56,レベルアップ2
「足元、気を付けてね」
それを言い終わるか否や日々野は自分の足元に発生した熱を感じたが、そこまでだった。
周囲の地面ごと爆発する。
範囲はそこまで広くはないがなかなかの威力だったようで、周辺の木々の枝が爆風だけで折られ飛んで行ってしまうほど。
「どう言うことだ、カグヤ」
爆発によって舞い上がった砂煙が収まる間もなく木々の影から一人の男が現れる。
特攻服のような薄く白いロングコートを羽織った黒いオールバックといった昭和ヤンキーのような容貌、それに似あうように顔を怒りの一色に染めているが理由は明白。カグヤが日々野を連れてきたことだ。
爆発の範囲を見極め、ぎりぎりの位置で逃れていたので無傷なカグヤは日々野が爆発に巻き込まれたのにもかかわらず何もなかったかのようにクスクスと笑っていた。
「ほんと、いつ見ても派手よね~。ローくんの能力は」
「今はそれじゃねえだろ。いくらあんたでも人間連れてくるなんて、何考えてんだ!もし世界樹の場所がばれでもしたら責任なんて問題じゃ済まねえぞ」
「も~、そんなに怒らないでよ。私はこの子は必要だと考えたうえで連れてきたんだから~。それに私の方が強いから世界樹の場所がばれても問題ないわよ~」
「・・・たく、村の中でも指折りの実力者が何言ってんだ。まあ、この程度の人間に何が必要だったのかは気になるけど」
ため息をつきながら怒りを治めるが、その言葉にカグヤは笑うのを止めて戦闘時の表情に変わった。
「何言ってるの?あなたのほうが弱いわよ」
「はあ、あいつのほうが?死んだのにか?冗談はやめてくれよ」
「勝手に殺すな!」
収まりかけた砂塵の中から無傷の日々野が鎌を振りかざしながら跳びだしてくる。
敵とみなした男に対して遠慮のない殺意のこもった一振りが油断していた男の背中に直撃。勢いの乗った一撃に男は木々の合間に飛ばされていった。
「カグヤさんが裏切ったのかと思って、冷や冷やしてたんですけど」
「あら、実戦経験は多い方がいいでしょ。それに一声かけてあげたんだから感謝しなさい」
「確かにギリギリ障壁の展開が間に合いましたけど、もう少し早くてもよかったんじゃないですか?」
「この程度で死ぬとは思ってないから。遅かったら全身熱傷状態で村に連れていくつもりだったから」
降りぬいた鎌を構えなおしながら戦いの合間だというのに愚痴を言い始める。
カグヤの見立て通り植物人の男は、残念ながら今の日々野にとっては余裕が生まれる程度の相手でしかなかった。
ウロボロスとの契約で日々野は身体能力が上がっただけではなく新たにいくつかの能力も使えるようになっている。
今使った障壁も本家には及ばないがかなりの強度を持ち、爆発を至近距離で受けたにもかかわらず無傷で済むほどのものだ。
ちなみに無傷にもかかわらずこのタイミングで出てきたのは、隙をつくこともあるが砂煙の中で二人の話を伺いながらカグヤが裏切っていないかを確認していたのもある。
そこまで話したところで日々野達は互いに反対の方向へ飛び退いた。その瞬間先ほどと同じ爆発がさっきまで二人がいたところで起こる。だが問題はない。
「くそ、これは裏切ったってことでいいのかカグヤ!お前でも村の全員を敵に回して無事でいられると思うなよ!」
曲がりなりにも植物人。鎌の一振りで戦闘不能になってくれれば苦労はしない。
男は木々の間を走りながら手からピンポン玉ほどの球を出すと連続して撃つ。距離的に近いこともあるのか狙いは日々野の方に集中している。
そのすべてを斬ろうと鎌を振るいかけたところでカグヤが大声で叫んだ。
「その種が爆発のもとになっているから気を付けなさい!」
「ばらしてんじゃねえ!」
男の反応を見たところ、爆発のもとだというのは本当のようだ。
それを聞いて日々野は鎌を振るうのを止めようとしなかった。
「gann,apeiron起動」
囁くように素早く言葉を発すると鎌の刃が漆黒に包まれ、今にも爆発しようとしている赤い球めがけて鎌を振るう。
一部の狂いもなく中心を切られた球は爆発せず、初めから何もなかったかのように消滅してしまう。
勢いそのままに今度は日々野から次の球を打とうとする男に接近しその首に鎌を突き立てる寸前、息をすれば触れてしまいそうな近さで鎌を止めた。
「ちなみにこの鎌、触れたモノの存在を消すことができるから。核じゃなくてもお前を殺すことは可能ってこと忘れるなよ」
男は首元に突き付けられた黒い刃に目をやりながら日々野を睨みつける。
