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4,本当の出会い

 その姿を見た瞬間、時間が止まったような錯覚をし、息が止まった。


「何しているんですかタケさん」


 竹さんと呼ばれた若草色の長髪女をとがめるような口調。こちらを警戒して話しながら、木の陰から姿を現したその少女は、一言でいうと美しかった。

 俺が、息が止まったかのように錯覚した理由はその少女の周りをふわふわと浮かんでいる半透明の剣でもなく、援軍に恐れを抱いたわけでもなく、ましてや死んでしまっていたわけでもない。

 もうわかっているかもしれないが、その少女が美しかったから。ただそれだけだ。


 白銀の髪に透き通るかのような肌から静かに光る紫の瞳。

 見た目からは、同級生ぐらいかと思ったりしていた俺には、ここが戦場だということも頭からなくなっていた。


「そこのあなたもいつまで倒れているんですか。早く立ちなさい! 仲間の敵として、正々堂々戦いたいの」


 凛として、なおかつ鈴を転がすような声で言い放つ。つい、さっきの不意打ちで死んでたらどうするんだよ、と言いたくなったがこらえる。


「あ、ああ。すまないねっと。言い訳しているように聞こえるかもしれないけど、一つ言わせてもらう。俺は、戦う意志はないし、だれの(コア)も破壊していない。証拠とかいうなら、後ろで倒れているそいつをよく見てみろよ」


 木にもたれかかるようにして立ち上がりながらそう言う。最後のところに驚いたのか、一応こちらを警戒しながら仲間の状態を確認しに行った。ちなみにさっき言ったことは、嘘ではなく本当の事である。


 あの時、倒せないかもしれないと思ったので、奥の手の一つである先端についている短剣を飛ばしていたのだ。

 短剣には、核を破壊できる力が宿っていないため、胸元に刺さっていたとしても死んではいない、いや、殺せないの方が正しいか。


 そんなことを知らない少女が、確認をしに行っている間に少し激しくなった胸の鼓動を抑える。出合頭に仲間を刺されている、なんて考えられる中で最悪の出会いだろう、などと少し残念な気持ちだ。


「タケさんは、無事なようです。だけど、あなたが敵であることに変わりはありません! さあ、武器をとってください!」


 確認を終えたらしい彼女は立ち上がり、仲間の側から離れないまま、再び戦うよう言ってくる。武器を構えない限り攻撃する気はないのか、そんな態度を示している彼女に一つ問いかける。


「なあ、一つだけ聞いてもいいか」


 相手は、俺の世界(ディーゼル)では敵対者と考えられている者で、彼女にしては、こちらこそが敵であり倒さなければいけないと思っているのかもしれない。


 もしも、この質問の返答によっては変わるかもしれないという、とくに根拠のない望みがある。その望みが、願いがかなってほしいと思いながら呟いた。


「なあ、こんな戦いやめようと」

「そんなこと……そんなこと知らないわよ!」


 言葉を遮り、否定するかのようないつもと同じような言葉に鎌を握る手をより強く握りしめる。そうして、武器を構えようとしたとき、


「だけど、こんな戦いなんてしたくないし、終わるなら終わってほしいわよ」


 そう少女が諦めたように、だが、強い意志の持っていった声が耳に入った。


 驚きに再び時間が止まったような錯覚を覚えたが、少女は、何かその言葉に予想以上の思いがあるのか、武器を構えたかどうかなんて関係なく、二本の剣がこちらに向かって飛んでくる。


 二本の剣は途中で左右に分かれて向かってくるが、鎌を円を描くように振るいそれらをはじきながら呼びかける。


「待ってくれ。俺に戦う気はない。話し合わないか!」

「黙りなさい! 敵の言うことなんて絶対に信じない! 耳なんて貸すものか!」


 話す余地のなさそうな切り返しに次の言葉を選ぼうとするが、そんな暇もなく次々にはじいた剣が何度でも舞い上がり飛んでくる。

 現在確認した剣の本数は同時に五本まででそのうち二本は、少女の手の中にある。

 ならばと思い、前後と上空から迫ってくる三本の剣に対してその場で回転。前後の二本をはじき鎌の力を解放する。


「gann,apeiron起動、星をも喰らい、すべてを戻せ!」


 すでに待機時間(クールタイム)の終えた鎌の力を発動しながら真上に跳び上がり、迫っていた剣を消し去る。これで四本になったかと思ったが、少女は、何かを唱え新たにもう一本剣を現した。


 鎌の力で減らしても増えていく剣に対して、相手の攻撃を止め会話できる方法、思いついたのは、一つだけだった。何度も飛来し続ける剣は、こちらの体力を削っていくばかり。仕掛けるには早い方がいいと思う。

