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35,vsアネモネ2

 背後の先輩を隠すようにジリジリと下がりながら打開策を考える。

 先輩がいるから私が植物人(プライオルガ)だと言うことがバレるような態度を取らずに、アネモネの攻撃を止める、もしくは逃げ切るか。


「何も言わないって事は敵だと思って良いのよね」


 会話するのも出来るだけ避けたいと思っていたら、どうもアネモネは会話の感じだと完全に敵意を持っていないよう。これはチャンスかもしれない。


「待って、この人を逃がしてくれない? そしたらちゃんと話すから」


「後の人って、気絶してるじゃない。なに、自分に連れて行かせろって事? そのまま逃げるつもりでしょ!」


「気絶って、あ、ホントだ」


 倒れていると思ったら先輩は気絶していた。申し訳ないけれど、ちょうど良いです。


「聞かれないなら話せるわ。

 あなたが村を出て行った後、私はスパイとしてこの村にやって来たのよ。だから裏切ったわけじゃない、寧ろ正体がばれないようにしなくちゃいけないから関わらないで」


 一気に説明して見ると、少し目を閉じて考え込んでいるよう。村の集会の時にアネモネはいたから私の考えも知っているはず。きっとこの場を引いてくれると思っていたけれど、残念ながらそう上手くいかなかった。


「へー、スパイねえ。でも、そこの人間の庇ってるってことは、裏切ってるのと同じ事じゃないのかしら? て言うか、面倒くさい事はどうでも良いのよ。

 私、前々からトリカブト様と仲良くて話してる貴女のこと気に入らなかったのよね。今は潜入中って事は派手な事は出来なさそうだし、ちょうど良いわ、この場で殺してあ・げ・る」


