24,保護者無関係
四月十一日
天気は晴れ。森の中を進んでいるとピクニックなんかをしたくなってくる。
平日の昼だがゲルトナーの任務だと言うことで学校は休ませてもらったが、得した気分だ。
前回の神緑人戯によって隊員数が減ってしまったが、相変わらず俺達のところは散策と自由行動を言い渡され、一人森の奥へと進んでいた。
そ過激派からの攻撃があるかもしれないと、警戒しつつ進んでいるとすると周りの木々の種類に変化が現れているのに気付いた。
この世界で生えている草花は地球にいた頃と同じものだが、生息域が全く一致していない。極端な例だが、やしの木の近くに白樺が生えていたこともある。
まあそんな感じでいい加減な極相な訳だが、おかしいと思ったのは辺り一面に見覚えのあるあの木が生えているということだ。
その木は竹。いやな予感しかしない。
回れ右して来た道を帰ろうとしたときデジャブ、足下から竹槍があの時のように突き出してくる。
とっさに後ろに下がった所で失敗に気付いた。あの人の戦い方は行動を予測し制御するのが基本、前戦ったのに同じ手にひっかっかてしまうとは……。そのまま下がり続けて竹藪の中に入ってしまう。
どれも前より飛び出す速度がゆっくりで、心臓や頭は狙ってこなかったことを考えると、さっきの攻撃は竹藪の中に誘い込むためだったのだろう。友好のためなのか確実に俺を殺すためなのかは分からないから備えはしておく。
「テールイーター、召刀」
鎌が虚空から現れる。この前壊れてしまった持ち手の部分はすでに新しいものに替えている。来るなら来い。
「ちょっと何武器なんか出してるの~、そんなに戦いた~いの?」
あれ? 前のような高圧的な口調じゃない。これが文目の言っていた普段の姿ということなのだろうか。それにどうやら戦う気はないのか次の攻撃がこない。だが、まだ武器を下ろすつもりはない、距離を測りつつ話しかける。
「いや、戦うつもりはないけどもしもの為です。タケ姉さんの方はどうなんですか」
「もちろん、戦う気は……ないわよ~。アヤメちゃんから事情は聞いてるから、話してみたいなって思ったのよ~」
少し間があったのが気になるがスルーしておこう。
「そうですか。なら話す前に一つ、この前のことは許して下さいよ、手を出したのはそっちですから」
「分かってるわよ、私は理解ある人だからね~。でね、話したいことは仲良くするのよりも大事なのが有るの。真剣に聞きなさい」
「わ、分かりました」
目が細くなり声のトーンが落ち、貫禄というか圧力的な何かで萎縮しそうになる。タケ姉さんのいう停戦よりも大事なこととはなんだろう。
「まず、アヤメとつき合ってるとか一つになったって本当なのかしら? 返答次第ではここで埋めるわよ」
「なななんでそれを! いやつき合ってるのは嘘と言いますか、文目と特に何もない訳でもないけど」
「ギルティ?」
「違うんです! 文目が一つになったと皆の前で言ってしまいそれが誤解されて、それで親衛隊が関わってこないようにするタメでして」
「はあ、落ち着いて話しなさい。だいたいの事情は聞いているって言ったでしょ、それに私が聞いているのは一つになったってことについてよ」
恥ずかしい。まさか文目と話していたタケ姉さんと出会うという最悪の事態が起きるとは、どうするか話していたはずなのに何を言うべきか分からなくなってしまうとは我ながら情け無い。
「いい、アヤメちゃんと貴方に起こったことは貴方たちで三組目。私たちと人間とが互いに信じ合うこと自体少ないこともあるけど、極めて稀な事なのよ。だからこそ、これからどんな心づもりでアヤメちゃんとつき合うかを聞かなければならないの」
「恋愛感情じゃなくて真面目にですか?」
「恋は保護者抜きでしときなさい。気になるけどね」
