48,修業一日目
「いい、あなたの鎌の使い方は相手の首ばかり取ろうとしてる攻撃一旦なもの。でも、そんな農器具でまともに戦えるわけがないでしょ」
「は、はい!」
「だから本当は守りからのカウンター型にすべきだったのよ。都合のいいことにその鎌に宿っている力も防御にはうってつけらしいし。ほら、上が開いてる!」
「なんで、そんなことが、わかるのか、知りませんけど、お願いですから、話、ながら、攻めてくるのは、やめてくださ、ブヘッ」
静かな森に響く、情けない叫び声は竹槍の横なぎで打たれた俺がだしたもの。
修行が始まって早数時間、始まった時には森から少し出てきているぐらいだった太陽が今は頭の上にまで昇っていた。
少し戻って今朝
起きた段階で大体の怪我や痛みはカグヤの言っていたように引いていたのだが、何かやばい薬でも打たれのかと考えてしまい、恐ろしいこと極まりない。
言われるがまま用意された朝食を食べ、この数日の間に直してくれていた隊服をきて外に出てみると既に準備万端のカグヤが俺を待っていた。
初めてあった時のような浅葱色の着物を着て、手には地面から俺を襲ったあの忌々しい竹槍(先は落としているよう)がある。
「それじゃあ始めましょうか。とりあえず今日は攻撃の防ぎ方とカウンターね。段々早くなったり視界の外から打ち込んでいくけど死ぬ気でやりなさい」
「実戦の中で学べってことですか、スパルタですね」
「スパルタに決まってるでしょ。残り二日で強くなって貰わなくちゃいけないんだし」
「え、二日でですか!聞いてませんけど、詐欺ですか、詐欺ですよね!」
「仕方ないわね、ならご褒美ってことで今から一回私に武器を当てるごとに質問権を一つ与えましょう。それでいいでしょ? じゃあ、スタート」
聞く耳を持たないまま一方的な交換条件を言うが早いか、一気に距離を縮めてくる。
「テールイー」
「遅い! 敵が目の前にいるんだからそんな悠著に武器出すなんて論外。一瞬よりも速く出しなさい!」
「ぐほっ」
反応出来ないまま手加減なしの突きが鎌の力も何もない素の腹に突き刺さり、痛みとこみ上げる吐き気でうずくまってしまう。
「何してるの? そんなことしてたら、こうやって上から串刺しにされちゃうわよ」
ヒュッと風を切る音共に目の前の地面に竹槍の先が突き刺さる。
見上げて見えたカグヤの目はマジだった。そんなへこたれてたら殺っちゃうわよ、的な感じで。
訓練だと思って緩みかけていた緊張が一瞬にして引き締められる。
地面がカグヤの武器の動きを封じてくれている今のうちに転がって離れて立ち上がった。
「来い!」
略式で鎌を呼び出して半分ほどだが力を引き出しながら、鎌を手にした勢いそのままに漸く武器を地面から抜いたカグヤ目がけて跳びかかる。
だが、鎌を振り下ろすその前に何が起きたのか理科逸する間もなく肩の痛みと共に視界が反転して再度うつぶせになってしう。
「だから、攻撃じゃなく鎌をどう使って防御するかを教えるって言ったわよね。それなのに飛び掛かってくるなんて言うことが聞けないのかしら? それならしかるべき対処をしなければいけないわね」
聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調でゆっくりと歩み寄ってくる。その顔に浮かんでいるのは万遍の笑み。
「そ、それはどのようにでしょうか」
「勿論、体に教えこむまでよ」
パッと花が咲いたように笑うがそれはアヤメが笑った時の様な純粋さはなかった。
例えるとしたらいたぶり甲斐のありそうなネズミを見つけた時の猫、もしくは危ないお店の女王様のような嗜虐的で光悦とした笑み。
リンドウとかがタケ姉さんと呼んでいた理由ってもしかしたらこういう事なのかな、とか現実逃避を仕掛けたところを竹槍を素振りする音が現実に引き戻す。
「ほらほら何休んでるの? 2秒以内に立ち上がらないと軽く刺すわよ」
「はい!」
悲しいことに本能なのか自分でも気持ちいいくらいの返事をしながら立ち上がって言われるがままに動いてしまう。
カグヤさんが竹槍を振るう速度はギリギリ反応できる位にしてくれているのはすでに気付いているが、それに対して反撃をせずにひたすら防ぎ続けろというのはなかなか難しいところだ。
一応、四年間攻撃重視の鎌の使い方をしてきただけあって打ち込めそうな隙があれば、ついそこを責めたくなってしまい、結果わざとその隙を作っていたのであろうカグヤさんに打ちのめされる。もしくは吹っ飛ばされ続けていた。
現在
「それじゃあ、いったん休憩ね。午後は別のことをするから」
そんなこんなでようやくカグヤさんの手が止まった。結局俺は一度もカグヤさんに鎌を当てることができなかった。
叩かれた痛みよりも、後半先端をとがらし始めた上にどんどんと加速してくる竹槍を防ぎ続けなければならず、そのせいで張りつめていた緊張が一気に解けて立ち上がれない状態になっている。
カグヤさんの方はこの程度何ともないのかいつの間にか家の中から遅くなったが昼ご飯であろうおにぎりを持ってきてくれている。
