50,遭遇
空は夜明け前の暗さと赤い球体によって降り注ぐ赤い光が混ざり合ってまさしく混沌と呼ぶに相応しい景観。
地平線まで一直線に続く道沿いには洋風でレンガ造りの高い建物の群れが砂に埋もれながら、傾いていたり屋上だけを辛うじて覗かせていたりした。
呼吸や重力の感覚に違和感はなく、気温も少し肌寒く感じる位だが問題はない。
「ここが鎌の中ってわけか」
今いるのは多分この世界で一番高い建物であろう時計台の天辺。
意識が戻ったのがここだったのでまだそんなに時間は経っていない。
周囲を確認した感じだと何の気配も感じず、敵どころか力の所有者すら出会うのに苦労しそうだ。
腕時計を見てみると三本の針が思い出したかのようにキリキリと動き出していて正確な時間を示してくれる。
よかった、これで残り時間を確認できる。
「とりあえずここから降りて散策してみるか、とその前に」
テールイーターが呼び出せるかどうかを確認するため、いつものように意識を手元に集中させたその時だった。
鎌が現れる代わりにモスキート音のような頭に響く音が地平線の彼方、一か所から聞こえてきたような、いや確かに誰かが俺を呼んでいた。
「もしかして、力の所有者?」
視認するのも難しい距離にあるその一点を注意しながらもう一度、鎌を呼び出してみたが今度は何事なく鎌が手元に現れる。
一体何だったのかよくわからないが、そこに何かがあるのは確か。
そうなると手掛かりの何もない今、そこを目指すほかない。まあ目的がはっきりしたのは良いことだ。
一先ず、俺はそこにいるであろう所有者目指して時計台を飛び降りた。
走り続けること十三時間、制限時間まであと三十五時間弱。
途中から砂漠になった道を全力で走り続けたはずなのに疲労感はあまりなく、そのおかげもあってようやく目的地の姿が見えてきた。
「な、何でこれが」
目的にの姿につい、ため息の様に言葉が出てしまう。
砂漠の中に建てられた巨大な三角錐の建物、そう、目的地の正体はまさしくピラミッドだった。
「いやいや、ピラミッドってここ鎌の中の世界のはずだろ。何で古代建造物なんかが、それもめちゃ綺麗だし。いったい誰のなんだよ」
まだ距離はあるはずにも関わらず、ピラミッドそのものではない中にいるのであろう力の所有者のたじろいでしまうほどの圧倒的な存在感がビリビリと伝わってくる。
ヒュ、カキン
誰もいないはずの真後ろから迫ってきていた何かを鎌を振るって弾き返す。
ここに来てから常に警戒していたが攻撃を防げたのは、木人達の全方位からの攻撃を球型防御で防ぎ続けるという修行のなかで自分の死角を理解していたからこそだろう。注意をそれらの位置に集めていたのが功を奏した。
そして、それだけで終わるほど甘い修行を受けていない。
更に勢いを利用しつつ鎌の刃の軌道で球を完成させながら振り返って相手の姿を見た。
そこにいたのは緑色の球形をした何か。
俺がまだ生きていることに気づくと自分の一部を刃のように鋭く硬質化させて伸ばし、触手のようになった一部が硬さを保ったまま打ち込まれる。
だが最初と同じように鎌で弾いて防ぐ。
敵の触手は二本四本と倍々に増えていき、すぐに三十を超えた。だが、俺の鎌を振るう速度も相対的に上がっている。
触手が増えるにつれて本体であろう球体が小さくなっていくにつれ、その体の中心に他とは違う植物人の核のようなものが浮かび上がってきた。
「疾ッ!!」
鎌を振るう速度を一気に上げてまとわりついていた触手を切り刻み、一瞬だが隙を作りだしてアッパーのようなカウンターを下からその核のようなものに叩き込む。
ほとんどの触手が切られ体積を減らしていた球体の敵になすすべはなく、コアを両断した。
どろりと核周辺が溶けたかのように乾いた砂漠の地面に落ちていき、初めから何もなかったかのように跡形もなく消えてしまった。
正体も何もわからないままいなくなってしまい後味が悪い。もしも、この世界の住民だったりしたら侵入者を倒そうとしただけの無辜の民(?)を殺してしまったのだ。
まあでも、攻撃されたのに変わりはない、いざとなれば正当防衛と言いきろう。
「まあ、最悪の場合、戦闘は覚悟すべきだよな。てか元から戦う覚悟はしてたけど、それは敵であって……」
色々な場合を考えてしまい悩みそうだったが止まってはいけない。今の戦闘でほんの少しだけだが時間をロスしてしまったのは事実だ。
過ぎたことは割り切ろうと決め、再びピラミッドを目指して走り始めた。
次回は来週土曜の予定です。




