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2,出撃

三月二十五日 夜 都市〝ディーゼル〟


 この街は、高さ五十メートルの外壁に囲まれており内側はアスファルト舗装が施された道路と中規模の都市を縮小した建物が建ち並ぶ。

 生活しやすいと言うのが一番の理由でこの世界にきたほとんどの人が暮らしている。

 だが、外壁の外には農地や軍事施設、緑のない壁の中では暮らしたくない人達が生活している。

 壁の外に出来た町は通称土の町(ネイチャード)と呼ばれていて、土の地面が残っていたり数少ない娯楽として温泉や繁華街もどきが有るため観光地と化したところなどもある。


 人で賑わう観光地の中の大通りを抜けて進んでいく俺は、夜遅くだが雨など気にしないような観光客と、()()に備えて集まっている商人たちとでにぎわっているため、高校生が一人でいるの事を特に気にされることもない。


 商人達は門をくぐった先にある貴重な資源、宝石や野生の動物、油田なんて見つけた日には大金持ちになれる、更なる儲けや一攫千金のために危険を鑑みず行くつもりだろう。


 それよりもまず第一に、なぜこんな夜遅く、それも雨も降っているのにこんな所にいるのか。理由は簡単、今から十数分後で開門の時が訪れ、戦いが始まるからだ。


 何と戦うのか少し説明しておこう。

 この世界にきた俺達が元の世界に帰る為には世界樹という木が必要らしい。

 そしてそれを守る知的生命体、植物人(プライオルガ)が敵とされている。

 そいつらと戦えるのは神鎌(ブレイド)と呼ばれる特殊な武器を持つ、対植物人組織ゲルトナーのみ。


 ゲルトナーに所属している俺はもちろん参加する。だから急いでいたのだ。

 足早に通りを抜け、大きな広場に出る。

 そこには、巨大なリング型の門が一つ。内側は、大きめの石を投げ込まれたような波を中心からおこし、薄っすらと門の裏側には存在しない向こう側を映し出していた。

 その光景こそが開門の予兆だ。


 集合の予定時刻には間に合っているはいるが正規部隊に防衛担当の班のメンバーも続々と集まっている。

 この街の数少ない就職先でもあるから人手は多く、総勢千人近い組織であり大企業でもあるゲルトナーは集まるだけでもなかなかの迫力があった。


「総員に次ぐ、作戦開始時刻まで残り半刻を切った。今回は野戦であるため出撃準備が出来次第、部隊ごとに集合しゲート周辺に待機したまえ」


 拡張器を通し指令が行き渡る。門には、まだ遠いが少し離れたところの台上にいる小太りの二代目総司令官の姿が見える。

 総司令官とは名前だけ。初代総司令官のように戦場経験も戦闘訓練もしたことがない、財力だけでその座を手にしている男だ。

 ちなみに、こいつが油田を発見して一気に街の権力者に加わった例。ゲルトナーに多額の資金を援助して司令官になったため”駄目社長””豚に真珠””ゼニーマン”などの陰口が言われている。


 そんな人の喋る言葉を右から左へと聞き流しながら、あらかじめ伝えられていた戦闘部隊の集合場所へと向かう。


「一から九番隊は、前回の捜索によって発見した新たな道の開通。その他の隊は、通常通りに探索活動を進めてくれ! 皆、今回も激しい戦いになりそうだが、我らがゲルトナーが生え茂った草木どもを剪定しよう!」

「「「ウォ―――――――――――!!!!」」」


 掛け声のようなものに合わせて、叫び声が上がる。

 集合場所で熱く作戦の確認を行っていたのは、一番隊隊長黒山さん。

 戦闘部隊だけでなくゲルトナー内全体で信頼されているクールガイ。実力の方もトップクラスで、彼こそ総司令官にふさわしいだろ。

 そんなことを考えていると、作戦確認は終わったようでぞろぞろと隊ごとに動きだす中、後ろから誰かが肩を叩いてきた。


「日野何している、行くぞ」

「あ、はい隊長」


 ごつごつした手の感触と、抑揚の少ない低い声で振り返る前にそれが誰なのか分かった。


「他我矢隊長、俺たち十三番隊は、今回もいつも通り単独行動ですか?」

「ああ、そうだ。うちの隊は、全員強いが集団行動が苦手な奴ばかりだからな」


 その相手は俺達の隊の隊長、他我矢さんだ。色黒で引き締まった体と、無表情が目立つダンディーなおじさん。

 無口だが色々な方向で強い。俺達の保護者代わりでもある。

 行動についての確認をとりつつ、他の隊員と合流しようと歩き回っていると手を振っている仲間の姿が見えた。


「たーいちょーう、こっちだぜ。あ、日々野もいるじゃん。真面目に作戦でも聞きに行ってたとは、俺には無理なことだぜ」

「……それは同感」

「二人とも先に来ていたか。まあ、これで全員そろったな。作戦としてはいつも通り各自の判断で行動だ」


 十三番隊の他我矢隊長以外の俺たち三人、俺は普通に、副隊長は軽い口調、もう一人の少女はフードをかぶったまま返事を返す。


 そんな調子で作戦開始数分前にようやく全員が集まり各自ゲートへ向かっていく、その中で隊長が急にこっちを向いて立ち止まっていた。


「日野、感情のコントロールを忘れるなよ」


 何を言いたいかはだいたい分かっている。一つだけ頷くと、皆を追ってゲートへ向かう。

 

 ゲルトナーの隊員が門の前に集まり、その後ろには夢と緊張を一杯にした商人達が出発の準備を整えている。

 先頭の方は昨期伝えられいた新しい道の開通作戦に向けて隊列を整え、俺も含めた他の隊は、まあある程度は列を作っておりゲートをくぐったら担当された範囲に向かうのだろう。


 ゴ――――――――――――ン

    ゴ――――――――ン

      ゴ―――――ン・・・・・


 開門の鐘が鳴りゲートの内側が鏡のようにピタリと止まる。

 映し出されるのはうっそうとして森が迫る、本来裏側にあるはずの場所でない。向こう側で風が吹き、森林独特のしっとりとした空気がこちら側に流れ込んでくるのを感じる。


「出撃!」


 先頭にいる黒山隊長の号令で全隊が動き出す。

 俺は今回の戦いも無事に帰ってこれますよう、にと祈るだけだ。

次回

遂に植物人登場!さらにこの世界の武器”神鎌”登場!

読んでみてね。

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