「真面目にか……。文目と初めて会えた同じ考えをした人で、明るくてしっかりしててそれでいて優しい、相棒だと思っています。だから俺は文目と同じレベルで戦えるように強くなりたい。そして世界を変えて、文目も守ります。それが今の俺の気持ちです」
戦いを終わらせるために世界を変える必要があると分かった。けれど竜胆との戦闘で人間がどれだけ弱いかを理解させられた。俺は文目の足手まといになっていただけで、盾にも剣にもなれなかった。そんな俺を相棒と呼んだ文目にこのままじゃ申し訳が立たない。
だから強くなる。文目を守れるだけの強さが、反する者達と戦えるだけの強さが、そして世界を変えられるだけの強さが俺には必要だ。
「ふーん、これなら貴方にアヤメちゃんを任せてもだいじょうぶかしらね。それだけ強い意志があれば、いずれ変われるわよ」
「……ありがとうございます」
「あら、素直になったわね。なら最後に一つ良いことを教えてあげる」
素直になったわけでない、ただ自分で考えていて嫌気がさしただけだ。
だが、良いこととはなんだろう。気になるので反論はしない。
「貴方は私たちに自分の力だけじゃ勝てなかったでしょ。さっき人間は弱いって言っていったけど、貴方のお仲間達は一人で勝ってたわよ」
「えっ」
「貴方と他の人との差が、どうしたら縮まるかか自分で考えてみなさい。ヒントは貴方も体験した真の力は植物人だけじゃなく人間にも眠っているわ。まあ、それが理由なのかは知らないけどね」
一人で倒しただと!?
俺の仲間と言っても星月先輩は植物人と会っていないし他我矢隊長と霧立さんは他の隊と合流していた。いったい誰なんだ、ゲルトナーの隊員の中からなのか?
疑問は多い、だが問題は何故それをこのヒトが知っているかだ。
可能性としてはゲルトナー内にスパイがいることか。文目のスパイになる事があっさり認められたのはその前例があるのからかもしれない。
「タケ姉さん、何でそんなにいろんなことを知ってるんですか? 真の力のことはまだしも、文目も知らない人間側の事とか。隠し事はなしにしませんか」
このヒトは危険だ。話している間も鎌を手放せなかったのは何処かそれを感じていたから。何時までも会話の主導権を握られているわけにもいかない。
「どうして隠し事をしてはいけないの?」
「お互いに歩み寄って仲良くするんじゃないですか? あなたは過激派でもないですし」
「……あのね、言っとくけど私はあなたとは戦わないだけで人間と仲良くするとは言ってないわよ?」
ピリッと空気が張り詰める。ここに来て四年間の中でも何度かしか感じたことのない、強者の覇気。
ここまで強い感じだと竜胆のように本体で来ていると思った方が良い。
鎌を握る手に汗が浮かぶ。
「ふふふ、そんなに怖がらなくて大丈夫よ。戦う気はないから。それならここら辺でお開きにしましょうかしら、次に会う時を楽しみにしておくわ」
周りに生えていた竹林が地中に沈んでいき、そしてタケ姉さんは俺に背を向けたまま森へ歩き出す。途中、思い出したかのようにふと立ち止まって振り返る。
「……あと、アヤメちゃんを頼んだわよ」
それだけ言うと暗い森の中へ帰っていく。
姿が見えなくなり強ばっていた全身から力が抜け、全身から汗が噴き出す。
何も喋れなかった。本能で危険を察知したのか最後の言葉に全身の動きが止まったのだ。
通信機から撤退の合図であるアラームが鳴り出した。今日はここまでのよう。震える足で門の方へ向かった。
今、戦えば絶対に死ぬ。
だが見てろよ、次会うときには真の力とやらを手にして楽しませてやる。
自然と口角が上がってしまう、そんな自分が少し恐ろしかった。
残り十四日
次回
遂に全面戦争が始まる……。 乞うご期待!