この能力は元から使えていたがウロボロスとの契約によって、待機時間や使用回数などの制限がなくなっている。なのでもし男が鎌に少しでも触れようがものなら、一瞬もせずに消滅することができる。
「はい、そこまで~。ローくんも日々野君の実力がよ~く分かったでしょ?だから、おとなしく話しできる?」
いつの間にかすぐ傍まで戻ってきていたカグヤが一触即発の空気の二人に声をかける。雰囲気も平常時のものに戻っており戦闘が終わったことを暗に表していた。
そのことを日々野同様に気づいたのであろう男もあきらめたように殺気を治めていく。
「わかったよ。死ぬのは嫌だからな。だからこの鎌をどけてくれよ、おちおち喋ることもできねえ」
「……………」
「日々野君、大丈夫だから鎌を収めて自己紹介でもしましょ」
「わかりました」
カグヤさんがそういうならば、といった感じで刃から漆黒を払うと鎌を消してしまう。
冷静な態度を装っているが日々野の内心は沸き立っていた。
正直なところ勝負にすらならないこともあった植物人本体との戦闘であっさりと勝てる自身の力の上昇具合が嬉しくてたまらないのだ。
ということなど露も知らないカグヤは宣言通りお互いを紹介し始めだした。
「それじゃあ、この子はローくん」
「ロッジだ」
「ローくんは見ての通り真面目な子だから仲良くなれると思うよ~」
見た目通りとは一般的な意味とはちがうものがあるのだろうか。このオールバックにヤンキーファッションのどこをどう見れば真面目な要素が生まれてくるのか分からない。
(by日々野)
男、ロッジは日々野を警戒しているようで仲良くなれる雰囲気などないことはカグヤの眼中にない。それに、ローくんと呼んでいるのはカグヤの一方的なものらしい。
「それでこっちは日々野君。アヤメちゃんの彼氏」
「ちょっと待て今彼氏って」
「ゲルトナーの人間だったんだけどアヤメちゃんとの密会がばれちゃったみたいで、今はお尋ね者の逃亡者ね。あ、アヤメちゃんの言ってた人間の協力者っていうのもこの日々野君のことだから」
「大事なのはそこじゃねだろ!」
このモヤシみたいにひょろい男がアヤメの彼氏だと?黒い鎌なんて得物つかう死神みたいなこいつのどこにアヤメは惚れたんだ!それよりなぜ人間なんだ、訳が分からねえ!
(byロッジ)
そう、ロッジ君はアヤメちゃんに惚れている恋するヤンキー君なのだ!
それを知っているカグヤがわざと日々野とアヤメの関係を恋人と紹介したのかはわかりきったことだろう。
面白いからだ。
日々野とアヤメ恋人発言に関しては日々野も黙ってはいられない。
別に嫌というわけじゃない、むしろそういう関係になりたかったが勝手に決めてしまってはいけないのではないか?アヤメの意見とか考えもあるだろうし。
など色々と(無駄に)考えてカグヤにだけ聞こえるように耳元で小さな声で話しかける。
「あの、一応まだ付き合ってないんで相棒とかにしといてもらえませんか?」
「あのね、日々野君。アヤメちゃんはモテるのよ。ここで俺が彼氏だけど何か?ぐらいの気持ちで挑まなくちゃダメよ」
「はあ」
どうやらカグヤは二人の関係について訂正するつもりはないらしい。
日々野もあきらめたわけではなく、いっそこのままで良いか的な感じで引き下がる。
このことに納得できないのはロッジなのだが、まずこのことが嘘だと知らないことに加え、話しているのがカグヤだということもあり口答えはそこまでできない。
結論
「そうか、日々野っていうんだな。そうだアヤメとどこまで行ったのか教えてもらおうか!俺たち親友だろ、ほら村まで案内してやるよ!」
ロッジの恋心はギリギリのところで砕け散らなかった。
日々野から進捗具合を聞くまでは、どのくらい進展しているかはわからない。
もしかしたら形だけの付き合いかもしれないし、あわよくばアヤメと付き合う道もあるかもしれない、などの打算的な考えがあるので親友という形で付き合うことにしたのだった。
ある意味カグヤの言った通り二人は仲良く?なったがここまで計算していたのかはわからない。
だが、無理やりに肩を組んで村の方向へと日々野を連れて行っているところを見ると悪い関係にはならないだろう。
とりあえず、日々野達は植物人の本拠地である世界樹の下にある村へと行くのであった。
村への道中
「それでどこまでいったんだ?」
「手はつないだな」
「ふむふむ」
「あとデートに行ったり」
「ぐふ」
「それで同じ家に住んでたり」
「ごふぁ」
ロッジ君の恋路は終わりました。
----------
ロッジ君➡植物名ロッジポールパイン(馬の方じゃないよ)




