44,何で?
逃げて逃げて、途中で遭遇したのは跡形もなく消すか一撃で沈めて、また逃げて。
途中からバッタもどきだけでなく、集団で連携した行動をとるアリやバッタの上位互換っぽい低空飛行で突撃してくる甲虫のカナブンなど新手まで登場してきた。
一番厄介だったのは、まだ一体しか見ていないが高速飛行にかなりの高さまで飛んで逃げようとするハチだった。発射可能な毒針による上空からの攻撃は一方的で、俺たちの居場所を伝えるためだろう安全第一みたいな戦い方をとられアヤメの剣が翅を切り落とすまでにはかなりの時間を稼がれてしまった。
そんなこんなで今は小休憩として小さな小川沿いにいる。
上空からの視界を遮るように高い木は生えているし、水分補給は水質が少し心配だが必要な為ここを選んだ。
「そういえば指名手配のリストに日々野の先輩も載ってたけど大丈夫なの?」
「どうだろう、先輩の事だから巧くやってそうな気もするけど事が事だけにあの人も年貢の納め時かな」
正直な話、星月先輩は今までいろいろとやらかしてるから俺たちのついでに指名手配されたんだろう。実力はあるけど、今頃は塀の中でもおかしくない。
けれども冷たい態度を取ったとアヤメは思ったのか俺を諫めるように言ってくる。
「その人が何したか知らないけど、少しは心配してあげたら?」
「そうそう先輩が悲しさで泣いちゃうぜ? 先輩の愚痴言いたいのは分からなくもないけど、本人の居るところで言うなんてひどい奴だなぁ、日々野」
アヤメが咄嗟に声のしたのとは反対、俺の方に剣を最大数の六本出して下がってくる。かくいう俺も、なぜここにいるのか理解が追い付かないまま、川の向こう側で呑気に背伸びなんかしている先輩を見る。
偶然? いや、まさかそんなことがあるとは思えない。もし森に逃げ込んだのだとしても、この広い樹海で出会うことの確率的はあまり低い。
罠という可能性も考え、具現化させた鎌の力を徐々に上げながら本当に星月先輩なのかを尋ねる。
「俺たちと同じように追われているはずの先輩が、まさかこんなところにいるなんて思いませんからね」
「だってよお、森に逃げてきたら神の僕だったか?まあ怪物に襲われて、とりあえず逃げようと奥に来てたら時々怪物の死体が転がってたからそれを辿ってきてみたらお前らがいたんだよ。怪しまなくても大丈夫だっての」
怪物たちの死体を辿ってきた、か。そういえばアヤメが倒した奴はそのまま残ってしまってたのか。ミスったな。
怪しくないって言うけど完全に気配を消して近づいた地点で敵だと思うのは当然だし、ここまで近づかれなれば気づけなかったレベルの相手だという事実にアヤメが警戒してしまってるんだが。
「にしても、アヤメちゃんがまさか植物人だとはねえ。そんな武器ゲルトナーじゃ見たことないし、それがお前らの追われてる理由ってわけか」
「……バレちゃったけど、どうする?」
猜疑心を孕んだ声色でやっちゃう?と聞いてくる。どうやら星月先輩に対するアヤメの好感度はゼロを振り切ってしまったようだ。
いくら鬱陶しい先輩とは言えこれでもゲルトナーでも1,2を争う遊撃手だ。戦力として申し分ないし、何よりこの人は植物人だからと言って殺しにかかるようなことはしない。逆に面白がる様子の方が容易に思い浮かぶ。
「先輩は聖王会を嫌ってる変わり者だから大丈夫だと思うよ」
「そうそう。可愛い後輩にできた初めての彼女だし、別に植物人だから何だっていうんだよ。どっちかっていうと日々野の言う通り聖王会の連中のほうが俺は嫌いだ!」
街中のように周りに人がいないからら、サムズアップしながらどや顔で言い切りやがった。
アヤメも裏表のない態度に少しは信用する気になったのか、張っていた気が緩む。俺と初めてあった時といいリンドウの時もだが、別にどうこうといった訳ではないがアヤメにはチョロインの素質があるのかもしれない。
小さいとはいえ川を挟んで話すのは煩わしかったのだろう、星月先輩が軽々と飛び越えてこちら側にやってくる。
力を使うために短剣状の神鎌を手にしていたためアヤメが身構えたが、それを見て先輩はニヤリと笑った。
「気張らなくても大丈夫だって、二対一で武器は短剣は二本だけどお前らの方が合わせたら八ッ本で四倍差だろ? そんな分かりきった勝負に挑む奴なんて常識的にいねえよ」
その通りだ。星月先輩とは言えアヤメと二人なら負ける気はしない。もしもの時はリンドウと戦った時の一体化をすればいい。
だが、何故だ。どこか違和感を感じるというか何かがつっかかる感じがしてくる。
「まあ、常識の範疇になかったら別だけどな」
違和感が何だったのかは直ぐに分かった。スローになった視界で先輩の剣が俺の腹部目がけて伸びて来て、
「何で?」
そして、風を切る音が耳に入ってきた。
感想・講評などお待ちしています。
次回は久々のガッツリバトルを予定しています。




