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29,強者の特権

 世界樹の周りから離れた森には様々な生物がいた。熊や狼、ヒヒの群れ、何奴も言葉を発しないが自ら縄張りとかのためにやって来るため、楽で面白かった。

 今日は戦いの途中で逃げ出した熊を殺した。

 追放されてから十八日目だが、規則ではなく強さこそ全ての森は俺にピッタリの場所だった。村の奴らは負けるのが怖くて俺を追放した。無抵抗に、あの、何故殺されたのか分からないまま死んでいく仲間の表情もよかった。

 そう思うと、無性に人の言葉を聞きたくなった。取るに足らない知性しか持たない畜生どもでは俺の強さを完璧に理解できないから、戦いに飽きてきているのかもしれない。

 森では生物を殺し回ると何もいなくなってしまうので、一日四匹までと言うルールを決めている。だから、今日はもう殺せない。

 食事も睡眠も必要不可欠でない俺にとってもうすることがない。

 暇だと思っていたが、何かが近づいてくるの気づいた。

 

「お前、強いんだってなぁ」


 反対側、何の気配も感じていなかったはずの木に、その男はそこにいた。


「何のようだ、トリカブト。同じように追放された俺に会いに来たのか、それとも俺に殺されに来たのか?」


 ニヤニヤと笑う見知った顔、二年以上前に村から追放されたトリカブトだ。最後に見た時より少しだけ背が伸びている気もするが、他には余り変わっていない。

 冷や汗をかきつつ冷静に考える。俺達は人間と違うく、最も力の強い年齢で成長止まる。それを考えると、此奴は既に限界に達したのかも知れない。

 だが、経ったの二年。その間にここまで強くなっているのか!

 今の此奴は戦わずして分かってしまうほど強くなっている。悔しいが、俺が勝てないと思うほどに。


「ふーん、村で仲間を殺したって聞いたから来たけど、まだ完全には成っていないようだなぁ」


「……何のことだ、戦いなら受けて立つぞ。死ぬ覚悟なら既に出来ている」


「嫌、別に戦いに来たわけじゃねーよ、誘いに来たんだよ」


 あっけらかんとした物言いに拍子抜けだが安堵してしまう俺がいた。

 俺は強い。だが其れは、力だけの強さではない。引き際や次の事を考える知的な方面も含めての最強だ。だから、勝てない相手に挑んで犬死にするようなバカではない、逃走を求める本能を抑えるつもりもないが。


「俺達と一緒に人間の街を襲おうぜ! 勿論作戦はある。既に参加者も俺を含めて七人いる。更に今参加してくれるなら、特典として更に強くなる方法を教えてやるよ」

 

 俺がトリカブトに言われたのはそれだけだ。

 だが、すぐに了解した。トリカブトの誘いに乗らないわけがない。

 人間共は恐怖も見せてくれるし適度に歯ごたえもあり、俺にとって格好の獲物。

 別に強くなって人間を殺すのが目的じゃない、戦えるのなら同じ植物人でも動物でも意思を持ってさえいれば何でもよかった。


 俺は強い。

 強さを誇示でき、知恵の有る生き物なら恐れをなし、言葉を持っていれば命乞いをしてくる、其れらは強者の特権だ。

 更に強くなれるなら知りたい。トリカブト超えれる程の力を得て、立場が変わる。考えただけでゾクゾクしてくる。


「ほんじゃ、着いてこいよ。今日の集合場所に案内するから」


 直ぐに木々の合間を走り出したトリカブトの背を追いかけた。ぐんぐん離れていくが、今はそれで良い。追い付いたときがより楽しみになるからな。






 あれから何度かトリカブトに挑んだが勝つことは無かった。

 だが、()()の力が上がってきているのは戦いの中で明らかだ。

 もうすぐトリカブトの奴が言っていた強さの次の次元に達するだろう。来週、いや明日には俺様こそが最強に成っている可能性もある。


「オマエ、ソンナニツクナリタイノカ?」


 オダマキが木の裏から出て来てそう尋ねてくる。

 俺より一回りは大きい体型だが奴のは脂肪と言うやつだろう、食べることに執着したバカだ。其処にいるのは分かっていたが何故そんなことを尋ねてきたのか気になった。

 

「ああ、俺様こそが最強でなければ気が済まない」


「ドウシテダ?」


 ……どうしてか。俺も考えたことがない。いや何故強くなりたかったのかと言われれば、戦うことと勝つことが楽しかったからだったと思うがよく覚えていない。

 まあ、そういうものだろう。初めに何をしたかったかを忘れるか何てよくあることだ。今は最強に成る、それだけで良い。


「如何だっていいだろ。お前だって何で人を殺したがるんだ? 理由なんてないだろ」


「タシカニ! オデモワカラン!」


 満足したのかオダマキは何処かに去って行った。知能の低い奴は対応に困る。

 俺様が最強である。其れで十分だった。

 




