39,再会
それから徒歩とバスで移動すること一時間ちょっと、修繕中の中央の門ではなく西門の方から土の町に出て来ていた。
あと、道中で目的を二つ決めた。一つは予定通り昼食を食べる事、もう一つはアヤメが襲撃がどれほどの被害を出したのかを見たいと言ったので、報告に上がってきていた奇妙な通りまで行くことにした。
自分ではないとは言え植物人の一人として責任を感じているのなら、それは間違っていると言いたい。けれども、もし思い違いだったら微妙な空気になる事を気にしてしまい言えず終いになっている。
「それにしても、ホントにここで何があったんだろうな」
「ええ、誰がこんなことをしたのか気になるわよ」
そして今俺達は例の通りまで来ていた。その光景に疑問しか湧いてこない。
ここに来るまでに通ってきた町並みは賑わう市場や長閑な田園地帯ばかりで昨日にあんなことがあったとは思えないほどだった。自分の目を疑ってしまった程だが、それもこれを見たらそれ位のことと思ってしまう。
ある通りを境に植物人は攻めてこなかったと報告で聞いた時は、どういうことか想像できなかったがその訳が分かってしまう言葉通りの光景。車が二台も通れば良いくらいの通りの少しこちら側の地面を一直線に抉っている境界線のような溝。隕石でも降ってきたのかと突っ込みそうになる。
「人間にこんなことができるわけがないから、聖王会の使途かアヤメの知り合いかになるんだけど……知らないんだよな」
「まったく見当がつかないってわけじゃないのよね。例えば私より強い、タケ姉とかリンドウあたりならできなくもないかもしれないけど、こんな大規模な事をするように思えないわ。想像だけどボロ布の人みたいに私が知らなかったり、実力を隠していた仲間がいるかもしれないわよ」
「このレベルの人がそんなにいたら困るんだけど」
これだけの破壊力を持つ攻撃ができるやつが何人といてたまるか。
それに溝を隔てて向こう側の建物は壊されていたり全焼していたりして蹂躙と殺戮の跡がはっきりとわかっているのに、こちら側にはさっきから十分に理解しているが日常そのもの。全くもって意味不明。
こうなったら、なんてことを聞くと罵倒されることを覚悟してこの近くに住んでいた人に事情を聴くしかない。周りを見てみると人が集まっている場所が一つ、飲食店のようだが仕方ないと思いながら、文目を置いてその建物の近くに進む。
話しかけるタイミングを見計らっていると店員のような人が一人、松葉づえをつきながら出てきた。どこかで出会ったような気がしながらも腹をくくって裏に入り人目が少なくなったとこで声をかける。
「すみません、ちょっと尋ねたいことがあるんですが」
「お、誰か知らねえが何の用だ。って、お前あんときの兄ちゃんじゃねえか! ベッピンの彼女も一緒か!」
顔と独特の話し方で何処であったかをすぐに思い出した。前にネイチャードに来たとき、文目に不良たちが絡んでいた時に話したあの粋なオッサンだ。そう言えば店をやってるとか言ってたが、ここで会うとはすごい偶然、いやはや世間は狭いとはよく言ったものだ。
「あ! オッサンの言ってた店ってここの事!」
「そうだぜぇ、必死こいて建てた儂の店じゃい! 昨日のことで玄関が壊れちまったが、娘もすけっともいるしどうってことねえから開店して大繁盛! 気にするこたねえ、約束通り食っていけや」
ガンガン話を進めていくオッサンだが、ちょうどいい。別に昨日の襲撃のことで別段何かあったわけでもなさそうだし、気が知れている相手なら少しだけだが事情も尋ねやすい。何より昼食もごちそうしてもらえる。早速アヤメを呼んでくると、込み合っているにも関わらず四人掛けの席を開けてくれた。
