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32,竜と少女

 オトギリとゲッカコウの二人は散歩でもするかのように歩き回りながらただ気まぐれに人を殺し、町並も壊していた。


「さっきからなんで家燃やしてんだよ。テキトーでいいだろ、人間殺せたら」

「より被害を与えるためじゃない、此奴ら虫みたいに増えるからこうして徹底的にしなくちゃね」

「わっかんねーわ、人間を斬れたらそれで良いじゃん」


 オトギリが建物を壊して逃げ遅れた人間を切り倒し、その後ろを着いていくようにゲッカコウが手に持った火を崩壊した家屋に付けていく。

 目的地もないため急に曲がったり戻ったり、人々は家の中で兎に角来ないでくれと願うしかなかった。

 緑がないと生きていけない、そんなことを言ってここで暮らすことを決めた自分を憎む人も少なくなかった。



「次はこっちだ!」


 オトギリは飽きることなく何軒目かも分からない家に手に握った日本刀に近い反りのある剣を振るった。

 見た目は血塗れの少し錆び付いた剣と言うことにも関わらず、中の住民が震えながら見つめる扉を溶けたバターでも切るかのようにスルリと剣を入れて中に入る。

 何か飲食店を営んでいたのだろう、テーブルや椅子が並んだフロア、そして厨房の奥に普段はリビングとして使われていたであろう部屋でこの家の住民達が互いを庇い合うようにして震えていた。

 夫婦と一人の中学生ほどの女子の三人がここの住民だったらしい。

 家族愛、勇気、優しいなどと言った言葉が似合う彼等を見たオトギリはジャリジャリと手元の剣引きずって鳴らしながら、万遍の笑みを浮かべた。


「なあなあ、怖いか?死にたくないだろ?、なら一つ言うことを聞いてくれたら助けてやらんことも無いぞ?」

「頼む。何だったら俺の事事を殺しても良い。ただ、家族だけは」


 オトギリの提案に父親が青い顔でだが、躊躇うことなく言い返す。

 それを聞いたオトギリは変わらず笑ったまま更に近づき、


「勝手に喋んな、ペナルティー」


 手にした刀を父親の脚に突き刺す。

 錆びているだろう、切れ味の落ちた刀は壁を斬ったときと違い、肉を裂き傷口を潰しながらその奥にある骨を砕いた。

 突然のことと予想だにしないことの両方に一瞬反応が出来なかった。

 だが、何をされたかを理解する前に正直な痛覚は脳に現状を訴えた。


「アアアアア、痛い痛いいい!」


 熱湯が入ってきたかのような熱さが刺された部分から広がり、激痛以上の形容しがたい痛みび叫びが喉の奥から押し上がる。

 その主人にとって唯一良かったことと言えば、その直後に痛みに耐えきれず意識を手放せたことだろう。

 傷口から流れる血は床を赤黒く染め、対照的にそれを見た妻と娘は恐怖で青くなっていく。 


「お父さん!ねえ、ねえ!」


 余りの事に動くことすら出来なくなった母親にかわって動かなくなった父親に娘が手を伸ばそうとしたが、その手が父親に触れることはなかった。

 少女の手はオトギリにつかまれ、そのまま家の外に引き摺りだされる。

 母親はその間も呆然として何も出来ないでいた。


「離して、離してよ!」

「生きの良いガキだ、大人しくしろよ!」


 そのまま投げ捨てるが、加減したのでだろう少女は少しだけ転がり痛みに顔をしかめながらオトギリを睨み付ける。

 睨まれた方は怒りも増して怯えもせず、その首元に刀を近づけより一層口角を挙げて笑うだけ。


「ほんと良いガキだ、楽しみで仕方ない」

「オトギリ、遊んでないで速く片付けなさいよ」

「わってるって。殺すだけじゃなく、ちゃんと潰せば良いんだろ、人間の家とかもさ!」


 刀は真一文字に振るわれ、軌道上の先にあった少女の家が地震にでも遭ったかのように揺れ、屋根から崩れ落ちる。

 無論中にはまだ少女の両親が残っていた。

 今は瓦礫となった家の下。


「お母さん!お父さん!」


 悲鳴のように両親を呼ぶが返事など有るはずがない。

 唯々、悲壮な少女の表情に笑うオトギリの声だけ。ゲッカコウはそんな仲間の行動に呆れている。


「クハハハハハ! サイッコウだ!」


 周りに人がいないわけでない。

 隣の家が壊され中には昨日までなにげなく話していた人が埋まっている。助けたい。

 けれども、今彼奴らの前に出れば自分が、家族が殺されてしまう。

 そう思うと誰もが通りの真ん中で泣き叫ぶ少女とそれを笑い見る怪物に怯え、怒り、矛盾した自分だけでも助かりたいという気持ちで隠れる事しか出来ないでいるのだ。


「誰か!助けて下さい、みんなが!」


「ギャハハハ、解れよ、ここにいる人間共は自分が可愛くて出てこられないんだ!