 この会話の流れから、どうやってそんな考えにいたったのか意味不明。

 けど、本気なのは放たれた殺気と赤い花で充分に伝わってきた。


「花よ!」


 声に応えるように現れた花弁の剣を三本で飛来した花を切り爆発を防ぐ。

 アネモネの攻撃は単純だけど強力なもの。任意で爆発する赤い花を飛ばすだけだけど込められた力によって爆発の規模は変わる。

 だから全ての花に最大限の警戒をする必要があるし、その上私の花弁の剣と違って多分上限がないから幾らでも出せるから手数で押し負けるかもしれない。

 分析している間も、アネモネの猛攻は止まらない。爆発前に切れれば良いのだが対処が遅れた花から爆発して炎と爆煙が視界を覆い、火傷の傷も増えていく。


「あらあら、押されてるんじゃない? アヤメ。潔く降参するなら直ぐに終わらせてあげるけど」


 余裕がありそうなアネモネが喋りかけてくる。けれども答える余裕すらなく、私の無言を優位の現れと取ったのか更に花の数が増してくる。

 先輩が倒れているから、これ以上は下がれない。


「アヤメちゃん? いったい何をしてるの?」


「ッ!」


 意識の戻った先輩の声に戸惑い、反応が鈍ってしまった。


「隙が出来てるわよ!」


 それをアネモネが見逃すはずがない。

 待機させていた花を一斉に飛ばすが、その花の数は最大の六本だとしても対応できない位。

 後の事は考えずに、助かる方法は一つしかない。


「剣華よ守りたまえ、六星の舞い!」


 全部の剣を使うことになってしまったが数分は持つであろう障壁を私と先輩の回りに展開する。

 これが破られたとき、剣が使えなくなるからジリ貧覚悟だけどこうするしか無かった。


「先輩、落ち着いて聞いて下さい」


 混乱している様子の先輩にしゃがんで目を合わせながら話しかける。


「この障壁はもって三分が限界だと思います。なので障壁が割れたら街の方に走って下さい」


「ちょっと待ってよ! 今どういう状況なのか教えてよ、アヤメちゃんは……その、植物人(プライオルガ)なの?」


「そうです」


「ならどうして、仲間同士で戦ってるの、それに街の中に始めからいたし」


「落ち着いて下さい」


 訳が分からないんだろう。私達のことを敵だと思っているわけだし。

 会話の成り立たなくなってきた先輩に(きび)しめに言っただけなのに、今は怯えるように震えて口をつぐんでいる。


「色々気になるのは分かります。だけど、今はこれしか言えません。私は絶対に先輩を守ります、信じて走って下さい」


 震えたまま、じっと見つめてくる先輩が何を考えているのかは分からないけれど、今はそれしか言えない。

 植物人の味方で有るわけじゃないし人間の味方でもない。ただ、分かり合えるよう中間に立とうとしているだけなのが私だ。

 障壁が軋み、ヒビが入ってきている。まだ二分しか経っていないけど、どうやら見るとなかなかに激しい攻撃だったよう。

 先輩が走ってくれるかは私も信じるしかない。だから励ましも込めて一言だけ言うことにした。


「また、詳しいことはこの後にでもお話しします、生きて会いましょう」


 言い終わったところで、返事を待たず細かな破片状に障壁が砕け散る。一緒に剣も六本とも全て砕けてしまったため武器はない。

 唯一の救いは先輩が走り出したのが足音で聞こえたこと。私は近くにあった救護テントの支柱を武器代わりにアネモネの花に叩きつける。

 花弁の剣ではないので花は形が崩れると同時に爆発して支柱をへし折る。支柱を手にしていた私も無傷では済まない、熱を帯びた爆風が肌に吹き付け鋭い痛みを走らせてくる。

 ただの支柱では爆発に耐えることなど出来るはずがなく、三回目で真ん中からへし折れた。

 次の武器になりそうな物を探そうとするも、邪魔をするつもりなのかアネモネが話しかけてきた。


「無様ね。貴女がそれだけ傷付いてるのは、人間を守ってるからなのよ」


 燃える炎の音の中を大きな声で伝えてくる。


「そんなことするのは大間違い。戦いにくくなるだけってこと分からせてあげるわ!」


 何をするつもりなのかは直ぐに気が付いた。アネモネの赤い花が、私から背を向けて走る先輩に向かって飛んで行くのを見たときには、もう追いつけるかどうかも分からないのに走り出していた。

 絶対に守ると約束した、人間と植物人が争わないためにこれ以上の被害は両方に出させたくない。

 その一心で走る私の手元には、しかし花を止めるための武器がない。

 花との距離が縮まるにつれ、感覚が鋭くなり心臓の鼓動と自分の心の声だけが響くようになる。


 止めなくちゃいけない。けど、剣が足りない。いや、そんなはずはない。六本じゃない、もう一本、七本目を出すだけ!


「咲け! 最期の花よ!」


 自分の中で何かが弾け、他の剣に似て軽く、けれども深い紫水晶のような色をした七本目の剣が手元に現れる。

 武器を持ったことをアネモネに気付けば花を爆発させる。その前に握りしめた剣を振るい、花を全て切り落とす。

 その間も足を止めなかった先輩は建物の角を曲がることで、視認できる範囲から逃れていた。これで、もうアネモネの花が届くことはないはず。


 急ブレーキかけ、逆方向のアネモネ目がけて突撃する。一斉に出せる数に限りが有るのか、まだ少ない花の間を切り抜ける速さは自分でも分かるほどにさっきとは違っている。

 接近する間にも剣は計三本まで戻ってきていて、楽なほどまでに花を処理できている。


 そして、ついに剣の間合いにアネモネを捕らえた。滞空する剣に落ちるよう命じるだけで、首を落とし私の勝ちは決まる。

 もし今、周囲を取り巻く花が爆発したらアネモネ自身を巻き込むことになるからそんなことはしないはず。されたとしても、剣の方が早い。


「アネモネ、種痕を渡して森に帰って。出来れば殺したくないの」


「ふふ、甘ったれたこと言わないでよ。死ぬのは覚悟の上でここに来ているのよ。それより、アヤメ。あの人間がいなくなった後の方が動きがよかったでしょ?

 人間が邪魔だって事証明できたから、私はそのことで満足なのよ」


 自分でも摘んでいると分かっているのか負け惜しみを言い始めた。


 先輩を庇うことが戦いの枷になっていたなんて私も分かっていた。

 けれども、そう簡単に切り捨てていい事じゃない。甘い考えなのかも知れないし、バカなことなのかも知れないけど、私は人間と植物人の架け橋にならなければいけないんだ!


