40,リンドウと真実
「まさかここの人達を騙してこんなところにいたなんて、覚悟しなさい!」
多くの人が見ているのにもかかわらず、今にも剣を出して切りかかろうともしそうな剣幕でアヤメはリンドウを睨みつける。あれだけの被害を出したクラ―レに一員であるリンドウへの怒りで状況を一時的にだが忘れているのだろう。もし戦闘にでもなれば色々な意味でただでは済まない、咄嗟に止めようとしたが俺たちのことを敵ではないとでも思っているのかリンドウは再び歩を進め、机の前に来る。
「今、暴れるとお互いに困るだろう。人がいなくなるまで待て、話はその後だ」
この店の青い甚平のような制服を着て注文のうどんをたたきつけるように置きながら極めて小さな声で俺たちだけに聞こえるように言うと、アワアワしながらアヤメを止めようとしている娘さんを置いて厨房に引き返していく。この店の一部のような、その姿は予想外で別の意味でもう一度固まってしまった。
しかし、アヤメの怒りは収まっていないのかその後を追おうとするが娘さんに引き留められる。
「私たちは騙されてなんかいませんし、何か知りませんがリンドウさんのことを勘違いしてます。私からもお願いします、一先ず話を聞くまでは待って下さい!」
何の関係もない、わけではないが普通の人間の少女を無理には引きはがすようなことはさすがに出来ないアヤメは、今度は俺の方をなぜか睨みつけてくる。お前もなんか言えってことだろうか。
「あいつのことを信用したわけじゃないけど、とりあえず待ってみないか? この子の言う通り何か事情がありそうだし」
「……時間稼ぎかもしれないわよ」
「だとしても、この場で戦うのは俺たちにも分が悪い。いざとなったら前みたいに何とかして追い返したらいいだけだろ?」
「……どうなっても知らないからね!」
納得はしていないようだが、穏やかでない内心を収めつつ席に戻ってリンドウが持ってきたうどんの入ったお椀を引き寄せて食べ始める。
「あと一時間くらいしたら一度店を閉めるので、それまではすみません」
本人も焦っているのだろう、娘さんは言葉も半ばで厨房にいるリンドウのところに向かっていった。
不機嫌なアヤメと一時間か。聞かされる襲撃の真相と話し合いの場に不安しか感じないままに俺もうどんをすする。ふむ、味は悪くはない。ちらっと見たがアヤメも一応はおいしそうに食べている。少しでも機嫌が直ってくれれば良いがそう簡単にはいかないようだ。あっという間に食べ終わると不本意そうにだが店の在庫を空にする勢いで追加を頼んでいく。仕方ない、オッサンに在庫ゼロという名の犠牲になってもらうか。
待つこと三十分。ある意味アヤメの活躍によって在庫切れのために予定より早く店は閉められた。どうもここの営業は昼の間だけで、後片づけを終えると店長のオッサンと息子さん夫婦にはリンドウと娘さんが何かしらの説明をしたようで、俺たちにゆっくりして行ってくれというと帰って行った。
そのため四人掛けの机に座っているのは俺とアヤメ、リンドウに加えて鈴という名の少女の四人。ピリピリと張りつめた空気に誰もが話し始めなかったが、その空気を破るように初めに口を開いたのはこの中では一番の年長者であろうリンドウだった。
「先に言っておくが俺にはすでにお前たちと戦う気はない」
「そんなことを言うけど信じてもらえると思ってるの? この前は逃げ帰ったくせに?」
「……もちろん、戦うというならば容赦はしないがな」
何が気に入らないのか話の途中でアヤメが割り込んだせいで、さらに険悪な空気になり二人の視線が火花を散らすようにぶつかり合う。
だが、ゆっくりと立ち上がった影がにらみ合いに終わらせた。
「あの、いい加減にしてくれませんか。話も聞かずに悪者扱いばっかりして。少しは聞いてみようと思えないんですか? 馬鹿なんですか?」
見た目からは想像できない乱暴な口調、というかアヤメを完全に敵視している。初対面の相手に向かって馬鹿かって聞くとか絶対に聞けない。そんな度胸、俺にはない。
「へー、いい度胸じゃない。リンドウの事を味方しているの見逃してあげようと思ってたけど、一緒に片づけてあげる!」
「やれるものならやってみなさいよ、こっちにはリンドウがいるんだからね! 瞬殺よ、やっておしまい!」
「この、こっちだって、剣よ!」
「ちょ、アヤメ落ち着いて、剣は出したらヤバイ!」
「彼氏にまで止められるって、ほんとバー、イッタ!」
「鈴も少し落ち着け。話ができん」
立ち上がってヒートアップした代理戦争に入る気にもなれずにいると、敵であるはずのリンドウと目が合って申し訳なさ満載の笑みを送ると向こうも微笑を送ってきて、なんか、うん。笑えてきた。
