12,イカレタ男
野次馬たちが壁になってここからだと様子が分からない。
背伸びをして状況を知ろうとしていると前にいた野次馬の一人、見知ぬオッサンが話しかけてきた。
「何でい、前が気になんのか。どうもベッピンさんがチンピラに軟派されてんだよ」
「人数は?」
「さっき見たときゃ四人だったけど、そんなに気になんのかい」
「まあ、ナンパされてるのが友達というかなんというか」
「それならもっと前に行きな、ほらほら」
粋なオッサンのおかげで野次馬の中を進んでゆけた。
なんとか様子が見えるところまできてチンピラたちを見る。数は聞いたとおりの四人でひときわデカい男がリーダーのようだ。文目の両サイドに痩せた金髪とナルシストっぽい雰囲気のロン毛、もう一人のポッチャリは大男の後ろでスナック菓子を食べている。
明らかに目立っているのに物怖じなんてせずに大声で話している。そこまで容姿が良い訳でもないのに、その自信はどこから来るのか知りたいとこだ。
「かわいいなあって、さっきから見てたんだよ。彼氏さんもどっか行ったみたいだね」
「日、日々野は別にそう言うのじゃないし!」
「ならいいじゃん、俺たちとどっか遊びに行こーぜ。別に変なことなんてしないからさあ」
ふむ。どうやら金髪とロン毛が落とそうとしてリーダーはまだかまだかと待機中の様子。
ポッチャリは文目をチラチラ見ながら相変わらずスナックを食べている。
ソロソロ俺も我慢の限界になっている。
そりゃ、ほとんどの人は文目を見ているときに少しはイヤラシい感じがしていたがコイツらは論外だ、人としてどうかと思うぞ。
「俺たちゲルトナーに所属してんだぜ。絶対その日々野って奴より金もあるぜ?」
「悪いけど、あなた達と遊ぶつもりは全くないから。もうすぐ日々野が帰って来るからどっか行きなさい。」
そう言って、文目は近くにいた男二人を押しのけようとする。そんな動作がリーダーの大男は気に入らなかったようだ。
というかゲルトナーの隊員だったんだな、見覚えがないことを考えると防衛部隊のほうか。
「おい待てよ女、俺たちはゲルトナーの隊員なんだぜ? そんな男ほっといて、おとなしくついてこい!」
「や、やめてよ!」
嫌がる文目の腕を無理矢理つかんで引いた。
我慢の限界だ。
頭がプチンときれて、どこか自分でなくなる気がしてくる。
「おい、そこのくずども。今すぐ手を離せ。」
周りにいた野次馬どもが俺の顔を見ながら離れていく。危険からは離れておく、いい判断だ。それに対してチンピラの一人金髪が近づいてくる。
「もしかして彼氏さんの日々野君? ねえ何言ったのかな、俺たちをくずって言ったよな? 死にたいの?」
なんだ、ちゃんと聞こえてたか。わざわざ近づいて来るから聞こえてないのかと思ったのに。
「構えろ」
「はあ?」
「警告はしたからな」
構えをとることを勧めたが何もしなかった。
相手はこちらを殺すつもりのようだったから手加減は少しだけだ。
金髪の無防備な右半身に蹴りを叩き込む。
「ぐほぉ」
変わった声を出しながら飛んで、そのまま受け身もとらずに壁にぶつかった。
たぶん死んではいないだろう。
「てめえ、よくも片山をやってくれたな」
今度はロン毛が突っ込んできた。顔を狙った右ストレート、続けて左、右、そしてアッパー。どれも遅すぎて簡単にかわせてしまう。
かわされた方の金髪は息切れしたまま、もう一発殴りかかってくる。
その突き出された拳を掴み取り、握り潰す、のはやり過ぎか。そのまま金髪と同じ方に投げ飛ばして終わりだ。
「ほお、少しは出来るようだな。だか、これを見ても逃げずにいられるかな、こい枝切!」
