34,vsアネモネ
日々野:ディーゼル
「今の何だよ……」
壁の内側に逃げ込むことが出来た俺達は門からゲルトナー本部に続く道なりに建てられ救護テントで治療を受けていたところだった。
治療や戦況の把握など忙しさの余り、時間は知らぬうちに過ぎて、聖王会から使徒が派遣されたと聞いたときの驚きもかなり前のように感じていた。
安全が確保されたと思われていたとき突然外壁の上の方が吹き飛んだ。勿論、そこにあった軍やゲルトナーの仮設本部ごと。
この四年間の間に絶対的な安心感をあの壁に持っていたこともあり、降り注ぐ瓦礫に落下付近の住民だけで無く、一キロは離れている救護テントでも混乱が起こり状況は収拾が着かなくなってしまっている。
「あれ絶対やばいですよね。さっき聖王会が動いてたけど、どうなってるんですか」
「……でも、壊されたのは上だけ。だから、大丈夫……だと思う」
「ああ。通達でもあったが残りは三体。さっきのような攻撃を撃てるのはもういないはずだ」
無論俺たちも動揺しているはずだが、どうも手にした湯飲みを傾ける他我矢隊長のせいでいまいち緊張感がない。
確かに安全だと思いますけど、逃げないのもどうかと思いますよと言いたいがこの人本気だ。逃げる気どころか焦る気すらない。まあ、この人混みの中を逃げる気は俺もないが。
(アヤメ、大丈夫かな……)
空を見上げながらそんなことに思いを更ける。
時間的には学園で授業しているはずだがゲルトナーの医療班として動いていたら、最前線ともいえる門の周辺にいるか本部で待機しているだろう。戦闘班もいるし逃げるだけならできると思うが、もしもということもある。
(アヤメちゃんを頼んだわよ)
ふとタケに言われたことを思い出した。
「よし、行くか!」
手にした湯飲みを一気に傾けて中身を空にして立ち上がる。
「何処に?」
霧立が至極真っ当な疑問を投げかけてきた。
霧立もアヤメのことを知ってるから、正直に探しに行くと言っても大丈夫なはず。それに嘘を言っても無駄だろうし。
「アヤメが心配だから外壁沿いに見回りがてら探しに行こうかと思って」
「……ラブ?」
「違うからな? 心配なだけだから。てかそれ響火のいる前で絶対に言うなよ、俺が殺されかねない。わかったな、じゃあ隊長によろしく」
逃げるように会話を終わらせて救護テントから出ると、一先ず人の少なそうな西側へ進むことに決めて走り出すのだった。
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アヤメ
「何をしているんだ! 早く治療してくれ!」
「足が、足が折れてるんだ、早く来い!」
「治療が終わったなら早くどけ、後が詰まってんだ」
ここ、東の門の近くに建てられた救護テントには建物の倒壊に巻き込まれたり逃げてくる途中転んでしまった人など重軽傷に関わらず多くの人がやってきています。
私はゲルトナーの医療班に所属していたので強制的に警報が鳴った後、学園の持っているバスに乗って連れてこられました。私たちにとって怪我などすることは珍しいことで治療方法など習ったことはもちろん、体験したこともなく戸惑いながら言われるがままに物を運んでいるだけ。
さっきから見ている人たちは誰も彼も血が流れているだけなのに、面白いくらいの慌てようであきれてしまいます。
「今すぐベッドを開けろ。ここはゲルトナーの救護テントだぞ。隊員たちの治療を優先してもらう。ほら、そこをどけ。ガキの怪我ぐらい唾つけときゃ治るだろ」
慌ただしいテントに続く人の列を押しのけながら我が物顔で進んできたのは、大柄な男四人組。自分の獲物をちらつかせながら治療中だった人をどかせて五つのベッドを占拠しました。
「アヤメちゃん、出来るだけ関わっちゃだめよ」
つい睨んでいたのに気づいた見ず知らずの親切な先輩がこっそりと耳打ちをしてくる。
「でも邪魔になってますし、負傷してなさそうですよ。あれ誰なんですか」
