23,お前に天使は渡さない
そして放課後、ようやく授業も終わり帰ろうとしていた俺は靴箱で文目に引き留められた。引き留めるといっても抱きつくように腕にしがみつかれてヤバい。何がヤバいかは言わないがな。
周りには同じく帰ろうとしている生徒がいて今朝と似たような事になりそうな気配……。
いや、俺は今朝のような失敗はしない! あくまでも知り合いという感じで話しかける。
「花道さん。急にどうしたんですか?」
「日々野! 私たちつき合ってるよね!」
オワッタ。
靴箱の空気と視線が冷たく向かってくる。
昼休みのことはあくまで冗談ということで終わったはずではと自分の記憶を辿る……うん、間違いない。
このまましがみつかれていても埒が空かない。耳元で小声で尋ねてみる。
「文目、どうしたんだ。昼間の話は嘘だろ?」
「違うの! 後ろ見て!」
少しだけ視線を文目の後ろに向ける。そこには確か、城山とか言う同じクラスにのやつと他何人かが立っていた。どいつも怒りを表しながらだが。
「もしかして、告白されてるとか?」
「違う! 帰ろうとしたらあいつらが教室の入り口で、あなたの親衛隊です、とか言ってそれからずっと着いてくるの。だから彼氏のふりして追い払って!」
「そうは言ってもなあ……」
予想の上をいくあの男達が怒っている理由。だから文目が俺に抱きついているのを見て、気に入らないのだろう。
それに親衛隊とか言ってるが、あの態度を見れば絶対に下心を持っているのは分かる。
「あいつは誰なんですか! 城山隊長」
「くそ、少し顔が良いからと……」
「皆落ち着け、俺達はあの天使を守るのが役目だろ。やるならば後だ!」
確かにあんなヤバそうな奴らに文目を任せるのは俺の中の良識が許さない。かといって、彼氏の振りをするのかと言われても悩みどころ。だが、いつまでも悩んではいられないよう、ドンドン人は集まり親衛隊とやらも我慢の限界は近そうで、いつこちらへ向かってくるか分からない。
文目は可愛いし付き合えるのなら付き合いたいが、俺はとある事情から出来ない。だが彼氏のフリならセーフ。というか、それがこの場を切り抜けるのには良策だろう。静かな学園生活が更に遠のくが仕方ない、文目のことがバレたりこの先関係が危うくならないためにもここは
彼氏のフリをするか。
まずは文目の腕を放させ、逆にその手を掴み親衛隊に向かって、
「なあ悪いけど、俺の彼女に付きまとわないでくれるか。迷惑してるみたいなんだけど」
そうハッキリと言いきり、そのまま逃げるように手を引いて校舎から走り去る。
「待て、どこに行くつもりだ!」
「追え、総員追うんだー!」
「お前みたいな奴に天使をやるものかぁー!!」
親衛隊が何か叫んでいるが振り返らない。バス停に向かったら人は増えるし、すぐ見つかってしまうだろうから徒歩で出来るだけ遠くまで走った。
俺は普段から運動というか任務のおかげで体力はあり、文目も植物人本来の力があるから余裕で親衛隊を引き離し、今は裏道を歩きながら話していた。学園から家までは20分程度の距離、今日は走ったから半分は来ている。
彼氏宣言をしてしまい明日になれば学校中で噂されていることを思うと学園をやめたくなりそうだ。
けれども、そんな素振りを見せれば文目に罪悪感を持たせてしまいそうでクールに気にしていないかのように振る舞おうと決める。
裏道だということもあり人はいない。話題がないから喋ることもなく気まずいかったが、丁度いろいろ聞きたいことあったしそれを聞いてみるか。
「なあ、今更なんだけど、こうして人間の街にいることを仲間に伝えなくても大丈夫なのか? 竜胆ってやつに俺と一緒に戦ってた事を広められたら、裏切り者になって追っ手が来るんじゃないか」
