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30,軍

しばらく視点は三人称。

今回は軍が主役のお話です。次回はリンドウになると思うので、十三番隊は少しの間お休みです。

「各隊、周辺に避難民の姿はないとのこと、外壁トンネルの閉鎖許可を!」

「分かった、総員門を降ろせ!」 


 掛け声に従って街を囲む厚さ八十メートル、鉄筋コンクリートで作られた外壁のトンネルにある複数合金製の一枚門が下ろされる。

 その外壁の上と閉鎖したトンネルの外側に軍の隊員達は列をなして合図を待っていた。


 彼らは普段植物人を倒せる力に劣るうえ、人間同士の争いが起こることもないため、役目はないに等しいのだが、現在どの組織よりも植物人の襲撃に対して素早い行動を取っていた。

 その行動の根幹にあるのは都市を守るという使命。

 ゲルトナーの総員ほど人数は多くはないが、この場にいる全員の意志はその差を感じさせないほど強かった。


 軍に入隊する人達には共通点がある。街を守るという意志は言うまでもないが、その多くがゲルトナーに入れなかった者、もしくは自ら脱退した者だという点だ。


 軍とゲルトナー、同じようなものに思うかも知れないが幾つかの違いがある。

 まず上げられるのが給料、ゲルトナーは蔵餅のようなスポンサーによって払われているが、軍は決まった収入を得ることがない。食料は自給自足&物々交換、衣服などは聖王会から貰っている。

 次に入隊テスト、軍は来る者拒まずとまでは行かないが最低限の常識と体力さえ有れば入隊出来るが、ゲルトナーの戦闘部隊だと神鎌との適合率であったり身だしなみや思想までチェックされる。更に都市防衛や医療班など志望するところによって内容が変わっていく、会社に近いシステムになっている。

 他には、派閥であったり身分や義務などなど違いは様々だ。



 

「元帥、ゲルトナーの蔵餅総司令官と防衛部隊が十数分で到着予定とのこと、更に聖王会からも使徒が二名来られるそうです」

「……遅いな。先ほどの戦闘を見た限り十数分も待てんぞ」


 外壁の上にテントのように建てられた拠点には軍のトップである勝沼元帥と、二番手原口中佐が報告と其れについての話し合いをしていた。

 ゲルトナーの到着を待つのは協力し合う為でなく、人の数が多いほど死亡率が低くなるからだ。それと軍が所持している神鎌が少ないという理由もある。

 このまま到着を待つ予定だったのだが、彼らの考えを改めさせた戦闘とは、勿論大道りで繰り広げられた十三番隊とアジサイとの戦闘のことだ。今まで報告されていた植物人とは段違いに異なる力と視認するのが困難な速度の戦闘、苦戦する十三番隊、立て篭もり上から攻撃しようと考えていたがこの外壁が破られるのも時間の問題だと考えた。

 何より今回は数少ない神鎌でも軍には勝てる勝算がある。


「各部隊長に伝えろ、出撃だ」

「了解しました!」


 勝沼元帥は思案を重ねた結果を原口中佐に伝える。

 中佐から射撃部隊、杭打ち部隊、狙撃部隊、神鎌部隊などの各部隊長へ通信機を介して伝えられ、封鎖したトンネルを背に待機していた各部隊が一斉に動き出す。


「此方、狙撃部隊。現在、確認された目標数は二、は大通りから東側2キロ、更にそこから北に5キロの地点で破壊活動を行っている様子。西側には特に破壊行為がないため植物人はいないと思っても大丈夫。後、木人がディーゼルに向かってきてます、数は六、残り五分もあれば狙撃可能範囲に入ります。ここから見えるのはそれぐらいですかね」

「了解した。放射部隊と射撃部隊の半分、織部はそっちに回れ。外壁まで引き寄せて狙撃部隊とも連携を取るように、残りは東側の植物人を狙うぞ!」

「「「「了解!!」」」」


 狙撃部隊からの情報を元に隊を分けつつ東にいるという植物人の元に向かう軍の隊員達。

 ゲルトナーの隊員達のように恐れていないわけではない。彼らは自分達が死ぬであろう事を理解した上で、尚高らかに掛け声をかけつつ進んでいく。何故なのか。それは彼らには余り生きて帰ろうという意思がなく、それ以上にこの街の為に漸く戦える機会にヒーローに憧れる子供さながらに熱くなっているのだった。


 走ること僅か数分で目的地に到着した彼らは破壊された町並みの中に立つ植物人を目にし、即座に幾度と訓練した動きにかかった。


「射撃部隊前に! 撃てっ!」


 二十近い銃口から一斉に弾を撃ち出しなが更に近づいていく。これも聖王会から送られたものの一つで、一般的にアサルトライフルと呼ばれる種類のものだが詳しい銘柄は分かっていない。狙いを足に集中させ、弾が切れた者から順に腰に差された剣を抜き無謀にも真っ正面から向かっていく。