「多分見回り帰りの戦闘班、それもかなり柄の悪い隊ね。ほんとうっとうしいけど戦える彼らに何も口出ししちゃだめよ。治療班が戦闘班の人に逆らっちゃいけないのは暗黙の了解ってやつだから」
アヤメにとっては理解不能、カルチャーショック的なことだった。
訳も分からない理論を言いますがこれも人間の決まりなのでしょうか。力のない仲間を守るのは当たり前なのに、そのことを傘に横暴な振る舞いをするとは……かわいそうな人です。
しかし親切な先輩の忠告は遅かったとのか、それとも目立つ姿をしているアヤメのせいか厄介なことに隊員達の目は二人に向けられていた。
「おい、そこの二人、なんか用があんのか?それとも付きっきりで看病してくれたりするのかなあ。いいぜ来いよ」
「ヒュー、隊長! なら俺あっちの紫の子がいいです。足が疲れちゃったんでマッサージしてほしいです!」
「俺はやっぱし黒髪のお姉さんかな~」
下種な会話をしてくる隊員にイラつきましたが、ぼそぼそ「このイ〇ム厨が!」とか訳の分からないことを言いながらも言われた通りに青筋を浮かべながらも背中を押して私ごと隊員たちに近づいていきます。
こんな人間もいるとは思っていませんでしたが、私たちの中にもトリカブトのように利己的に他を傷つけることを厭わない者もいるので仕方ないと割り切るべき。
けれども、初めに出会った人間が日々野だったこともあって残念感が大きすぎたようでつい口に出てしまいました。
「日々野みたいな人だけじゃないってことよね」
その言葉のどこが気に入らなかったのかわ分かりませんが、笑っていた隊員たちの表情がピタリと固まると不満ありげに立ち上がった見下ろしてきました。
「お前、いま日々野っていったよなあ。一体何だ、彼女か?」
「いえ、相棒です」
詳しいことが分からないまま、とりあえず正直に聞かれたことに答えます。
「相棒? まあいい。あのくそ野郎にはいつか何かしらしてやろうと思ってたんだがちょうどいい。知り合いなら、この場で痛めつけてやら!」
急に私の首元を狙って両手を伸ばしてきました。戦闘経験が浅いのか胴ががら空きになっています。日々野と話したようにできるだけ目立つことはしないと決めていましたが、これは仕方ありません。正当防衛で不可抗力、お灸を据えてあげるのにもちょうどいいと思ったのは秘密です。
伸ばされた手をかわして深く踏み込むと隊長と呼ばれていた男の襟首をつかみ力の流れるままに投げ飛ばしました。受け身もとれないのか叩きつけられただけでなくテントの外に転がっていきました。
「ア、アヤメちゃん、凄く、強いのね」
驚いた様子で話しかけてくる先輩の声は震えていました。そんなに驚くこと何でしょうか。人間の基準はわかりません。
「そんなことありませんよ。まだま、避けて先輩!」
咄嗟に隣にいた先輩を押し倒す。焦っているのは上体をふらつきながら起き上がってくる男ではない。その後ろの人ごみの中に確実に彼女がいた。それにあの力も感じ取った。
「へ、急にどうしたの! まさか、今度は百」
何か花の名前を言おうとしていた先輩の言葉は途中で強烈な爆発音で途切れてしまう。
背中に焼けそうな痛みを感じながら、すぐに起き上がって先輩の腕をつかみ火に包まれた救護テントであったここを離れようとしたが、すでに彼女の射程範囲に入ってしまっていた。
頬をかすめて一輪の花が飛んでいく。
「ねえ、あなたアヤメよねぇ。どうして人間の街にいるのか、私に教えてくれるかしら?」
「アネモネ……」
真っ赤な髪をしたドレス姿のかつての仲間が敵としてそこにいました。
日々野がやっと出てきたと思ったら一瞬でいなくなりました。
次に出てくるのはいつになるのか……
次回
アヤメ対アネモネ! ぜひ読んでみてください!
後、文体が変わっています(正確には戻ってます)。ぜひ感想・講評いただけたら嬉しく思います。