 お前は見捨てられたってことだ、お前は今から同族を見殺しにされんだよ!」


 そんなわけではない。

 隣家の人々は今すぐそう叫びだしたい、だが恐怖で震えうずくまることしか出来ない自分の弱さに、そして彼奴の言うとおりになってしまう事への悔しさに歯を食いしばり、ここに来てから否定してきた神に祈ることしか出来なかった。


~~~~~~~~~~


 私はこのまま死ぬんだろうと半ば諦めかけていた。

 近所の人が助けに来ないのは解っている。自分が逆の立場だったとしても怖くて動けないだろうから、責めるつもりはない。

 もし死んだら家族のところに行けるから良いじゃない、なんて事を考えながら睨み付ける目には既に力はこもらず涙だけが薄ら出てくるだけ。

 だって、こんな怪物には勝てるはずがない。

 ゲルトナーの隊員達が逃げている姿を見たし、怖いのも嫌だ。

 父の足に刺さっていたはずの剣を何時の間にか手にしていた怪物はまだ笑って、さっきみたいにジャリジャリジャリ刀を引き摺りながら近付いてくる。

 耳障りな金属音が聞こえなくなったら私は斬られるんだろうな。

 途端に怖くなって目をつぶって下を向く。

 この世界に来る前に読んだ漫画だったらこんな時にヒーローがやって来る展開だけど、そんなこと現実で起きるはずない。町を守るゲルトナーは負けたみたいだし、神様なんているわけがない。

 親の敵に何も出来ない自分が悔しさで涙がこぼれ落ちる。絶対にこれ以上この怪物に弱みを見せたくなかったのに、そんな弱い自分が嫌で一度流れ出した涙が止まらなくなる。


「それなら、アバよ。人間」


 そして金属音が無くなった。


 代わりに突風と土が私の体にぶつかってきた。

 四つん這いで下を向いていた私は驚き半分風の勢い半分でそのまま上半身が後ろに転がってしまう。

 今度は尻餅をついたような体勢になった私は何が起きたのか知りたくて涙が流れてることなんて忘れて目を開いた。


「オトギリ、ゲッカコウ。やり過ぎだ。悪いがお前達はここから先には行かせない」


 そこには槍を手にした紫の髪の()()まるでヒーローみたいに立っていました。


~~~~~~~~~~


 破壊の痕跡を辿りながら一体誰がこれをしているのか、もしかするとトリカブトの言っていた使徒との戦闘の副産物かもしれないと考えながら距離を取りつつ、ついさっき家が壊れた様子の破壊の終着点を見た。

 遠目にだがオトギリとゲッカコウ、そして一人の人間の姿だけで使徒はいないよう。

 声は聞こえないが、少女に何か喋りかけながらオトギリが刃を引きずりながら近づいていく。


 助けるしかない。

 直ぐにオトギリの前へ跳んで行こうとするが、何故か足が竦んだように動かなくなる。


 本当に戦いを止めることをして良いのか?

 オトギリが殺そうとしている人間は武器を持っているかどうかで人間であることに変わりは無い。もしかすると本性は植物人を敵と思っているかもしれないんだぞ?