「バカドモメ、オデに自分カラ殺サレに来ルナンテ。オ礼にイイモノ見セテヤル! コレがオデの能力、巨大化!」


 植物人オダマキの体が言葉通り巨大化していき、アジサイを超える大きさになっていく。


「所詮は的が大きくなったのみ、逆に()()()だろ! 怯むな、突撃!」


 武器を銃から剣へと持ち替えた兵士達は、誰一人逃げることなくオダマキに接近する。

 だが、無常にもオダマキは小バエを払うように目下に近寄る兵士達に腕を振るう。緩慢な動きのようだが彼らはゲルトナーの隊員のように神鎌の力を持っているわけでない、ただの一般人と変わりない肉体なのだ。二十一人中躱すことに失敗した四名が吹き飛ばされ家屋の中に転がり込んだ。他の躱すことに成功した十七人は振り返ることなく更に足の動きを速める。既に吹き飛ばされた四人が助からないことは分かっている、だからこそ彼らは止まれないのだ。


「狙う部位は分かっているな! 誰か欠けてもやり切れ!」


 足に辿り着いた兵士達はあらかじめ決めてあった所に剣を突き刺していく。アキレス腱や膝裏などだ。


「オ前ラ、バカダ! 鎌デモナイノニ、オデを傷ツケレる訳がナイだろう!」


 オダマキは完全に見下して無意味に剣を振るう人間をただ見ていた。オダマキの言う通り斬られたところは、五秒も経たない内に元に戻っていく。しかし、分かっていながら諦めずに剣を振るい突き刺してくる人間に苛立ってきた。


「モウイイ。マトメテ、潰れろ!」


 足を上げて纏わり付く人間(小バエ)を踏みつけようとしたとき、その巨体が揺らぎ地面に倒れ込んだ。


「ナナ、オデに何をシタ!」

「杭打ち隊、的が大きい分多めにしろよ! 打ち込め!」


 後方で待機していた別部隊が交代して今度はオダマキの上半身、特に腕に肩に担いでいた兵器から杭を打ち出していく。

 腕を貫通して地中深くまで達した杭は先端を広げた。それらが何十本も成されて確実にオダマキを地面に縫い付ける。


「とどめだ!」


 軍が所持している数少ない内の神鎌を持った四人が鎌を振るった。その内の一振りが種魂を砕き、オダマキは再生することなく力尽きた。


 静寂が場の空気を包んだのは二、三度息をする間だけだった。勝ちどきのように叫び声を生き残った兵士達が上げ、互いに抱き合う。 

 弱者故にただ立ち向かうしかなかったが、今、ゲルトナーでさえ敗退した植物人を地に墜とす事が出来た。俺達も英雄になれた、戦えるのだ、その事実が彼らに今までにない高揚感を与えていた。


 杭を打った兵器はパイルバンカーでもアトラトルとも異なるものだ。ランチャーのように担がれた筒から鉄パイプ程の杭が打ち出されるだけの機能。それは完全な対植物人兵器。軍の兵士達がゲルトナーや聖王会から聞いた情報を元に考え抜いた結果、一つの作戦が立てられ、その核となるのがこの武器であった。

 植物人は神鎌や神の力を得ている武器でなければ、即座に再生してしまう。これが軍にとって最大の壁だった。ある時、誰かがおふざけでパイルバンカー擬きを開発したのがその壁を破るのでなく、利用出来る可能性を見つけさえたのだ。

 植物人は再生する。ならば、パイルバンカー擬きで打ち出した杭で動きを封じられるのではと言う案がでた。

 射撃部隊のしていた攻撃を一見すれば無駄なことだろうが、それもここに繋げる為の手段であった。

 植物人は人間とさして変わらない。それならば、筋肉の構造や毒物も効くのではないか。そのために再生するにも関わらず化学薬品を塗った剣で斬りつけ、歩行に必要で重要な筋肉の部位に剣を突き刺して再生したとしても、正常な働きが出来ないようにしたのだ。


「整列!!」


 浮かれた、兵士達に原口中佐が一喝。

 やはり訓練と統一の取れた集団なのだろう、反射にも近い動きで自らの隊に戻り気を付けの姿勢で動きを止める。必至の形相であったが別に中佐が恐ろしいとか訓練での出来事思い返したわけではない。決してないのだ。


「よし、総員。喜ぶのはこれくらいにしておけ、まだもう一体いる、それに四名が死んでしまった。気を引き締めろ! 俺達はまだ死ねない、街を守り抜くまで戦うぞ!」

「「「「ウォーーーーー!!!!」」」」


 返事はやはり叫び。それを終えるか終えないかで、隊列を崩さず小走りに次の目標がいる東へ向かうのでった。

 

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