人の老人が扉を開いて入ってきた。

 オリーブはその気配と、発される力でその人物に気付き、焦った様子で近くまで駆け寄っていった。


「長老!」

「オリーブ、敵さん方はどうしておる」

「わかりません! ですが長老の霧に惑わされることなく直進してきています!」

「守備はどのような感じじゃ?」

「西側でアベリアとマツが戦闘中。ユウガオとオオバコ、ドクダミは分身体が消滅したため、本体が向かっているところです。他の四人は………連絡が途絶えました。今のところ南側に木人を集中、西のほうは二人によって進行を防いでいますが、北と東側から進行してきています。今回の人間、いやあれは人間だと思ってかからないほうがいいです。特に人間の中に際立って強いものが何人か混ざってます。唯一の救いは黒い怪物が木人と同レベルだということくらいです。それも物量で押し切られそうですが」

「ふむ、結構ピンチじゃということじゃの。で、お主はどうするつもりじゃ」

「………今の村の戦力では厳しいかと。包囲されるのも時間の問題でしょう」

「そうかのぉ。じゃが、心配するでない。すでに策を練っておる」


 暗い表情をしていたオリーブの顔が喜びと驚きに変わりボケを見る。


「本当ですか!」

「うむ。まず、村に残っておる戦える者たちは西に向かいロベリアらの援護じゃ。北のほうはすでにロッジとアヤメの伴侶を向かわせとる。東のほうもタケが行くと言っておったから問題ないじゃろう」

「全員を西に、そしたら南に回せる戦力がいませんよ」


 いくつか疑問はあるが、最後の南側についてが欠陥どころか策をなしていない。

 そこを指摘すると、待っていたかのようボケがオリーブんに向かってにやりと笑った。


「ほう? お主、大事なことを忘れてはおらぬか。もう一人、動ける者がおるではないか」

「一人? いったい誰が………あ、長老いったい誰なんですか!」


 オリーブに答えを言わずに、ボケは家を出ていく。

 村を囲むように、いくつもの場所で煙が昇っており、森の中では激しい戦闘が行われているのがわかる。 それらのことを感じ取った後、ボケは村の周囲に張り巡らせている霧を操りながら悠々と進みだした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 北側では爆発に次ぐ爆発が起こり、黒いキメラたちが爆散していた。

 ロッジが取りこぼしたのか爆発を抜けてきたのかは分からないが、数体のキメラが村に向かって走るが風と共に黒い鎌が振るわれ、中心から一刀両断される。

 ここに二人が来てからすでに数十分、戦線はじわじわと押し返していた。

 ロッジの能力で広範囲のキメラを一掃し、爆撃を生き延びたキメラを的確に処理しながら戦線の収縮を日々野が行う。二人の連携は数時間前に出会ったばかりとは思えない程高度なもので、一匹たりとも逃していない。


「で、なんで俺はお前と二人っきりなんだよ!」

「知るかよ。俺一人で十分なんだろうけど監視役が必要なんだろ、っと」

「よし、その言葉忘れんな。爆!」

「ってめ、絶対今の俺も巻き込もうとしただろ!」

「いやぁ、俺のほうが繊細だから疲れてきちゃって、ほらそっち団体さん来てるぞ」

「くそ、ウロボロス、喰らい尽くせ、gan,apeironn!」


 日々野の鎌から三日月状の影が舞い、群れを成して迫って来ていた甲虫型のキメラたちを消し去る。

 数えてはいないがすでに二人が倒したキメラの数は百を超えているはずだろう。その証拠にキメラたちの勢いが衰えてきているのが目に見えて分かった。


 だが、日々野ははっきりとこちらを狙っている気配に気づいていた。キメラの対応をしながら、そちらを片付けるにはロッジの負担が大きすぎるうえ、確実な位置もわかっておらず、ただ警戒するしかない状況。