 正反対の思考が現れて俺が動くことを許さない。

 一方的な非戦闘員への攻撃。戦士としてあるまじき行為。巫山戯たような動き。余剰な破壊行為。

 今彼奴らを止める理由として幾つもの事をあげられる。

 だが、そんな今だけの建前はいい、俺が此処の来た理由、戦う理由はなんだ。


 森を荒らし自然を省みない人間に対して罰を与えることこそが、生まれながらの俺の役割だと言うことは理解している。

 だから、それが全てだと考えて俺は戦ってきた


 長老は言っていた、命を奪うことだけが戦いでない。

 ならば、今彼女を見捨てるのはどうなのか。


 あの集会所を出た後ろで聞こえたアヤメの話では、森を壊そうと考えている人間ばかりではないと。

 ならば、少女が森を荒らさない存在なら守るべき一部なのではないのか。自然の一部ではないのか。

 本能に逆らうかのように一つずつできる限り端的に素早く理論じみたものを組立てていく。

 漸く重い一歩を踏み出して屋上の端に立つと少女の顔が見えた。

 その頬には涙が流れていた。

 俺達と変わりない涙だった。


「ウォオオオオオオオ!」


 頭の中にあった何かがなくなったときには屋上の端を蹴り、そのまま刀を振り上げたオトギリ目がけて空を飛んでいた。


「咲き乱れろ、竜槍の息吹(ドラゴ・ブレス)!」


 手にした槍から穿たれたエネルギーはオトギリと少女の間に割り込むよう地を抉りながら飛んで行き、境界線のような一直線の跡を残す。

 土煙が上がりオトギリの動きが止まる。

 直ぐに追従とまでは行かないが投擲の後を追って俺も間に降り立つ。

 

「オトギリ、ゲッカコウ。やり過ぎだ。悪いがお前達はここから先には行かせない」


 転んで足が開いてしまっているため少しだけ見せられないような姿の少女を背に武器を構え殺気を纏う。

 姿は見えずとも此方がオトギリを気配で位置を把握できているようにわざわざ殺気まで出しているのだから気付いていないわけが無い。


「おいおい、リンドウ何邪魔してくれてんだよ。喧嘩なら買ってやるぞ? 同族殺しは俺の得意技だからなあ」


 オトギリに引く様子はない。それどころか刀本来の力すら出そうとしている。

 ならば、それ相当の対応をしてやろうと槍に力を込めるが、荒ぶるオトギリを静めるように傍観を決め込んでいたゲッカコウがスッと前に出て来る。


「リンドウ、本当にそこを退く気はないんですね?」


 忠告のつもりか、それとも確認か。

 少なくともオトギリよりは話が通じると思う。無論、警戒を解く気は無い。


「三度目はないぞ、この線より西に攻めることは許させない。もし、聴く気が無いのなら武力を持って解決させて貰うまでだ」


「そうですか………なら仕方ないわね」


 口調が途端に低く雑になるがこれがゲッカコウ本来の口調だ


「私もあなたの強さは解ってるわ。でも、このタイミングで逆らうような行動を取って大丈夫なのかしら。人間の本拠地で私たちを敵に回して幾ら強くても限界があるんじゃない? オトギリの力もそうだし、トリカブトさんが相手でもあなたは勝てるつもり?」


