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51,囚われの姫

FROMディーゼル

「ん、」


 真白な部屋の真ん中にある豪華絢爛な金の檻の中に一人の少女が一糸まとわぬ姿で転がされていた。

 ゆっくりと呼吸をしていたが時折、何か思い出したかのように苦しそうな声を出す。 


 その部屋にいるのは少女一人だけではない。

 金の檻とは反対に何の意匠も施されていない無地の生地であるのだが、高級感を醸し出す純白の白衣を身にまとった金髪の男、この街の支配者であるモーテスだった。

 その顔には街の人々に普段見せている朗らかな笑みではない、口が裂けたのではないかと思う程口角の釣りあがった笑み、心からの笑みを浮かべていた。


「ククク、クハハッハハハハ! 四年も待ち続けて、漸く我の元にやってきたか、虹の女神。さあ、我の者になれ!」


 檻の中で眠る少女、アヤメに向けて手を伸ばしたが、それは肌に触れる直前で何もないはずの空間に生じた衝撃によって弾かれてしまう。


「まさか、これは……ヤヌスの奴め。この我に対して何処までも邪魔をしたいようだな」


 弾かれた指先を握りしめながら、恨み言を呟く。

一見冷静そうに見えるのだが、白い顔は沸点など遠に過ぎ去った怒りによる純粋な殺意の表れであり脳内は狂気に溢れかえっていた。


「……っふ、まあ良い、我が手にしたのに変わりはない。先に奴を殺し、その後で虹の女神を取り込むまでだ」


 自分なりの解決策を見つけたのか満足そうな笑みを浮かべると、この部屋唯一の出入り口に向けて声をかける。


「おい、お前らもう入ってよいぞ」

「りょ、了解しました。失礼します!」

「たく、何をしてたんだか知らねえけど、この俺様を待たせんじゃねえよ」

 

 呼びかけに応じて入ってきたのは脂ぎった皮膚を照からせる丸々とした体型の蔵餅と赤髪の不良にも一見見える植物人のボタンだった。


 因みにこの二人こそが日々野とアヤメを捕まえるように指示した元凶である。

 ボタンは元仲間であり普段から疎ましく思っていたアヤメを痛めつけてから配下にしようと考え、蔵餅はあの日、土の町で逃げられたアヤメと恥をかかされた日々野の二人に対して何かしらしてやろうと考えていたところもあり、利害が一致した。

 初めは蔵餅の持つゲルトナー内の権力を使ってという事だったが、アヤメのもつ力に気づいたモーテスが出てきたせいで聖王会まで動きだしたのだ。

 結果(二人の行動がバレたわけではなく)反逆罪という事で指名手配され、そういう事ならばとボタンが自分の核の半分を消し去った星月までリストに加えたのが今回の発端であった。


 ボタンとしてはボロボロの姿で何も出来ずに捕らわれの身となったアヤメの姿を見ることが出来ただけで目的のほとんどを達成しているため、この場に来たのは蔵餅の護衛兼アヤメの姿を見に来ただけだった。

 だが蔵餅の方は違っていた。

 今も粘り気のある視線でアヤメの全身を嘗め回すように見ながら、重そうな頬を揺らしながらにやにやと笑っている。


「(男の方は死んだ。美しい女の方は植物人だったらしいが、それもモーテス様が()()()()()()()()()らしいし)」


 全てが自分の望むがままに事が進んでいるとしか思えない状況を満喫している蔵餅はふと思いついたことを口にする。


「あの、モーテス様。その、ずっと眠っているようですがこの女と話すことは出来ませんかね。話してみたいのですが」

「別に構わないですよ、私の力で眠らせているだけですし」

「おいおい、そんなことして大丈夫なのかよ! 此奴の剣は金属でも切ると思うぞ!」


 そう言うと蔵餅が気づくことはないがボタンには感じられる何かの力をアヤメに向けて放つ。

 何気ないことの様にそんなことをモーテスに対してボタンは咄嗟に慌ててしまったがそれは無駄なことだったらしい。


「ん、ここは……、ボタン!」


 目が覚めたアヤメはまず自分が閉じ込められていることと檻の外に立つ裏切り者(ボタン)の存在に気づいた、次の瞬間には花弁の剣を呼び出す。

 が、その手に剣が現れることはなかった。

 

「くくく、残念だけどその檻の中では君はなんの力もない非力な唯の女の子だ。おっと蔵餅君、だからと言って手を出してはいけないよ。もし封印が解けてしまっては大変だからね」

「っは、はい! 勿論です。モーテス様の言われるとおりに致します」

「よろしい。それなら私は戻るとするよ、そうだボタン君ちょっと良いかい。外に来てもらえるかな」

もらえるかな」

「仕方ねえな、俺のしたい事は終わったし行ってやるよ」


音を立ててドアが閉まると部屋の中には蔵餅とアヤメの二人だけになった。

 アヤメはモーテス達が出て行ったことである程度の警戒が解けたのか、今になって自分が服を着ていないことに気づき赤くなる。

 だが、あくまで平静を装いながら立ちあがるとベッドの布団を体に巻き付け簡易的な服代わりにした。

 いやらしい目つきを向ける蔵餅は少し残念そうにしながらも檻の近く、ぎりぎり手を伸ばしても触れられないところまで近づくとアヤメの放つ嫌悪感など気にせずに話しかける。


「ぼ、僕のこと覚えてる?」

「……悪いけど記憶にないわ。でも、こんなことされて仲良くっていうのも無理なんじゃない? 剣が出せれば殺してやりたいぐらいだわ」

「でも君はここにいる限り何にもできない。今すぐ植物人だから見せしめに殺されてもおかしくないんだよ? 僕はこの街で一番のお金持ちだし権力だってある。その、僕のお嫁さんになった方がいいと思うけどなぁ」


 断る理由などない、まして自分の提案を断るような真似をするはずはないと蔵餅は思っていた。

 だが、アヤメの考えなどすでに決まっている。


「論外。死にたくはないけど、殺される覚悟位とっくに決まってるわよ。今更命乞いなんてかっこ悪いと思うしなんかあなたには無理だわ。それに、日々野が助けに来てくれるはずだから」

「……残念だったね、男は死んだらしいよ」


 蔵餅は前半の断られたは部分は聞かなかったことにして後半部分だけに答える。


「死んだって、そんなわけないでしょ! だって」

「本当だよ。何でもたくさんの血の跡があって、それが滝で途切れてたらしいから。とても高い滝でもし落ちてたら鎌の力があっても助からないそうだよ」


 我が意を得たりとでも言いたげな蔵餅を無視して、アヤメはもう一度意識を集中させる。

 どうもこの檻の中では能力を発動することは出来ないようだが、檻の外にある日々野に渡した腕輪は消えていないよう。

 どれだけ離れていても自分の能力は感知できる。つまり腕輪を中継地点にして所持者、日々野の存在を確かに感じられているのだ。


「(もしかして、気づいてないだけかも。それなら黙っておいた方が良いかな)」

「それじゃあまた来るから。その時は、ぐふ、いい返事を頂戴ね」


  アヤメが何を考えているのかも知らずに黙り込んだのを肯定と思ったのか蔵餅は満足そうに出ていった。

 白い部屋に一人残されたアヤメはかすかに感じる彼の気配だけを辿ることをしながら目をつぶった。


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