 だがキメラの群れも終わりが見えかけ、ロッジがとどめを刺そうと踏み込もうとしたとき、その気配が殺気を放ちながら接近してきた。


「ロッジ、下がれ!」

「は、何言って」

「ウロボロス、頼む!」

〔いわれずともわかっとる〕


 ロッジを後ろに引き、入れ替わりに日々野がロッジが先ほどまでいた位置に入る。

 鎌の柄を真横にもち、片側を鎌の刃で、反対側の右腕は鎌から(にじ)み出たウロボロスの力を(まと)い全身を硬くして衝撃に備える。

 その直後、何もなかったはずの空中に炎の剣筋が現れ、残ったキメラを焼き切りながら、日々野に襲い掛かるが闇の防御を上回ることができず、数秒後に消え去った。


「“炎刃”の本質は手の内が割れてない相手への不意打ちだろ。お前の能力を熟知してる俺には通じないぞ。それに悪いけど、今の俺にダメージ与えたいならもう少し強くしろ。これじゃあ、兄妹喧嘩にもならないぞ」

「っつ!」


 さらに炎の剣筋、日々野が炎刃と呼んだものが今度は四っつ現れるが、体制を整えた日々野にどうあがいても通じることはない。八の字を描くように鎌を振るっただけで全ての炎は先ほどと同じように消える。


「わかっただろ。いい加減出て来い、響火」


 呆然とした様子のロッジをよそに日々野が呼びかけると、数メートル先の茂みの中から赤い髪の少女、ゲルトナー最年少の隊員であり、日々野の義妹である響火が姿を見せた。

 泣き出しそうな顔をしながらも、両手の神鎌は寧ろ強く握りしめられている。


「ねえ。なんで、お兄ちゃんがそっちにいるの! そいつらは敵なんだよ! 倒さなきゃいけないんだよ!」

「………なあ。響火はさあ、植物人と話したことないだろ? こいつあロッジで言うんだけど悪い奴じゃないぞ。喧嘩っ早いけど」

「それは余計だろ。てか、なんだ此奴お前の妹か? こんにちはって挨拶しといたほうがいいか?」

「黙れ! お前と話す気はない! あ、そっかわかったよ! お兄ちゃんそれに操られてるんだよね! だから可笑しなこと言ってるんだ! なら、早く倒さなくちゃ!」


 響火はどうやらロッジを殺せば兄が元道りになると考えたようで、満面の笑みを浮かべながらロッジ目掛けて突撃してくるが、二人とも後ろに飛びのいて回避する。


「………おい、お前の妹ヤバくないか。精神的に」

「妹じゃなくて、義妹な。いや、ヤバいのは分かってたけど、ここまでだったとは俺も驚いてる」

「兄お墨付きのヤバさかよ。んで、どうする! 義妹の相手はお前がすんだよな!」

「決まってんだろ。悪いけどお前はあっちを頼んだ!」

「仕方ねえけど、………情にほだされてやられたりすんなよ」

「ああ、分かってる」


 そこまで話すと日々野だけ響火の攻撃を防ぐために、後ろに下がることをやめて立ち止まり、ロッジは新たに迫りくるキメラの軍勢のほうに向かう。


「響火、お前の相手は俺がしてやるからな、ダンスと行こうぜ!」

「なんで、なんでなの! 私はお兄ちゃんを助けたいだけなんだよ! おかしいよ、倒さなくちゃいけないのに!」


 いつものようにユーモアたっぷりのジョークも無視して響火が振り下ろす神鎌-トンファーと鎌を組み合わせたような形のもの-を、柄で受けてそのまま力任せに押し返す。


 響火の神鎌はゲルトナーのなかでも特に変わったものの一つだろう。

 拳ではなく腕に鎌の刃に当たる部分があるため、似通った使用例などほぼないため戦い方も独学で組み立てるしかなく、いざ使ってみても攻撃手段が限られている。

 だが、能力とは別に響火の神鎌は機能の一つとして変形するのだ。

 それこそ蟷螂の鎌のように折りたたまれていた状態から、握りしめた拳と水平になるように刃が立つ。接近して状態でこの変形機能を使えば、不意を突いて一撃、もしくは予想外のことに混乱した隙に一撃与えられるが定石だった。