 普段余り会話をする機会もない彼女がこれほど話すことに驚く。

 オトギリの能力は確かに敵に回すと厄介と言うか、敵にすることで本来の力を発揮する。

 "同族殺し"の力。

 人間には何の効果も無いが、世界樹の民だと切り傷が治らなくなる上、オトギリの身体能力も飛躍的に向上する。

 負けるつもりはないがそこにトリカブトも加われば確かに勝率は六割をきるだろう。

 あくまでもトリカブトが加わればの話だが。


「悪いが、トリカブトから指示は任されている。もし、戦闘になった場合果たしてどちらの味方につくか……解ったなら引け」


「……やけに自信があると思ったらそういうことね。なら、この線よりこっち側で何しても邪魔はしないでよ」


「勝手にしろ。俺もそこまで人間の味方をするつもりはな。ただ、この線は守れ」


「何度も言われなくても解ってるわ、オトギリ、此処は言うことに従っときましょ。

 私たち二人だと戦っても勝てる気がしないわ。ほら、行くわよ」


 悔しそうだが、ゲッカコウは手を引くよう。

 俺を睨みながらだが、それに従いこの場を去って行くオトギリを見る限り、彼の手綱を握っているのはゲッカコウだったか。


~~~~~~~~~~


 自ら作った瓦礫の道を引き返す二人の姿が見えなくなってのを確認すると殺気を消しながらリンドウは槍を下ろした。

 少女の方を振り返り、ざっと見た感じ怪我無いようで安心するが、そこで一つの問題に気付く。


「・・・・・・・・」


 無言で見つめているが、断じて(やま)しい気持ちなどはない。

 唯々、何を喋れば良いのか解らないだけなのだ。

 記憶を辿れど、生まれてから自らの武を極めんと鍛錬を続け、時折村の仲間と戦闘方針について話し合うのみだった。

 個人的な会話と言えば、トリカブトとタケなどの同世代とのみ。

 ぶっちゃけた話、リンドウは口下手、コミュ障なだけだった。

 

「・・・・・・・・、あの」


 沈黙に耐えかねたのか正座を取り、居住まいを整えた少女がリンドウに声をかける。

 助けられたのだと分かっている。

 だが、数分前に命の危機にさらされて、そこを助けてくれた相手と言えども、先程の空から降ってきた何かや怪物達と対等に話す様子、仕上げに今無表情で見つめられたりすると、やはり怯えてしまう。

 実は怯えながらも頭に片隅で、助けてやったんだからお前は俺の物だ!など言われてそのままムフフな展開に……なんて考えてしまうのは年頃だから仕方ない。


「・・・なんだ」


「た、助けて下さってありがとうございます。それで、あの、家族がまだ家の下に・・・」


 いろいろな理由からチラチラと控えめに視線を壊された家とリンドウとに交互に向ける。

 ここでリンドウが多少でも笑顔を浮かべれたのなら少女も楽に話せただろうが仕方ない、そう言う男なのだから。


 変わらない無表情(緊張の所為)で槍を再び構える、とまでは行かないが片手で持った槍を地面に垂直に肩の高さまで上げる。

 その動作に少女はビクッとなるが気にせず(緊張しているだけ)刃先に意識を集中させると、次第に槍の先端が光り出して数滴の光の雫が落ちる。

 その雫の正体はリンドウの種魂のエネルギーの一部、雫が落ちたところから新芽が伸びて一気に花が咲く段階まで成長する。その光景は光と相まって神秘的だ。

 

生まれろ(クリエイト)木人(トレント)


 開花した紫の花の根元がひび割れて、人型の木人が現れる。

 少女は知らないが、普段森に現れる木そのもの姿をした木人と違い、操り人形のような木製の人形をそのまま等身大にした姿。

 人間が周囲にいると考えてのリンドウなりの気遣いだったが、残念ながら少女の抱いた感想は不気味の一言に尽きる。


 もう一つ言うと、木人を創るのに集中したり詠唱など本来は必要ない。

 姿の異なる木人を創るため少しだけ難易度は上がっていたかもしれないが、これもリンドウが緊(以下略)


 生み出された木人達はリンドウの意思をくみ取り瓦礫となった家を順序よく解体して行き、直ぐに少女の両親を見つけ出てくる。

 運良く柱など重なり合って出来た空洞に収まっていたようで、二人とも気絶はしているが父親の足以外に怪我はない。


「良かった、・・・ありがとうございます」


 木人の背中に背負われてきた両親の無事が分かると、中学生にしては落ち着いた様子で改めて礼を言った。

 家族の無事は確認できて心残りはなく、覚悟したのかリンドウに真っ直ぐ向き合う。


「いや、俺の同族がしてしまったことだ気にするな。寧ろ俺が謝るべきだ、済まなかった」


「そ、そんな事無いです! 頭を上げて下さい!」


 リンドウも漸く緊張が解けてきたのか、それとも覚悟を決めた様子の少女に答えようとしたのかきちんと話すと、槍を隣に置くと膝をつき頭を下げる、土下座だ。

 少女の元いた場所にも土下座の文化はあったようで、礼を述べた相手がいきなりとった行動に困惑するが少しだけ緊張と警戒心、覚悟までもが溶けてしまう。

 言われたとおり頭を上げたリンドウと同じように膝をつき、目線を合わせる。

 

「確認なんですけど、あなたも植物人ですよね? 