「お疲れ様~、これ食べて午後も頑張ってねえ」
「・・・なんか食べてあんな運動したら吐いてしまいそうで怖いんですけど」
「大丈夫大丈夫。午後は違うことをするから、さっきのよりも動きは少ないし食べても大丈夫だよ」
「なら、ありがたく頂きます」
差し出されたおにぎりを受け取って食べてみるが程よく塩味が利いていて具などないが十分に美味しい。
一緒にお茶もおいてくれたのでほんの少しだけゆったりと気を抜いた。
正直、さっきまであんな女王様だった人がおっとり系お姉さんになっていることの方が恐怖なのだがそこは気にしない。気にしたら負けだ。
そんなことを思いながら休むこと十分ほど、カグヤさんが家から出て来るのが見えた。
午後の訓練が始まるのだろうと考えて、午前中の様に気を抜くような真似はせずに立ち上がって準備をする。
「それじゃあ始めるわよ。さっきも言ったけど午前中みたいな打ち合いはしなくて、私のすることをよく見てマネしてくれたら良いから」
そう言いながら武器を出しクルクルとバトンの様に回し始める。
円を描くような動きからだんだんと速さを増していき、次第に体の前を覆うような半円状の軌道になったところで速度が固定される。
「午前中である程度どうすれば相手の攻撃が防げるかは分かったはずよね。この動きはそれの応用編だと思ってくれたら良いわ。コツとしては読まれないように同じ軌道で回し続けないことと、密の低いところを作らず均一な円を作ること。この二つを守って、そうね夜まで回し続けなさい。様になってきたら妨害もするから。はい、スタート」
目的と要点だけ言うと開始の合図を送ってくる。
・・・見ていた時は傘を振り回して遊んでいた時と様な感じかと思っていたのだが、実際に鎌を出して回し始めてみると難しい。
遠心力で外側に鎌が引かれていき、それを抑えようとしたらしたで円が作れなくなってしまう。それに加えて、手元が狂えば刃先が自分に向かって来る危険まである。
だが続けるしかない、強くなるために。
「それじゃあ私は見回りに行ってくるね」
開始からどれ位経っただろう。ずっと見ていたカグヤさんが突然そんなことを言いだした。
「俺がサボるとか、考えないんですかっと」
「それくらいのこと対処するに決まってるでしょ」
さっと手を挙げると地中から木人が二十体現れる。
これに見張りをさせておくってことね。合理的でよろしいことで。
俺がコツを掴み始めたのに気づいて次のステップであるカウンターを練習させるつもりなのだろう、わざわざ見張りという名目で木人を出したのもカグヤさんではなく木人になら手加減なしで打てるという理由からか。
「みんながダメになっちゃった頃に帰ってくると思うから。手加減するように言ってるけど帰ってきた時にボコボコ殴られた死体にはなってないでね」
「それ手加減って言いませんよ、ってうぉ」
返事をしようとしたところに一体目の木人が特殊能力なのか腕を鞭のようにしならせながら打ってくる。
そのせいで森の中に消えていくカグヤさんに文句の一つも言えなかったが、まあいいや、その分こいつらに八つ当たりしてやる。
鞭のような腕はカグヤさんの打ち込みと比べたら遅い、とまではいかないがどんな風に来るかがある程度予測できて動ける位。
予想した動きに合わせるように下から回ってきた鎌の先をひっかけて弾く、そして間髪入れずに一周してきた鎌の遠心力の加わった一撃を叩きこむ。鎌の重さと本来の切れ味、そして速度が一点に集中し鎌の持つ切断能力など使わずとも鉄骨に比例する硬度の木人の腕を切り裂いた。
腕の半分を失った木人は腕に長さを戻しながら後退する。
「よっしゃあ! どんどん来いや!」
自分の中で熱く燃える何かを抑えられずに雄たけびを上げた。それに応えるように今度は二体の木人が空中と地上の両方から仕掛けてくるが、怯む気などしない、むしろ鎌を握る手に力を込めた。
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「あらあら、こんな処で寝ちゃって。でも言ったことは出来たみたいね」
日は既に落ち月明かりが森を照らす中、戻ってきたカグヤは家の前に作った訓練用の広場で死んだように眠っている日々野をどこか嬉しそうに見ていた。
周囲には自らが作った木人達の破片が散乱し、日々野の倒れている場所は他と比べて明らかに地面が窪み水分を含んだ土の色をしていて、それは日々野の勝利がどの様なものであったかを物語っている。
カグヤは日々野の側にしゃがみ込むと頬を優しくなでた。
「ふふっかわいい。これだけの強さがあるなら大丈夫そうね、あなたもそう思うでしょ」
他に誰がいるわけでもないのに一人呟くと立ち上がり、新たに作り出した木人に日々野を運ばせるよう指示する。
運ばれていく日々野を見送りながら空に浮かぶ、月か定かでもない光源に手を伸ばした。
次回の更新からは不定期となります。
せめて一ヶ月に一回は投稿したいなぁーとか思っていますのでお待ち頂けたら嬉しく思います。




