17,訪れた試練
その数十分前、世界樹の森にて
今日は神緑人戯がある日。
村の皆は誰もここから出ていないはず、その分多くの木人が森に配置されている。
一日の中ですることも終えすでに夕方。
少しの心配感を持ち、村の離れにある秘密基地みたいなところ、大きな楠の枝で彼らの戦いが終わるのを待っていました。怪しい雲行きになりつつある空模様は私の心を暗くさせます。そうしていると誰かが木の下で呼ぶ声が聞こえたような気がした。
「アヤメちゃ~ん、やっぱりここにいたのね~。私もそこに昇っていい~?」
「タケ姉! どうしてここが分かったんですか!」
「それはお姉ちゃんだからだよ~、何かあったら~ここに来るのを知ってるからね~」
遠くの方ばかり見ていたから、木の根元に近づいてくる人影に今まで気づいていなかったのです。まさかこの場所を知られていたとは。
タケ姉は楠の枝を足場にして、見晴らしのいい私の枝の所まで来て急に話し始めます。
「アヤメちゃん。話しておくことがあるの、良く聞いてね」
「分かりました、でも急ですね……」
「だって~村にいたら誰かに聞かれるかもしれないし、出来るだけ早めに伝えておきたいことだもの」
そう言うとタケ姉は改めたようないい方で話を始めました。
「この前、アヤメちゃんが人間達のことについて行ってたでしょ? その事について気になったことがあったの」
「な、なんでしょうか」
もしかして日々野と繋がっていることがバレてしまったのか、もしそうだとすると私はここでタケ姉と一戦交えることになるかもしれない。
緊張が顔に出ないようにするので必死ですが、いざとなったときには逃げれるように体勢を整えておく。
「まず、アヤメちゃんに、確認しておきます」
タケ姉が一言ずつ句切りながら話し始めます。じっと顔を見てきて心臓の鼓動が更に早まる。
「もしかして、アヤメちゃんは今、誰かと恋をしてるんじゃない! ほら何日か前色々聞いてきたり、あの集まりのときも誰かとデートとかしてたんでしょ!」
「はい?」
口を開くとニヤニヤ笑いながら聞いてきます。その内容に拍子抜けというか肩透かしのような感想を持ってしまい、つい声が出てしまいました。
でも、バレていなくて良かったと思う安堵感が大きい。
「それでね、恥ずかしくて言いたくないだけかもしれないから話しておこうと思うことがあるの」
「本当に好きな人はいないんだけど……」
「私たちの力、実はほんとはこんな物じゃないの。信じる心とか恋によってもっと大きな力が出せる。もし大変なときが来たら、相手と一つになるように心を繋ぐの、そのためにはまず恋をするべきよ」
「そうなんですか、で、どんな感じなんですかそのシンの力ってモノは」
「あー、絶対信じてないでしょ。ほんとなんだからね」
必死そうに訴えてきますが、つまりは”恋をしろ”ということでしょう。さっきまで緊張していて損した気分です。
第一に相手が誰なのか聞いてこないところがタケ姉らしい。
「だって本当はタケ姉も、って誰か下にいるみたいだけどタケ姉、誰か連れてきた?」
「そんなことはないはずだけど~、あれリンドウちゃんじゃない?」
確かにリンドウが木の下を通り過ぎて村の方へ向かっているのが見る。彼はトリカブトと共に村を出て行ったはず。何をしに来たのか気になっていたその時にはもうタケ姉が木の上から飛び降りていた。
「リーンドーウちゃーん! 何しに来たの~」
「タケッ、うわ!」
「ちょ、タケ姉待って!」
待つ暇もなく地面に落ちていったがそれにはリンドウも驚き足を止めている。私もすぐに後を追って木の上から降りていきます。少し遅れて隣に来ると、いつも通りになったリンドウが話し始めました。
「驚かせるなよ二人とも……まあいいかちょうど良い。長老に伝えてきて欲しいことがある」
「トリカブトがなんか言ってるの?」
「そうだ。今から反撃宣言いや報復だったか? まあ総勢俺を含めて十一人で戦いに出向くから、それを伝える役目を頼まれただけだ」
「今からって他のお仲間達はどうしてるのかしら~」
「すでに出発しているはずだから俺もすぐに追いかける。タケも此方に来ると思っていたとアイツが言っていたぞ。それだけだ」
「生憎だけど断っとくって伝えといて。もう、リンドウちゃんはいつも急いでるみたい。あら、アヤメちゃん黙ってどうしたの?」
リンドウは確かに急いでいたようで急ぎ足で去って行く。
大変なことになった。なんで今日に限ってそんなことをする! 急がなければ人間とトリカブトの軍勢が出会ってしまう。
「アヤメちゃん、私が長老に伝えて来るから危ないことはしないでよ!」
「分かりました、タケ姉お願いします」
都合良くタケ姉も長老に伝えに行くため村に帰っていった。これなら誰に聞かれることもない。長老に念話が聞かれることが稀にだけどあるので、出来るだけ村からは離れたかった。
それに私の移動速度だと、リンドウよりかは速く人間達がいるところに着けるはずです。もし日々野が彼らと戦っていたらそれを手助けすべき。
そう思いつつ森の中を進み、彼に話を伝えます。
ピピッ、移動し始めてすぐ通信機に連絡音がなる。いやな予感がしつつもそれを取った。
「日々野大丈夫か! もしヤバくないならこのまま聞け。今どこの隊も植物人と遭遇している。今のところ確認されているのは九体、他我矢隊長と霧立も他の隊と協力して戦ってる、俺は今のところ心配するな。いいか、副隊長として言っておく。もし植物人と遭遇して、勝てると思っても油断はするな。無茶はせずに逃げろよ!」
