63,出発準備
モーテスによる侵略が世界各地で巻き起こり、人口が人類全盛期の半数以下にまで減少したころのこと。
各地に散らばっていた植物人に動きが見え始めた。
ある地域ではモーテスの生み出した軍勢と真っ向から戦いを挑み全滅し、また別のところでは人間たちを自分たちの隠れ里に避難させたりもしていた。
そんな中、ある村で一人の子供が生まれた。
人間の男と植物人の女から生まれたその子供は、種魂を分けることができないなど植物人としての力を十全に持っておらず、かといって人間として生きていくには異端すぎた。
どちらにもなれないまま時は流れ、その子供が青年と呼ばれるほどの姿になったころ、その村がついにモーテスの軍勢に見つかり攻撃を受けた。
すでに作られていた神鎌を手にした異形の軍勢は植物人と同等の力を持ち、戦闘は時間とともに植物人側の不利になっていった。
人間は抵抗する力などなくただ殺されていき、植物人は大量の異形によって囲まれ物量の差で押し切られる。
その中で異端と呼ばれた子供だけは違った。
植物人とみられるほどの力を持っていなかったがために囲まれることはなく、かといってただの人間ではないので低レベルの異形であれば倒せたのだ。
だがそれも初めだけ、すぐに植物人を倒した神鎌持ちの異形たちが向かっていく。
本来ならばこのまま殺されてしまはずであった。すぐそこに落ちていた神鎌を手にしなければ。
神鎌とはモーテスが植物人の種魂や自身の力などを基にして作り出した武器である。
対植物人用の武器なため一部の人間にしか使用できないように作られているのは言うまでもないだろう。
この一部とは適合者のことなのだが、これは神鎌のモーテス以外の力をどれだけ引き出せるか、つまりはその力に近い者のことをさしている。
つまり、人間である青年は神鎌を使用することができ、尚且つ植物人でもある青年は神鎌の力を最大限に引き出すことができたのだ。
仲間の血に染まった異形の軍勢を修羅のごとく切り崩していき、最後に隠れ里に立っていたのは青年だけだった。
このことがあったがためにモーテスはディーゼルを作った際に、人間と植物人の間に子供が生まれないように結婚に関する法を厳しく制定した。結婚する際には両者の遺伝子の検査を行うことや血縁者ではないとしても同じ家庭内の人物とは婚約していけないことなどだ(二つ目は森で発見した人と登録をせずに同居している者たちへの牽制のため)。
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「純粋じゃないって、どうゆうことですか?」
「それについて俺は語るつもりはない。知りたければまた今度にしてくれ」
かわした手を解かれながら他我矢の過去について、アヤメに話されることはなかった。
「全員自己紹介は終わったな。それじゃあアヤメちゃん、これからの動きを一応伝えておこうと思う。ちなみに選択権はなくて、俺たちと来るの決定だけど」
他我矢が入り口の戸を閉めると星月が全員の注目を集めるためだろう、一段高くなっている調理場のほうから話を始める。
「まずここにいる全員、世界樹の村に行きます。出発予定は今日の夕暮れ時、おやつは五百円まで、お弁当は必須だよ」
「ここにいるって、私の家族もですか?」
「ん? それはリンドウ君のこと、っと冗談冗談! 鈴ちゃんの家族も含めてだからリンドウそんな怖い顔すんなよ」
星月がいらないことを言ったせいで、話が途切れたかに思えたが、赤面している被害者を無視して話を進めていく。
「まあ、俺が知ってる範囲の人に死なれるのは目覚めが悪いじゃん、比喩だけど。別に気にしないけど」
「ちょっと待って、ここにいたら死ぬってどういうこと?」
「ああ、弥生ちゃんにはいってなかったか、後アヤメと鈴にも。………そうだね、どこから説明しようか」
今まで軽い様子だった星月に薄っすらと真剣さが浮かんだことが事情を知らない三人を緊張させる。
少しの間考える様子を見せた星月だったが、何かひらめいた様子で外に出て植木鉢を持って戻ってきた。植木鉢には小さな木(店主が育てている檸檬の木らしい)が青い葉をつけており、それを机の上に置く。
「んじゃ、簡単に説明していくぞ。まずこれが真の世界全体、宇宙的に言う銀河的なものだと思ってくれ」
「は?」
「うん。言いたいことは分かるが、後にしてくれ。それでこれがこの世界な」
そういいながら檸檬の木の上のほうの枝についた小さな葉をさした。説明を聞いている三人の反応は言わずもがなだが、気にせず続行する。
「それでこっちの大きい葉っぱがモーテスとかまあ俺が元居た世界なんだけど、それはいったん置いといて、今モーテスの野郎は最終的にはこうしようとしています、てい」
「あ、ちぎった」
「え、私たちどうなるの?」
「死にます。正確には世界の養分となるべく消滅します」
星月がちぎった小さな葉をレモンの植木鉢の土むかって投げた。
ポトンと落ちた檸檬の葉は次第に微生物に分解されて土となり、栄養になるのだろう。
簡潔すぎる話の内容のせいなのか、スケールが大きすぎるからか、それともただ理解できていないのか。
冗談だと言いたいようなことだが、言葉から感じられる星月の真剣な意思が否定を許さない。
鈴と弥生からしたら、目覚めたこの世界がすでにファンタジーである。もう何でも来いという気持ちで受け入れれたのだが、アヤメにとっては衝撃的だった。
「その証拠みたいなのはあるの?」
「お前ら植物人が知らない力をモーテスは使ってんだぞ? それを魔法だなんだで終わらせれるほうがおかしくないか? 別世界、この世界よりも高次元からの来訪者って考えたほうが納得いかないか?」
「なら、モーテスの目的は何なのよ! この世界を壊して人間と私たちを戦わせて、遊戯の一つとでも考えているの!?」
「復讐だ。この世界の生物から兵士を作り、本来この世界に流れてきていた力を自分のものにして傷を癒してたんだよ。最後は世界樹って呼ばれてるこの世界と全体を繋ぐ場所から元の世界に帰るつもりだろうな、その際にはこの世界全てを奪い去って………。これが死ぬってことの説明な」
説明を打ち切ると檸檬の植木鉢を卓上に置いたまま、調理台のほうに戻っていき話をつづけた。
「さて、それなのになぜ世界樹の村に行くのか皆さん疑問に思っているでしょう。無論、助かる算段を立てているからです! 計画その一、モーテス+兵隊達が世界樹に総攻撃を仕掛けてるところを襲撃、モーテスは俺が倒す。他は任せる。以上」
「それ作戦といえるの?」
「勿論だ! 何よりモーテス側は今度こそ世界樹を落とせるかもしれない程の戦力なんだろ? それならこっちも総力戦で向かい打って、無理矢理最終決戦にするしかないわけだ。逃げられたらやばいだろ?」
確認するようなその言葉に何となく納得してしまい、アヤメも引き下がるしかない。
「さて、ということで全員夕方までにはここに戻ってくること、では解散!」
星月の解散という合図の後、全員が動き出す。ようなことは起きず、鈴とリンドウがごそごそと用意をしに部屋に戻ったぐらいで残った者たちは時折喋るくらいしかすることがなかった。
だが、彼らは知らないだけで、この時すでに最終決戦の幕は開きかけていた。
今回の話で出て来た内容のまとめ
モーテス・星月→茎に近い大きな檸檬の葉・高次元の別世界
日々野達の世界→端の方の檸檬の葉
モーテスの目的=復讐のための兵隊・能力・治療・日々野達の世界のエネルギーを全て吸収して元の世界に戻ること→つまり日々野達の世界消滅
分からなかったらスミマセン




