42,転
時間的にちょっと戻りまして、別視点からです。
事実は小説より奇なりという言葉がある。私としては奇をてらった人生も体験してみたいとは思ってはいたが、知ってしまった事実が大きすぎた。
後輩のあんな秘密を知ってしまったのにどうやって過ごしていいのか。
「弥生先輩! どうしたんですか珍しくため息なんかついちゃって、先輩らしくないですよ!」
「ああ、ごめんね響火ちゃん。ちょっと昨日のことでね」
私、河口弥生はゲルトナーの医療班の一員である。
今話しているのは悩みのためである後輩とは違う後輩、響火ちゃん。戦闘班の人だけど同性が少ないという理由でよく医療棟の方に遊ぶに来ている。
悪いけど私はあまり得意なタイプではない。世間一般で言うブラコンで、兄と他の人で話し方を変える計算高い子だという事を知っているから関わるのが怖いと言った方が正しいのかもしれないけど距離を置きたいことに変わりはない。
「弥生先輩は東側のとこにいたんですよね、植物人が攻めてきたって聞きましたけど大丈夫でしたか?」
「ここにいるからわかるでしょ。怪我は奇跡的にしなかったの、あんなのと戦ってる響火ちゃん達はすごいと思ったわ」
「神鎌に従えば簡単です! それに昨日は数が少なかったんで楽でしたよ、私は。民間人もいましたし医療班の方が大変でしたよ」
私に関しては肉体的というよりも精神的に大変だったんだけどね。
話している間も頭の半分はあの後輩、アヤメはちゃんとの話を思い出していた。
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昨夜
医療班はすることが無くなったから解散して家に帰ることになった。仲間がどこかに行かないかと誘ってきたけど、そんな気分じゃないから断って今は家路を行くところだ。
普段ならもう少し人が歩いていてもおかしくない時間帯だけど誰もいない。まあ、あんなことがあったから仕方ないとは思うんだけど。
夕焼けも沈みかけて暗めの赤色に染まる道を歩いていると後ろから声がかけられて、声色からわかったその人に対して体がこわばるのを感じる。
「先輩、今お帰りですか?」
私の中の本日の出来事ランキングぶっちぎり一位のアヤメちゃん、彼女が植物人だという事を知ってしまった。
まさかとは思ったが口封じ、いや詳しいことを話すって言ってたし、周りに人がいない上に手元を隠してるけどきっとそのことだろう。そうじゃなきゃ死を覚悟しなければ。
「なら、先輩の家にお邪魔していいですか? ここではしにくい話なので……」
後ろ手に持っていた、多分食べ物が入った袋を出しながら苦笑いで提案をしてくる。
アヤメちゃんは私の返事を待っているみたいだけどこっちとしては、話してたことでよかったと安堵してるから少し待ってほしい。
一呼吸、二呼吸してから自分を落ち着かせて返事をする。
「もちろん大丈夫よ、私も気になって仕方なかったから」
「良かった~。もし断られでもしたらどうしようかと思ってたんですよ」
アヤメちゃんの方も緊張していたようで、安心した様子で頬の強張りを解く。もしかしたらアヤメちゃんも困っていたんだろう。私が植物人だってことを広めたりしてたら敵地のど真ん中にただ一人、ってことだし。
「色々聞きたいことはあるから家に帰ったらみっちり話してもらうからね」
「わかってますよ。私だって先輩に広めないようにお願いしなくちゃいけませんし、そのためには事情の説明も必要になってくるので」
「なら、早くいきましょうか。長くなりそうだし」
怖さもあったけど途中からなんでアヤメちゃんがこんなことをしているのかについての好奇心の方が上回ってきてうずうずしてきた。
そのままアヤメちゃんを引っ張るような感じで家に帰ったのは言うまでもない。
それから時計の長針が三周回ったぐらいの時間をかけて質問を交えながら大体のことを把握した。
大まかに理解した感じだとアヤメちゃんはこの戦いを終わらせたくて、ある人の所に住みながら色々しているらしい。
私としては目的のためとはいえ、植物人なのにゲルトナーに入るなんて勇気のあることをすると驚いてしまった。
「入ってきた時からやけに変わった子だと思ってたけど、ここまでとはね」
「先輩は話の内容を疑ったりしないんですか?」
「だって、助けてもらったことは事実だし、短い付き合いだけど嘘を言ってるように思えないもの。もし、アヤメちゃんが口封じするんだったら今頃生きてないでしょうし」
あっさりと信じたから逆に疑われてる。そんな理由だなんて、私が助けられたことが大きな理由だっていうのに。
「人間って皆こんな感じなのかなぁ」
「それは違うわよ。家族を殺されたり元の世界に速く帰りたいって思ってる人もいるし、子供だったら学校で植物人は敵だって教育されてるから。私みたいな人は極少数よ」
「そうなんですか。……でも先輩がその少数の人で本当に良かったです。あの場でゲルトナーに知らされていたら終わりでしたし、日々野にも悪いし」
「やっぱり、協力してる人間って日々野君だったのね」
うっかり口にしてしまったんだろう。すぐに顔を上げてアタフタ慌てている。
「そんなに慌てなくて大丈夫よ。なんとなくわかってたし」
「ほ、へ、何でですか! もしかして私うっかり喋ってましたか!」
自分が知らないうちに言ってしまっていたのかと焦っているけど、そういうわけじゃない。
名前を伏せて話してたからそのことについても考えていたけれど、植物人に協力とか戦いを終わらせるとかそんなことが当てはまるのは十三番隊の一員、日野隊員くらいだった。
「大丈夫言ってないわ。そんなことをするのは日野君くらいだって皆思うと思うわよ」
「どうしてですか?日々野なにかしたんですか?」
アヤメちゃんの反応を見て日野隊員があの事を話してないのに気づく。
けれども、話していないのには何か思うことがあるのだろう。それなら話すわけにはいかない、誰にだって言いたくないことの一つや二つあるものなのだから。
「何も聞いてないなら教えたくはないかな。ほら、もう遅いから彼が心配してるんじゃない?」
「そうですね、先輩にも迷惑かけちゃいますし。そろそろ帰らせてもらいます」
やっぱり良い子なのだろう、嫌な顔一つせずに挨拶をして帰っていった。
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思い返してやはりため息が出てしまう。
今思えばアヤメちゃんの事ばかり聞いて私のことは何も教えてなかった。それに気にしてなかったようだったけど最後は追い返すような感じで言っちゃったし。
また、ため息を吐いてしまう。
「やっぱり何か悩んでますね!私に言ってみて下さいよ!」
「それはいいから、今日はどんな用事で来たの?」
「そうでした! なんか健康診」
『緊急放送、緊急放送』
割り込むように放送が鳴り響く。緊急といった単語に昨日のことを思い出したのだろう、一瞬にしてフロアが静まり返る。
『十三番隊、星月流・日野日々野、及び医療班、宮道文目を指名手配する! 近くにいる場合捕らえろ、これは神託である!繰り返す、』
周囲が慌ただしくなるが、私の頭は逆に凍り付いたかのように冷たくゆっくりとなっていく。
まさか昨日の戦いを誰かに見られていた、それを聖王会に知らされて。
「お兄ちゃん、」
響火ちゃんがふらりと立ち上がったかと思うと、出口に向かって走り出していった。
けれど私は動けなかった。ただ二人が逃げれることを願うことしか出来なかった。
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次回は7月14日、新章の予定です。




