43,逃亡
その知らせは突然だった。
リンドウから色々と話を聞いた後二人の待つ店に戻ってみると、仲良くなったアヤメと鈴の二人が楽しそうに話していたので、そのまましばらくゆっくりとさせてもらっていた。
そんな二人を見ながら俺は自分の目指すべき光景はこんな感じなんだろうとか考えてながら和んでいた、その時だった。突然、表のドアが強く叩かれた。
「おい、早くここを開けてくれ! 大変なことが起きたんだ!」
声の主は店長のオッサン。何事かと急いで戸を開けたリンドウを押しのけるようにして俺のところまで来ると握りしめたせいでしわができている一枚の紙を眼前に突き出してくる。
「これ兄ちゃんと連れの嬢ちゃんだろ。何をしたが知らねえが街中にこの指名手配のビラがばらまかれんだ、聖王会の印付きだからここに来てんのがバレルのも時間の問題じゃい! 早く逃げんと捕まっちまう!」
顔を真っ赤にさせて言い立てるが事情がいまいちわからないが、指名手配という単語だけがはっきりと聞こえた。思い当たる節が多すぎて逆に冷静になれ、突き出された紙をもらって文面を読む。
「[日野日々野、星月流、宮道文目の三名を反逆の容疑で指名手配する。これらの情報を持っているものは聖王会・ゲルトナーに。]……ご丁寧に顔写真付きにされてますね」
「顔がばれているとなると厄介だな。ここに隠れておくのも時間の問題だろうから、一先ず森に逃げたらどうだ? 追手もそう簡単に行こうとは思わないだろう」
「だよな。という事だからアヤメ、お邪魔にならない内に森の方に逃げるよ」
「「なんで二人ともそんなに落ち着てんのが?」」
アヤメと息ぴったりの鈴があきれたように聞いてくる。
何でって言われても開き直るしかないからだけど。
ここで迷っていては追手が来るとその場にいた全員が理解していたので、店の持ち主であるオッサンと
鈴は簡単に食べられる物を数少ない食料の中から分けてくれた上に周辺に人がいないかを見に行ってくれた。リンドウはアヤメにいざという時のために世界樹への最短ルートを教えている。
場所的に昨日の襲撃で荒らされた中央寄りの町の中をと通って行けば人目にも付かずに森に向かえるだろう。
「まだ遠いけどゲルトナーの制服着てる人がいたよ! 早くして!」
「時間切れのようだな。悪いが日野、アヤメを頼んだぞ。いざとなったら世界樹の村に行っても構わんからな」
アヤメがまだ道を聞き終わっていないがリンドウの言った通り時間切れだ。大まかな道筋は分かっているようなので問題とのことだ。
心配そうにしている鈴に響火が重なって悪いことをしたという気が起こってきた。立場もあるだろうに一応家族が指名手配されるとは。自己満足に変わりないが鈴の頭を撫でて笑い、心配はないと伝える。
「いざとなれば俺が足止めをしておくが」
「そこまで迷惑はかけられないからいいですよ。ていうか、リンドウこそ植物人だってことがばれないようにしてください」
冗談だとは思うが無茶なことを言ってくるが笑って断っておく。もしそんなことをされたら、大きな貸しになってどうやって返せばいいかわからない。それに対等な立場でありたいからな。
あんまり名残を惜しんでいると急いだ意味がない。最後に漫画のように拳をぶつけて別れの挨拶としてアヤメの方を見ると、アヤメも鈴と挨拶を終えたようで準備はできたようだ。
「それじゃあ、森の方でゆっくり作戦会議でもしに行きますか」
「日々野がリンドウと何を話したのかもそこでしっかり話してもらうかしら」
俺もアヤメも特に気を張るつもりはないまま、森に向かって駆けだした。
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その夜 森の中
「今日はここら辺で休みましょうか。かなりの距離を来たから大丈夫でしょう」
日が暮れた森の中、いつもの野外戦のような暗視ゴーグルはないので頼りになるのは月明かりだけだ。
ここまでお互い力を発動させ続けた状態で移動していたのだが、スピード型のアヤメの方がかなり早くどっちかっていうとパワー型の俺は追いつくのに必死だった。鎌のおかげで肉体的な疲労感はある程度軽減されているが、多分明日は筋肉通も重なってさらに苦しむことになるだろう。
「賛成、それで後世界樹まで距離的にどの位あるのか教えてくれないか? 体力の配分も考えておきたいし」
「そうね、大体今日のペースで一日半ってとこね。ゲートが使えたらいいんだけど追手にも使われたら面倒だから、そんな目で見られても使う気はないからね」
ゲートと聞いて目を輝かせた俺に言い聞かせるかのように冷たく言い放つ。使ったら面倒になるって分かってるけど少しくらい期待したっていいじゃないか!