「残念だけど、アネモネ。そんなこと言ってる貴女に、私の考えが絶対理解できるはずないわ。

 だから、残念だけど何言っても、私は動じないから」


 落ち着いてるような口調で言い切った。内心の動揺は隠せてるはず。

 結果は悔しそうなアネモネの顔を見れば、そうだったのかが直ぐに分かった。


 アネモネの首元目がけて剣を振らなければ。

 深呼吸をするように息を大きく吸い、一気に力を込めて動かそうとした。その躊躇が駄目だった。


「そこまでにしとこっか、アヤメちゃーん。俺達もう帰るからさぁ」


 真後ろから、彼奴の巫山戯たような声が聞こえた。

 振り返るまでもなく剣を一本だけ残して、他の全てを声のしたところに飛ばす。が、分かっていたが伝わった感覚は何も無い。剣自体の感覚が途切れ、前のように溶かされたのだと考える。


「アネモネもさぁ、やりすぎだわこれ。ちょっと注意引いて、アヤメに危機感を味あわせるだけって言ってのに、マジ残念」


「ごめんなさい! トリカブト様、だってアヤメのことばっか言ってるし、人間とかウザいし」


「言い訳むよー。今、こっちにゲルトナーが向かってるし、マジで面倒いからさあ、ホント残念だわー。ってアヤメどうしたの?

 そんな顔しちゃ怖いよ?」


 私を挟んだまま喋り続ける二人に殺気だっているのに漸く気づいたよう。


 トリカブトは毒の霧を防御膜のように纏っているだけで、アネモネも花を全て消滅させて、本当に帰るつもりなのか戦意の欠片も見られない。

 アネモネめ、トリカブトが来るまでは色々言ってのに、全部忘れてるような態度。もう剣振っちゃおうかなって思ってしまうくらい苛立ってきた。


「おーい、アヤメちゃーん。そんなに怒らないでー!」


 無言を貫こうとしたが、更に煽ってくる。

 もう我慢の限界。体感を傾けて踏み込もうとしたその瞬間、何かが頬を掠めた。


「ていうか、ここで戦うと困るのはアヤメちゃんの方だろぉ?」


 視線の先、トリカブトが自身の毒を矢のように放ったのか、何か抜け落ちたかのような無表情で指を向けている。

 私は全く反応できなかった。それに冷静に考えればトリカブトの言うこともその通り。時間が経てば軍かゲルトナーが来るし、その時この場にいれば私が怪しまれることは免れない。


「まあ、やりたいならやるけどな。三秒数えるよ。ホラホラ、さぁーん、にぃーい、いー」


「止めろ」


 直ぐ耳元で声が聞こえた。

 咄嗟のことにトリカブトから視線が外れることも気にせず、剣を後ろに振るう。だが金属音と共に短剣のような武器で防がれてしまった。

 ついさっきまで気配も何も感じなかったはずが、そこには確かに薄汚れたフードでこんな至近距離からも解らないほど顔を隠した人がいた。


「どうする」


 淡々と言われたその言葉は、トリカブトだけじゃなく私にも言っているように思った。


「ッチ、邪魔しやがって。わぁったよ、止めりゃ良いんだろ、止めりゃ」


 降参といったように両手を頭上でヒラヒラ振ると、アネモネを連れて壁の方に向かっていく。

 あのトリカブトがアッサリと引き下がるなんて、それにこの人のことを知っているよう。


「……片割れなら、西にいる。早く行くんだな」


 それだけ言うとフードの人は剣をしまい同じように壁の外へ走り出す、いや余りにも早いため消えていったかのよう。


 それより、私もここを離れなければ。

 片割れが西にいると言われたけれど、片割れとは誰なのか少し考えてみる。

 うん、多分日々野の事だろう。なら西に向かおう。

 ひとまず行き先を決めて、誰にも会いそうにない出来るだけ壁に近いところを走り出した。

次の話でクラーレ襲来編(仮)が終わる予定です。

是非読んでみて下さい!

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