 なら、どうして私たちを助けてくれたんですか? 

 目的があるなら私の命とか出来るだけのことはします。だから・・・」


「はぁ、順に答えさせてもらぞ。

 一つ目、俺が植物人かどうか、その通りだ。俺は仲間からリンドウと呼ばれているが、人間の呼び方だと植物人だ。

 二つ目、助けたのに特に理由は無い。

 それと別に俺が全ての人間の味方だと思うな。ここに来るまでにゲルトナーの隊員を既に殺しているし、昨期も聞いていただろう?そこの境界線より向こう側のことは助けないと」


「っ、でもそれは戦ったからだし、私たちのことは助けてくれ」

「あえて言うならば、お前は殺すべき相手でなかったからだ。

 もし、お前が森を害しようと思うなら、ゲルトナーの隊員と同じように、今すぐ殺す」


 納得できないと言った様子で反論しようとするが、リンドウが先手を打たれてしまう。

 だが、諦められない。


「・・・そんなこと有るわけないです。

 あなた、リンドウさんはいい人ですし、ここ(ネイチャード)に恩をあだで返す人はいません。

 それと、私の名前は鈴です。お前って呼ばないで下さい」


 少女、鈴の言葉にリンドウも何も言わずじっと目を見る。

 リンドウはいい人。

 そこは絶対に譲らないつもりで、見つめ合うことになるがここで逸らすと負けを認めることになるような空気になっていた。

 両者視線をずらさないまま一分が経とうとした頃、リンドウの方がため息を吐きながら先に目を逸らす。

 今の鈴と同じ顔を何度も見たことがあり、これ以上は何を言っても無駄か相当な時間は掛かる、仕方なく自分の方が折れてやるのだった。


「勝手にしろ。それと、ソロソロ移動した方が良い。視線を感じる」


 リンドウが幾つかの家に目を向けると、窓際で人影が動いたり、カーテンが揺れたり、ドタガタンと転んだような物音までしてくる。

 それらは鈴がどうなったかや、怪物達が起こす破壊の音が止んだため、状況が気になっ隣人達が外の様子を確認すべく勇気を振り絞り窓から覗いた事の副産物だった。

 殺気を含んだリンドウの視線と生まれつきの細目のせいで目が合った人が倒れたり、腰が抜けてその場に崩れ落ちたのは言うまでもない。


 立ち上がって鈴の父親の所まで行くと傷跡にアロエ特製の傷薬を塗り込み、少しだけ力を込める。出血は止まり、傷も見る見るうちに塞がっていく。


「あくまで、応急処置だ。

 傷口や出血だけは治したが、骨の方は折れている。医療施設にはちゃんと行けよ」


「は、はい」


 時間も少ないと分かったリンドウは即座に行動を開始する。


「いいか、壁の中に入れば俺達の仲間は追っ手これないはずだ。

 他に入り口はあるのか?」


「勿論、ここから西の方に一つあります。

 あの、護衛というか・・・着いてきてくれますよね?」


 馴れない正座のせいで痺れた足で必死に後ろを着いて来る鈴に、足を止めて振り返り無言で答える。

 少し離れたところで待機させていた数体の木人達を呼び寄せると、それらを元にして分身を創り出す。

 リンドウが掌に種魂の一部を空に投げ出すと、足下から崩れ出した木人の破片が集まり人の形を成していく、それはリンドウそのものだ。

 アヤメもしていた事と同じようだが、リンドウの分身体には本体とは別の意思を持って行動してくれる。

 ちなみに、分身体と本体の違いは種魂の大きさなだけで一方的な命令や記憶の独占などのファンタジーな能力はない。


「「これでいいか?」」


「うわぁ。分身まで出来るって・・・もういいや」


 命の危機に空から光線、驚きが続きすぎて鈴の感覚が麻痺しかけている。


「俺は他の奴に会ったときのために人間達と壁の中まで向かえば良いんだな」


「ああ、種魂の殆どが俺にあるから戦闘は出来るだけ避けるのは分かっているな」


「言わずもがなだ。他にはいいか。基本的な思考は同じだろ?」


「ふっ、そうだったな。じゃあ、そっちは頼んだ」


「任せておけ。お前も死ぬなよ」


 双子以上、鏡写しのような二人の会話に鈴は遠い目をしている。

 元からいる方のリンドウが話し終えると線の向こう側、戦闘の中心部に向かっていった。


「それなら俺達も向かうとするか。

 隣人達に声をかけたり、準備が必要なら待っておくが、早くしろよ。ゲルトナーに見つかれば厄介だ」


 分身体のリンドウは片付けられた鈴の家の中で座り込む。

 目をつむって待つ姿勢を示そうとした所で頭をかいたかと思うと、何か思い出したかのように装いながらポツリと口に出した。


「・・・彼奴からの伝言だと思ってくれたら良いが、鈴、もう少し自分のことも大切にしろ。命を出すなんて言うな。分かったな」


 鈴と、初めて名前で自分のことを呼んでくれた。

 嬉しさと下の名前で呼ばれた事への恥ずかしさ、更に人間の味方はしない、助けたことも気まぐれだなどと言いながら最期には気遣う言葉をかけてくるのに少し赤くなりながら、返事もせずに隣の家の人を呼びに行くのだった。

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