「ああ、その事なら問題ないわ、もう手は打ってるの。日々野に話したら誤解されそうで言ってなかったんだけど、学園の入学が決まった日に村に残してきた種魂から戻って仲間達に話したの。人間の街にスパイとして入れたってね」
「スパイか……」
スパイとは確かに俺は少し疑いそうになるな。だが、文目の仲間たちがそれで納得したってことは人間の何かを知りたいということなのだろうか。
ならいっそ文目がゲルトナーに入ってしまったらどうだろう。
俺と仲良くしていても自然になるだろうし、もしもの時にすぐ駆け付けられる。
人口が限られていることもあり、どこも人手不足でゲルトナーでも医療班ぐらいならすぐにでも入隊の許可が出るだろう。
「文目、ここの暮らしに慣れてきたらでいいんだけどゲルトナーに入らないか?」
「あの組織に?」
「もちろん戦う班じゃなくて医療班とか情報整理とかの後方支援みたいなのだけど。一応スパイって言う名目もあるけど、一緒に行動できることが多くなるから安心だし、この街についても調べやすくなると思うんだけど」
「んー確かに良いことが多そう。それに村の皆からも怪しまれないだろうし」
前向きな回答得られてよかった。
「なら次の休みにでも案内するよ」
「明日でもいいけど何か用があるの?」
「ああ、明日は昼頃から門が開くらしいから戦闘部隊集められてるんだ」
病み上がりでも出動とかどんなブラックな組織なんだと思われるかもしれないが仕方ない、一部の給料は聖王会から出てるし、消防士とかみたいに緊急時に必要など職業だからな。
「森に行くのよね、なら伝えておきたいんだけど初めて会ったときタケ姉と戦ったでしょ」
「あの怖い人だろ」
いきなり殺そうとしてきたり冥土に行けとか行ってきたり恐ろしい人だった。
今思えば、もしあの人が全ての力を出せていたら俺は死んでいただろう。そう思うとゾッとしてくる。
「違うの、戦いになると少し激しくなるけどほんとは優しくてお茶目な人だから誤解しないであげてね! 私にとってお姉さんみたいな人だから」
「分かった分かった、そんな必至になんなくても何となく分かったから」
「分かってなさそうだけど……」
文目はともかく殺されそうになった相手の印象はそう簡単に変わらない。むしろより恐さが増している気がするが、本当は優しい人で二面性のある人ということを言いたいのだろう。
「なら、明日にでもタケ姉さんにあったら挨拶でもしとこうか、文目さんの彼氏ですって」
「そんな恥ずかしいことは言わなくて良いの!私と日々野は一応つき合ってることにしてるけど、ほんとの関係は相棒の方が合ってるでしょ」
「冗談だって。俺だって恥ずかしいに決まってるだろ」
「タケ姉にとって私をからかう絶好の機会になるから冗談で済ませれないわよ……。とにかく森でタケ姉にあったとしても彼氏のことは言わないで。……それと出来れば戦わないで欲しいの」
強い口調から始まり、最後は頼むように小さくなる様子は文目が自分の言っていることが我が儘だと思っているから。
何となくだがそんな気がした。
俺も初めから戦う気はないし、彼氏だと言うことなど実家に挨拶するようであって欲しくない。もしもそんなことがあったら事情を説明するしかないな。
「大丈夫、安心してくれ。俺も出来れば戦いたくない。もしかしたら仲良くなって帰ってくるかもな」
「フフフ、そうだと良いけどね。なら明日何かったら読んでくれても構わないから、頑張ってね」
「ピンチの時はそうするよ。それじゃあな」
裏道の終わりで方向は別々になるからここでお別れだ。手を振って帰るアヤメの後ろ姿を見た後、俺も家に向かって歩き出す。
明日どうなるか分からないが、まあなるようになるだろう。
残り十五日
遅くなってしまいすみません。年内にあと4話ぐらいは更新したいのです。
次回
次の日、森の中で出会う人とは! 戦闘シーンはないかも…… 読んでみてね!