ていうか、植物人は自分でゲートを使えるのか。だから今まであんなに多くの木人がすぐに増えてたわけね。納得した。
話もそこそこに明日に備えて休もうとしたとき、森の中に二つの点を見つけた。気を抜いた直後の全身が再び強張るほどの嫌な予感に、少し離れていたところにいたアヤメに駆け寄ってそのまま地面に押し倒す。
「っ、ちょと何してるの!」
「動かないで」
当たり前だがアヤメは俺を押しのけて起き上がろうとするが、それを許すことは出来ない。その理由もすぐにわかることになった。
「「ギュエエエエエエエエエエエエエエ」」
独特の耳障りな鳴き声と共に森の中から闇に浮かぶ赤黒い化け物が飛びだし、立っていたら胴体があった高さの所を通過していく。そのまま止まることなく木々に突っ込んでを二本ぐらいへし折ってようやく止まった。
一度見たら忘れられないような見た目をした神の僕、バッタもどきが二体。
方向転換に戸惑っているうちに立ち上がって武器を構える。
「喰尾龍鎌、いくぞ」
出し惜しみはせずに鎌の力を全開にする。戦いだと分かったのかアヤメも赤い顔で剣を四本、空中に出すと説明を求めるかのように目配せしてきたので、簡単に説明をしておく。
「昨日の戦いで初めて見た神の僕、もしくはバッタもどき。突進はバッタらしく速いけど、直線的。近接は木人三体とと相打ちする程度。それ以外は不明、来るぞ!」
知能があるのかは知らないが俺たちを分断するかのように一体がアヤメの方に飛んだかと思うと、残った方は俺の真横に突進してくる。
予測したうえで避けると、牙のようなものが生えた口を開いて噛みつこうとしてくるが突進と違って十分に見切れている。体位を下げて縦に長いバッタもどきの右側に踏み込んで鎌を振り上げた。
鎌は何にも止められることなくバッタもどきの胴を半分に断裂、あっけなくバッタもどきは息絶えた。
「これに木人が三体もやられって本当なの? 弱すぎない?」
アヤメも既にバッタもどきを片付けた後のようだ。少しみて見ると四本の剣によってだろう、四対の足は全て切り取られて針山とまではいかないが体を貫かれたままになっている。
容赦ない殺し方だが気にしにしないでおこう。ちょっと大きな虫なだけだ。
それにしても、アヤメの言う通り弱すぎる。斥候だとしたら立ち向かってこずに逃げ帰るだろうし、俺たちが強いだけとかなら嬉しいが。
「弱すぎるって言ってもこの虫じゃないわよ。木人がよ、人間の街に出すならもう少し強くしとかないと、すぐにやられてしまうって考えなかったのかしら。時間稼ぎとか注意を惹きたかっただけならべつだけど、それならそれでバラバラな所に出現させると思うのよね」
「まあまあ、このバッタたちが弱かっただけかもしれないし、他になんか能力があったけど出す前にやられただけかもしれないから」
「ギュエエ、ギュエエ、ギュエエ、ギュエエ、ギュ」
「ほら、なんか言ってるし、さ!」
どうやら上半身だけになってもまだ生きていたようで、必死に雑魚認定に抗議するかのように無駄に大きく鳴き始めたので止めを刺しておく。だが、それはただ鳴いただけでなかった。
「「ギュエエエエエエ「ギュエエエエエエエエ「ギュエエエエエエエエエエエエエ「ギュエエエエエエエエエエエエエエ「ギュエエエエエエエエ「ギュエエエエエエエエエエエエ「ギュエエエエエエエエエエエエエエ----------
発された最後の遠吠えが森に響き渡ると空気を震わすほどの鳴き声が返ってくる。どれくらいいるのかも考えたくないほどの数の声、いくら弱くてもこの森全体に蔓延っているバッタもどきが呼びかけに応じてこの一か所に集まるのなら連戦の果てにやられてしまう。
最悪の場合、ゲルトナーの隊員や聖王会の奴らまで出てきているかもしれない。
「アヤメ、速いとこここから離れるぞ!」
「わかってるわよ!」
理解が速くて助かる、そのまま俺たちはアヤメの先導で更に森の奥に走り出した。
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