 同じようにきた三本を同時にはじき、そのすきに森の中へ入り鎌を大きく振るう。


 通常であれば鎌は、ただ振るうだけでは何も切ることは、出来ないが、この鎌は、物質を刃で切断しているわけでなく、鎌が当たった部分を分断している。

 その特異な性質によって振るった鎌は、周囲の木々を切り倒し砂煙を上げながら倒れて行き、一時的な壁を作り出した。


 俺は、手に入れた一瞬のすきに自分の中の無意識の神経すら操作とする。

 痛点の感度をダウン、続けて筋肉の収縮を強化。それでも足りていないことに対しては、鎌の柄の部分からアドレナリンと医療用の薬物を取り出し腕に打ち込む。

 効いているかどうかも確認する前に体力をすべて使ってしまうことも気にせず、あらゆる能力の底上げをしながら、壁代わりにしていた倒木から飛び出し先ほど彼女がいた方向へ向けて走り出す。


「あなた、それでばれていないと思っていたわけ?」


 白銀の髪を揺らしながらこちらに向かって走ってくる。お互いが同じ方向に向けて走っているこの状況下で互いの距離は、単純に考えて普通の二倍の速さで縮まってゆく。


 そんな状況で俺は、左足に重心を置き、まわり始める。

 カキン、背後から迫っていた二本の剣を鎌の柄に突き刺し、そのまま鎌ごと地面に突き刺す。

 それらのことを、一回転という動作に押し込ませて何とか成功させる。もちろんそれなり代償はあった。


 初めの不意打ちによって受けたところにちょうど剣が一本突き刺さり、血が流れ出ている。先ほどの肉体強化のおかげで何とか倒れることなく真正面の少女に向かい直す。

 痛みに顔をゆがめつつも残り数メートルの距離に迫る双剣を見る。


 風の音とともに瞬きする間もなく、残りの距離もなくなり双剣が振り下ろされた。

 強化された反応速度と動体視力によって見える双剣の軌道。その軌道の上に自らの両腕を交差するように突き出す。

 そのようなことをすれば、骨で止まれば御の字、腕を切り落されるかもしれないことを百人中百人全員が予想することだろう。


 もちろんそのことは、今、双剣を振り下ろそうとしている本人もわかっているようで、驚きが顔に出てしまっている。 

 

 腕に突き刺さる恐怖心よりも先に、一対の花びらを模したような双剣が振り下ろされる力や重力などによって強化されながら腕に向かって落ちてくる、肉をさきながら進むも二本の剣は腕の半ばで止まった。


 緩和されていると言え、痛点が感じた痛みが脊髄を通り脳を熱くさせる。

 切り口からは血が溢れ出ているがその暖かみを感じる余裕はない。あまりの激痛に叫びそうになるが、のどの寸前で押し殺し、手に入れた一瞬の時を最大限利用しようと声を出す。


「俺に……戦う気は、ない……。少し、話せないか」


 突然の休戦提示に驚いたのか、それともさっきの腕を使った防御法への驚きがまだ抜けていないのか、それとも両方なのか判らないが、声をかけるとはっとした様子で口を開いた。


「……本当に戦うつもりは、ないの?」

「ない。というか、戦いを続けれないな」

「腕、痛くないの?」

「痛い。限界なんだが、早くこっちの質問にも……答えてくれないか」

「まあそうね、ならもし休戦をしたとして、あなたにどんなメリットがあるの」


 意外な質問に、返答を考えそうになるが本当に思っていることをはっきりと言い切る。


「メリットはない。だけど、戦いたくないのに戦うことは、なくなる。それに俺は、真実を知りたいだけだ。だから……」

「わかった。あなたの言葉を信じることにする」

「え、本当」


 あっさり言われた休戦同意におどろいた。

 異なる行動を示せるほどに名演説をしたつもりはないし、ついさっきまで俺を殺そうとしていたにしては、心境の変化には短すぎる時間。

 だが彼女は違っている。


「私の名前は文目。よろしく」


 名前を言いながら手を伸ばしてきた。

 やっと見つけた、ほかとは異なる気持ちの植物人の少女に痛む手を挙げて、その差し出された手を握る。


「俺の名前は、日々野。これからよろしく」


 きっと初めて人間と植物人とが協力することだろう。


 街中とは違う森の澄んだ空気の静けさと、月明かりが新たな一歩を踏み出した二人をたたえているようだった。


次回

アヤメ目線での話です。少し短めだけど読んでみてね!

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