通信はそこで切られた。何処かの隊の手助けに入ったのだろう。さっきから一方的に話を切られている気もするが、それは置いておこう。
俺は悪いとは思いつつ、星月先輩の言いつけに反する行動を続ける。正直、だいたいの敵には勝てる自信もある、だからこそ文目との約束の場所に向かっていた。
「全く、なんで今日みたいな日に!」
いち早く文目に会うため、俺は更に速度を上げた。
そこから離れた所に星月はいた。
通信を切った後、独り言のように話し始めた。
「おい、これはどういう事だ」
もちろん周囲に人はおらず近くには滝とそこから続く川が流れているのみ、普段とは違う淡々とした表情で木にもたれながら言葉を続けた。
「たく、そう言うことか。お互い面倒なことになったもんだな。まあ事情も理解したし客も来たみたいだし、後は頼む」
そう言い終わったとき、対岸の森の中から人、植物人のボタンが姿を見せた。
「待たせたな」
「全くその通りだ! 俺様が親切だったから良かったものを、まあいいこの俺様が直々に相手をしてやろう!」
「悪いけど俺も忙しい。三分だけ相手してやるよ」
「調子に乗れるのもいつまでだろうな!」
直後、二つの影が川の上でぶつかり始めた。
星月先輩からの通信から三、四十分ぐらいでようやく初めて会った丘に着いた。ここに来るまでに植物人と会う、なんてことはなかった。
あの時に切った木々がまだ残っている。そのため、ある程度開けているが足下には注意あうる必要がある。
俺の方が早くに着いたようで文目はまだ来ていなかった。もしかすると、何処かで他の隊と出会ってしまい戦闘になっているかもしれない。
しかし、そんなことは起こらなかった、文目が丘の向こうから、息を切らせながら走ってくるのが見えた。その後ろにゲルトナーや他の植物人はいないようだ。
すぐ近くまで来ると息を整えて話し始める。
「日々野、待たせてごめんなさい。門を使ったけど、やっぱり距離があるわね」
「いや、俺もそこまで待っていないから大丈夫、それよりも過激派が攻めてくるってどういう事だ。文目も危ないのにここに来たってことはそれなりの理由があるんだろ?」
「理由なんて、日々野が心配だったからだけど?」
なんてことを言うのだろう。言っておくがここは戦場、そんなところでこんなセリフを聞くと思っていなかった。
どうも文目はストレートに物を言うのが普通なのか恥ずかがる様子もない。それを気にしたら俺がバカみたいになってしまう。
気にする様子を見せないように、話を続けるとしよう。
「ま、まあそれは分かった。それでその過激派の奴等が攻めてくるっていう方は?」
「たしか反撃宣言とかをするのが目的らしい。その過激派のリーダーがこの前言ったトリカブトなんだけど、アイツはとても強いし頭が回るから何をするかわからないのよね」
「もういくつかの隊が戦ってるんだけど大丈夫かな、一度に九体も戦うなんてこと無かったから……」
「ならまだ二人は遭遇してないみたいね。総数は九人じゃなくて十一人いるらしいから」
「まだ二体、二人も残っているのか。てことはここに来るかもしれないんじゃ」
もしもこんな所を植物人に見られたら、そっちの考えはしていなかった。俺には特に何もないが、文目は裏切り者として居場所をなくすことになる。
こんな広い森で二人の植物人と出会う訳がない、偶然の産物というものだ。
けれども、悪いことほどそういうことが起こやすい。
「その通りだ。まさかアヤメ、お前が人間と通じていたとはな」
文目が来た丘の方から男が一人やって来る。青い髪と武士のようなイメージを抱く布の服を着ている。手には槍が一本、だがそれだけと決めるのは危険だ。文目のように幾らでも出してくるかもしれない。こんな時だけなんだが星月先輩に言われた通り、油断はしない。
「リンドウ、つけていたの」
「門を使うのなら、もう少し気を付けるべきだったな。俺が門を使うためにそこにいたかもしれないだろ。人間、悪いがお前の考えがどうかは関係ない。裏切り者のアヤメと共にここで死んでもらうぞ!」
尾行に気づかなかった文目を責めるつもりはないが最悪の展開だ。俺の話を全く聞く気のない大勢の中の一人だったよう、文目のように少しでも違う考えを持っていてくれたら別の方法があったかもしれない。
「文目、俺は戦いを止めたいとか言ってたのに戦ってしまっても、幻滅したり見捨てないでいてくれるか?」
「するわけないでしょ。自分が死ぬかもしれないのに? 悪いけど私ももし、人間の誰かと戦うようなことになったら手加減は出来ない、その人を殺してしまうかもしれない。けど、私はこの戦いを止めるためなら幾らでもこの身にその罪をかぶるつもりよ」
首を少しだけこっちに向けながらそう言ってくれた。覚悟とか罪だとかそんなものを背負うのは自分一人で十分だと思うけど。
「それなら良かった。俺も同じような考えだ。ということで竜胆さん、手加減なしで行かせてもらうぞ」
「もちろんだ。死ぬ気でこい」
槍を持つ手とは反対の手で挑発をしてくる。
ここが分水嶺、勝てば文目が守られる、負ければ講和も文目も全て終わりだ。
そうして俺たちの初めての共闘であり、試練が始まった。
次回
どうなる二人! 戦いの行方は! 乞うご期待!