店内は昼時という事もあってなのか満員状態で、初めは四人席に座るのも断ったのだが、なんと店長だったオッサンが他の客に二言三言話すと快く座るように勧めてくれた。さすがにそれを断るのも悪いので座った次第だ。
「注文はお決まりですか、って言っても今日は品が少なくて看板商品のうどんぐらいですけど」
座ってしばらくすると、中学生くらいの女の子が注文を取りに来た。オッサンと違って言葉使いは整っていて、外見もアヤメとは方向性の違うが体育会系の美人だ。けれども、やはり親子なのだろうはきはきとした印象だけはオッサンそっくりだ。
「なら、とりあえず一杯ずつ頼むよ。それでいいよね」
「うどん……おいしそうだわ」
「うん、それでよろしく」
娘さんの言った通り、壁に貼られていたメニューを見てもうどん以外赤い線が引かれて売り切れを示していたので、一応アヤメの確認をとってから注文を終える。
娘さんは厨房に内容を伝えると、オッサンもとい店長から何か話されていたのだろう興味津々な表情で俺たちの席に戻ってきた。
「お兄さんとお姉さんって美男美女ですけど、いったいどこで出会ったんですか! 店長から二人の話を聞いた時から気になってて、ぜひ教えてください!」
「すごい直球な質問だね」
目を輝かせながら聞いてくるのは、色恋沙汰には特に興味のある中学生そのもの。
とはいえ、出合いの付いてか。正直に森の中で出会いましたなんて言ったらややこしいし、嘘を吐くことにする。
「アヤメとは同じ学園に通っていて、同じ友達を介して出会って知り合って、それから仲良くなったんだ」
「ん? 嘘はだめだよ、日々野。初めて会ったのは森でしょ」
「ふむふむ、とりあえずその友人を入れての三角関係はあるかもしれないと」
アヤメの失言を妄想世界に入っていた娘さんは聞いていなかったようで助かった。その間にアヤメに目配せで話を合わせるように伝える。ぎりぎりで娘さんが妄想から返ってきたので確認はできないが、最後にサムズアップしたアヤメを信じるしかない。
「次は店長から聞いたんですけど不良たちをコテンパンにしたっていうのは本当ですか? 何か武術とか習ってたり?」
「そうじゃなくて、日々野はゲルトナーの隊員でめちゃめちゃ強いんだよ。確か十三番隊だったっけ? 森にも来ていて実戦経験も豊富なのにチンピラごときにやられるわけないじゃん」
「ゲ、ゲルトナーの人だったんですか」
ゲルトナーの十三番隊だと聞いた途端、表情が驚きと困惑の混じったようなものに変わる。まさか十三番隊の悪評がここまで来ていたとは、言い方は悪いが逃げられる前に聞けるだけのことは聞いておかなければ。
「それなら次は俺から質問していいかな? 嫌なら答えなくてもいいんだけど、そこの通りにあった跡。何があって誰がしたのかってわかったりする?」
「そ、それは……」
饒舌だった娘さんの口の動きが鈍くなる。目をきょろきょろと動かして周囲をものすごく気にしているようで明らかに何かを知っている。アヤメも聞きだしたいのかしっかりと、けれど優しさのこもった目で見つめる。あまりにも話したがらないので、悪いとは思ったがもう一度問いかけようとしたその時だった。
「鈴、うどんができたから取りに来いと言っているのに。話し込むのも大概にしないとまた怒られるぞ」
「き、来ちゃだめです、リンドウさん!」
聞き覚えのある声と呼ばれたその名前に、アヤメが椅子を後ろに倒すことも厭わずに立ち上がる。俺は背後にいて姿が見えないことも相まって、あの時体験した死の恐怖が蘇って動けなくなる。
ここにいるなんて想像できない。今日一番の理解不能案件。
「なんで、あんたがここにいるのよ……リンドウ!!!!」
そいつは、アヤメと一体化してギリギリ退けれた自分史上最強の敵、リンドウだった。
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