どうやらリーダーは神鎌を使えるようだ。
フォルムは鉈のようでランクは上の下といったところか。
神鎌といっても鎌の形だけでない、鉈もあれば剣の形もある。ランクはその名の通り、鎌によっての強さのことだ。
「分かるかクソガキ、多少武術が出来てもこの鎌の前じゃ、ただのいい的、」
「喰尾龍鎌ブチのめすぞ」
わざわざ話を聞いてやる義理もない。
途中で鎌を呼び出しと、今は全身に怒りが満ちるようにただ相手のことしか頭に入ってこなくなった。
タオセ、コロセ、ケシトバセ。
まるで鎌の中から誰かがそう言っているかのように頭にそれらの言葉が響く。
「な、お前もゲルト、ガハァ」
面倒だ。相手の腹に一撃加える。
そのまま、地面に倒れるかと思ったがなんとか膝をついたところで止まる。
しぶとい奴だと思い鎌を振り上げ、そのまま首を狙い振り下ろす。
「・・野、日・野もうやめて!」
背中に誰かがしがみつき柔らかい感触と甘い香り、そして俺の名前を呼ぶ声で、手の中の鎌を振り下ろすのを止める。
残り数ミリの所、いや若干刺さってるか?まあ、ギリギリで止めてはいた。
だんだんと感覚が大男のみから全体に戻っていき、そこで文目がしがみついていることに気がつく。
「あ、文目? どうしたの?」
まだ頭がハッキリしないが分かっている。俺がまた暴走していたことは。
鎌かあいつの所為で感情が暴走するのだろう。怒りや哀しみで感情が不安定になるとよくこうなっていた。
最近は起きていなかったが三年前だと頻繁に起きていてそういう時は、体力の限界がくるか他我矢隊長や星月先輩が叩き倒して気絶することで止まっていた。
「私は大丈夫だから、日々野落ち着いて」
「ん。もう、大丈夫だよ」
手元の鎌はもう無い。大男は最後の攻撃が迫っていることに気絶していたようだ。
後ろにいる文目に振り返って話しかける。
「ごめん。文目が嫌がってるの見てからよく覚えてないけど、止めてくれてありがとう。あのままじゃ自分も怪しかったからさあ。でも、文目も可愛いんだから気をつけなよ」
「か、可愛い……」
怒りに任せて殺してしまっていたかもしれないし、自分の体も保たずに壊れていたかもしれない。
「とりあえずここから離れよっか、あまりにも目立ち過ぎたみたい」
文目は何か下を向いてブツブツ言っている。
だんだんと減ってはいるが、さっきの野次馬達がこっちを見て色々話している。
それに気づいた文目は自分が今、俺に抱きついていることを思い出してすぐに離れた。
赤い顔をして今度は俺の手をつかんでひっぱた。はやく離れよう、とでも言いたいかのように。
それに従って歩き始めたがさっきの親切なオッサンから話しかけられた。
「兄ちゃんなかなかやるなあ。チンピラはコテンパンで彼女さんとのラブラブッぷりも見せつけてよ、こんちくしょー」
「「だ、だからそういうのじゃないです!」」
「ハハハハハハハハハ」
二人揃ってそう言い返したのがツボったのか大声で笑う。
「まあ、これ以上二人の邪魔しちゃいけねえなあ。そうだ、儂ここら辺で店やってんでまたデートの時にでもよってくれや」
「「だから付き合ってません!」」
親切なオッサンはそういうとたぶん自分の店に帰っていった。
俺たちも目立ちすぎたため、ここから離れるべく、はぐれないために手をつないで歩き出した。
そういえばあと一人いたポッリャリはいつの間にかいなくなっていた。逃げ足だけははやい奴なのかもしれない。
次回
のんびり農地でお話。そこで出てくる言葉”神緑人戯”とは!?
読んでみてね。