 さらには“炎刃”の能力で半径5・5メートル内に数秒間の炎の斬撃を振るうことができる、近中距離攻撃手ミドルレンジアタッカーなのだ。


 しかしその全ては日々野が言った通り、手の内が割れている格上が相手では通用しないものばかりなのはどうしようもない事実。

 変形は知っていれば対処でき、能力も神鎌を振るった軌道上にしか出ないということを知っていれば十分に対応可能、今も日々野は響火の攻撃を一つずつ的確に弾いていた。

 炎刃に対してはウロボロスの能力で防げば即座に消え去る。

 圧倒的日々野の優勢で戦いは進み、疲労からだろう、ついに響火の攻め手が止んだ。


「いい加減分かっただろ、どれだけやっても無駄だって。分かったなら一回話を聞け」

「………うるさい、うるさいうるさいうるさい! どうしてわかってくれないの、そっちはダメだって! だって植物人だよ! 敵なんだよ!」

「わかってないのはお前のほうだぞ、響火。な、とりあえず俺を信じてあいつらと話してみないか? 確かに敵として戦ってはいたけどそれには理由もあるし、何より悪いやつばっかりじゃない。この前戦ったクラーレはここにいる人たちとは別らしいし」

「もういい」


 日々野の説得に割り込んだかと、どうでも良さそうに神鎌を放す。変形したままの神鎌がどさっと地面に落ちた。


「ほんとはこんなことしたくないんだよ? だけどもう無理みたい、もう我慢ができなくなってきたの。だからね、………バイバイお兄ちゃん」


 突如、爆発が起こったかと錯覚するほどの殺気が響火から放たれる。

 それと同時に響火の周囲に炎が巻き起こった

 周囲の草木が一瞬にして灰と化す火力に、日々野が一歩後ろに下がる。それを響火は見逃さなかった。

 地面を蹴り、日々野に接近しながら纏った炎を鞭のように操って打ち付けてくる。それを後ろに倒れ込むようにしてかわすが、鞭は背後の木に当たり、砕けた破片が突き刺さる。立木だったはずの木はすでに猛火に包まれて原型を失いつつある。