ついにはアヤメが剣を出したのを見て焦って、止めにはいる。リンドウの方も鈴という名の少女に鉄拳をお見舞いして強制的に座らせていた。
場を仕切り直して、今度は鈴に一体何があってリンドウと一緒にいるのかを説明してもらうことにした。 アヤメが茶々をいれたりするせいで無駄に時間をとってしまったが、要約するとリンドウに助けてもらった上、他の植物人にこれ以上の破壊をさせないように話をつけたらしい。
話の中盤からは、アヤメも「確かに、リンドウならしそうなことね」と言って納得して聞いていた。
「という事だ。俺に戦う気がないといったの理由はわかってもらえたか」
「全然。この子がなついている理由はわかったけど、なんで私たちと戦うつもりじゃないのかは、話してないわよ」
鈴の話を引き継ぐようにリンドウが理解したのかの確認をとってくるが、俺もアヤメの言う通りだ。なぜ戦わないのかがまだわからない。意図的に話していないというのかもしれないしな。
リンドウは何かを考えるかのように数秒だけ目をつぶったかと思うと、今度はアヤメではなく俺の方を向く。
「今からいうことを聞いても、絶対に俺を攻撃するなよ。それに、もしアヤメがやろうとしたなら止めてくれ」
「その隙に俺たちに何かするってわけじゃないんですよね」
「もちろんだ。二言はない」
「わかりました。約束します」
リンドウの話し方から伺える雰囲気は決して悪意のあるように思えなかった。アヤメの方は不服そうだが仕方ない。これ以上二の足を踏んでいたら話が進まない。
隣に座っている鈴が不安そうにリンドウを見ているが何を話すつもりなのか。
「お前、いや日野だったか? 使徒を知っているだろう」
「聖王会の隠し玉ですよね。それがどうしたんですか?」
使徒の話しとはいきなりどうしたのだろう。気になった答えは驚きのものだった
「昨日の戦いの中で、それと思われるの二体と戦闘になった。その際に俺の力のほとんどを失ってしまって、今の俺にあるのは残りカス。まともに戦えるだけの力はない。これが戦う気がないと言った理由だ」
まさか、あの使途を倒して外壁まで破壊した一撃がリンドウだったとは。その事実に驚くが、言葉の中に少し違和感があった。
「戦う気がないって言ってますけど、本当は戦えないわけじゃないんじゃないんですか?」
「気づいてくれたか。その通りだ」
「あんな言い方してたら気づきますよ。でも、なんでそんなことを知られたいんですか。この場で仕留められるとか考えないわけじゃないでしょうに」
「一度なら、お前らに後れを取らないという事だ。この辺りを巻き添えに自爆する位のことならできるが?」
残りカス程度の力で相手できるとはなめられたものだ。だが、本当にやれそうな相手に対してわざわざ戦いを挑むつもりはない。自爆の話も隣のアヤメが「そんなことをする奴じゃない」って言ってるし、ただの嘘だろう。
「ならなんで壁の内側で戦闘員を倒さなかったのよ」
「そんなことをしても奴を殺せず、俺の目的を果たさずに無駄死にするだけだ。ならば、生き恥を晒すと言われようと戦う気などない。本当ならば、使徒とも戦わずに逃げておきたかったが、約束があったからな」
それだけ言うとリンドウは話すことは以上だとでもいうように息をついた。
リンドウの話した内容について納得のいく回答は得られた。まあ、それが本当かどうかは確かめようがない。最近こんなことばかりな気もするがそれは気にしない。だってきりがない。
「なら、今はどちらの味方なんですか?」
「どちらかだと? さっきも言ったが俺は俺の目的と仲間のために動くだけだ」
「ならせめて目的だけでも」
「それについて話す気はない。それよりも味方やら敵やらいうが、それは人間か植物人かどちらに着くかという事を聞いているのか? この戦いを終わらせるなどと言っている奴がそのようなことを言うなど、笑わせるな」
「ッ!」
自分でも無意識のうちにそんな言い回しを使っていたことにショックを受ける。でも、リンドウは植物人であって、でも自分の考えで誰を守るかを決めている。ならどうすれば、なんといえばいいのだろう。
「意地の悪いことを言ってしまって済まない。だが、よく悩み、それから動け。お前たちは異端すぎるからなあ。まあ、わびと言っては何だが俺の知っていることならばある程度教えてやろう。アヤメがまだ知りえないことを知っているから、役に立つと思うぞ」
迷っていた俺に助け船を出すかのようにそう言ってくれるリンドウ。先導者のように掛けられるその言葉には重みがあった。
アそれに、ヤメの知りえないこととはどういうことなのだろうか。聞きたいことはいくらでもある。頷いて質問をの姿勢をとった。
感想お待ちしています。