 人間の街を襲う事が決まった時、俺様は楽しみで仕方なかった。

 自分の強さを感じることが出来る。脆弱で数が取り柄のくせに知能が高い人間共、中でもゲルトナーと言う戦闘部隊は俺達を鎌で切り裂き殺せる力を持っているらしいが、其れを聞いたときは、つい笑ってしまった。

 其れだと俺様を殺すことは出来ないからだ。切らなければいけないのに、刃を通さない"不断"の力を得た俺様に、その刃は絶対に届かない。

 それ以上に、俺に攻撃を当てられる程の人間が出てくる訳ない。俺様が人間ごときに傷つけられる可能性など無に等しい。




 そう思っていた。

 途中までは誰も立ち塞がることなど出来ていない、一振りで消えていった。ゲルトナーと名乗る人間とも遭遇したが数分も楽しめなかった。人間とはそう言うものだったはずなのに、今、一方的にやられている。

 何故なのか、急に強さを増した人間、それもちびで女なのに。

 潰された右半身から体液が流れているのを感じる。

 負けるわけにはいかない、敗北は許せない。

 入り混ざる思考の中の何かに気付いた。それは初めから知っていたはずなのに今になって思い出した事だった。

 怒りとは違うそれを悟った時、俺様が俺様で無くなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まダ、だ。まだオれはまケてナイ! オれはコソ、さイ強だァ!!!!」


 霧立の一撃を受け止めた右腕は代償として無くなっている。肉が斬れるのではなく潰れるように抉れ、赤い血が流れ出ている。

 ここに来て初めての傷を負わせたとも言えるが、神鎌の力のよって即座に傷口の再生が始まる様子はないが心臓の鼓動に合わせてだろう、ビクビクと傷口周辺が動き肉がせり上がってくる。

 そのグロテスクな中の一点に目が留まった。

 赤黒い血肉の中から、鮮やかな赤紫色で光っているビー玉ほどの粒、種魂が見えた。アヤメに見せて貰ったのとは色や大きさが違っているが間違えない。

 種魂は植物人謂わば心臓、むき出しになって視認できている今ならやれるかもしれない。


「俺は、ダレよりもツヨクナければ、誰ヨリも全ブ、アって、ツヨクナけレバ!!!」


 立ち上がり放つ言葉の内容は子供の駄々と変わらないが、一秒ごとに増してゆく場の圧迫感に押されてしまう。

 一瞬でも速く種魂を切らなければいけないのは分かっている。けれども、立ち上がることが出来ない。負傷していたり竦んでいる訳ではない。アジサイが叫んだ時、何かが全身に染み込んでいく感触が起きて痺れたように動かない。

 アジサイが片足を前に出す。

 ちぎれた右半身の肉は再生を続け、更には速度が増しているように思える。

 すでに、種痕の半分は体内に戻ってしまい、あと十秒も経たない内にせっかくのチャンスが無くなってしまう。


「クソ、何なんだよこの感覚は!」


 膝に力を込めて立ち上がろうとしても、ガクッとあと少しのところで力が落ちてしまう。

 危機迫る時に覚悟を決めかけたが、そんなものは必要なかった。


『飛べ、"黒鴉"。抜刀、黒滅の刃"砕"』

 

 あれだけ苦戦したはずのアジサイの終わりは本当に一瞬だった。

 声がダブるように聞こえ、目に見える斬檄が再生を終えようとしていたアジサイの体を切り裂いた。種魂もろとも半分に切れた姿と突然のことに、俺も霧立も勿論アジサイ本人も驚きを隠すどころか何が起きたかも完全に理解できていなかった。


「な、ナンで、切れテンだオ?」


 目を逸らしたが、切り落とされた半分が地に落ちる音が聞こえる。生々しい光景を想像してしまい、慣れたはずと思っていたのに疲労のせいか吐き気が起こって、昨期までとは別の理由で動けなくなる。


「日野、霧立。立て、直ぐにディーゼルの中に逃げるぞ。門が閉じる」


 近くまできて、いつも通りの抑揚のない声でそう言われる。冷たい言葉に思うが、ここが危険だと言う含みもあるのだろう。


「……分かりました、行きましょう」


 俺は半ば意地で立ち上がり、完全に走る速度を出せない霧立を肩に担いで走り出した他我矢隊長の後ろを追うように走る。


 何か忘れている気がしたが、前を走る隊長に担がれた霧立の楽ちんだよーとでも言いたげな表情のせいで、そんな事は気にも止めなかった。

次回から少し視点が変わります。

お楽しみ頂けたらと思っています。

次回も是非読んでみて下さい!

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