 追撃を鎌で防ぐが、能力によって完全に炎を消し去る前に途中で切り離され、即座に再生するため効果がない。

 次第に鞭の数も増えて六本を超えた。二次災害として森が燃えることにより自分でもわかるほどに動きも鈍くなってきていた。


〔気づいているか、人間〕

「ああ、混ざってる。あれは響火以外の何かが響火の中に入っている」


 襲い掛かる炎を回避、もしくは鎌で一瞬の間だけだが消滅させて逃れながら鎌の中から聞こえる声に答える。

 時間が経つに連れて、響火の気配が日々野の知るものと変わっていることに気付いてはいた。

 そして変化した気配に似たものを知っていたことも、響火に何があったのか予測する手助けになった。


「モーテス、あの外道が!」


 怒りがこみ上げ、鎌を握る手に力がこもり、柄が軋む音がする。

 響火の中からキメラによく似た気配が感じられる。考えられるのは改造、響火の様子がおかしいのはそのせいだと信じたい。

 だが、それがわかったところで攻撃のできない現状は変わらない。

 無論、逃がしていいわけがない。自分を見逃したとしてもこのまま村に向かわれるだろう、そのままモーテスを呼び出されればすべて終わりだ。

 そして、なにより、今の日々野の実力で響火を倒すことは可能。


「ごめん、響火」


 覚悟を決めて、全身にウロボロスの力を纏い、鎌に闇を纏わせて攻撃に出る。

 防戦一方だった日々野が突然攻めに出たことに響火は驚き、それは鞭にも表れた。

 形は鞭とはいえ本質は炎。一定の火力を保つのは難しく、僅かな集中の乱れでも揺らぎが生じ、炎の鞭が小さくなるところができてしまう。

 そこを目掛けて鎌を振るい、そのまま周囲の炎を気にせずに接近して、響火が鎌の圏内に入った。

 あとはこのまま鎌を振りぬくだけ、


「っつ!」


 日々野は響火の顔を見てしまった。

 四年間とはいえ家族として一緒に過ごした人、そしてまるで戦うことを拒むかのような泣き出しそうな顔を見て、鎌を振るえるほど日々野は人間を止められていなかった。

 一瞬あれば十分だった、日々野の腹部に強烈な一撃が入った。

 少女の細い腕から繰り出されたとは思えないそれは、防御を貫いて体の中心まで衝撃を伝える。

 加えて纏った炎が肌を焼き、激痛を与えてくる。

 そのまま地面を転がるが、経験したことのない痛みに声すら出ない。

 立ち上がろうとするが、それよりも先に炎の鞭が日々野を打ち上げ、宙を舞った。そのまま攻撃に失敗した日々野を一方的に炎が(なぶ)り続ける。

 だが、日々野は防御を保ち続けているため、わずかにしか効いていない。

 日々野もただ耐えているだけではなかった。自分の中に眠る、気まぐれな希望の問いかけに答えていた。


〔何を馬鹿なことをしているのだ、人間。情が湧かないなどと言っておったが、結局はこのざまか〕

 だまれ

所詮(しょせん)、お前は力なき者。望みすぎるのが間違えだと言うことに気付け〕

 ならもっと力を貸せよ。そういう契約だろうが

〔笑止! 我の力は巨大、それを人間如きの器が受けきれると? この程度が分相応というものだ〕

 無茶しなきゃ、俺みたいな弱者は望んじゃいけないんだろ?

〔分かっているのなら、立ち上がれ。そして、敵を斬れ。障害となるものは全て倒す。それがお前の望む世界への道だ〕

 いいや、違うね。俺が望む世界で手放してるのは自分だけでいい、ほかの全部は手放さねえよ。だから力を貸せ、お前の力ぐらい耐えられるに決まってんだろ!

〔ククク、良いだろ。お前がどれほどの人間か試させてもらおう!〕


 ピキッ、世界が軋むがした。

 襲い掛かっていた炎の鞭が吹き消され、響火の纏っていた炎もどこか小さくなる。

 ゆっくりと立ち上がる日々野の体には、破れたゲルトナーの戦闘服の隙間から覗く黒い入れ墨のようなものが走っている。それは右腕へ続き、(ひじ)から先を黒く染めていた。


「on,ziverdelen」


 声に応じて一振りの直剣が右手から生まれる。

 直感でだろう、その直剣の危険に気付いた響火が炎の出力を最大限にして纏い、鞭を日々野に向かって振るおうとしたときには、すでに日々野は目の前にいた。

 今度は躊躇うことなく、響火に直剣の逆袈裟を振るう。さらに返す刃で響火から離れた炎を切り伏せる。

 画面が切り替わるかのように周囲の炎も消え去り、一瞬のうちに全ては終わった。

 直剣を消しながら、倒れてくる響火を受け止め、そのまま地面に下ろす。

 今、響火は静かに息をしているだけで、斬られたはずの胴に流血どころか傷さえもない。


「よかった。………生きてる」


 日々野は生存確認をすると、大きく息をつき、ここが戦場だということも忘れて地面に座りこんでしまう。黒い力の痕もゆっくりとだが体に沁み込んでいるかのように薄れていく。

 そして力の代償が訪れた。

 眩暈に似た感覚が襲ってくるが、これは自分の何か、魂のような何かが削れているのだと本能的に理解してしまう。

 だが、悔いはない。

 そう思いながら、隣に眠る妹の横顔を見て、ほほ笑んだ。


いきなり簡単時系列説明


日々野修業一日目=リンドウ覚醒した日


日々野修業二日目=アヤメ脱獄


現在      =アヤメ一行村に向かって移動中


みたいな感じです。

自分でも書いてて分からなくなりかけたので載せました。


日々野の新技説明は次回に!


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