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16

 彼女は語りだした。僕は口を挟まず聞き入ることにした。


 忘れていた。いや、忘れていることを忘れていた。今までは、その記憶がちゃんとあるものと思っていたが、そうではなかった。

 あの日の記憶を、思い出した。


 目が覚めるとそこは和室で、心配そうに私を見つめる女性と、すこし離れたところで私を見ている男性がいました。女性は私が目を覚ますと、「よかった。やっと目を覚ましたのね!」と言いました。私はわけがわからず、その人に「誰?」と聞きました。するとその人は急に恐い顔をして、その部屋にいた男性と何やら話しはじめました。

 私は和室にひかれた布団の上で寝ていました。そこから起き上がりあたりを確認しましたが、今まで見たことのない場所でした。

「誰って……おかあさんよ。やいちゃん、どうしたの?」

 女性が、もう恐い顔を引っ込め、今度は私を恐れているような顔で言いました。しかし、『おかあさん』と言われても、私には見覚えのない人でした。だから私は、わからないと首を横に振りました。『おかあさん』は男性とまた話しはじめました。私はなんともなく、二人を眺めていました。

「やっぱり、病院に連れて行くべきだ!」

 男性が『おかあさん』に怒鳴りました。

「でもそれじゃあ、事件のことを話さないといけないじゃない!」

「話さない方が変だろう! 警察に連絡しなかったのはおかしいよ! 家に強盗が入ったんだろ? 警察に知らせるべきだよ!」

「だけど……」

 二人は険しい表情で顔を向きあわせ続けました。私はとりあえず、二人を交互に見ました。

 しばらく口論したあと、『おかあさん』はため息をひとつ吐き、私を病院へ連れて行きました。

 車に揺られているあいだ、私はあることに気づきました。それは、私は誰であるのかわからないということです。

 病院はとても大きく、人がたくさん歩いていました。診察を待つあいだ、私はさっきまで寝ていたはずなのに眠くなり、『おかあさん』に寄りかかって眠ってしまいました。

『おかあさん』に起こされ、私は診察室に入りました。初老のおじいさん先生がいて、『おかあさん』と早口で話しました。私はその会話の内容を、ひとつとして理解することはできませんでした。

 私の診察はすぐに終わり、外で待っていた男性と話し、落ち込んだようにため息を吐いてから病院をあとにしました。

 私は家に帰るとすぐ、『おかあさん』に寝るように指示され、すぐに眠りました。次の日起きると『おかあさん』がとなりで寝ていたので、揺り起こしました。『おかあさん』はすぐに目を覚まして起き上がり、「おはよう」と笑顔を見せたので、私も「おはよう」と返しました。男性はすでに起きていて、『おかあさん』と同じように「おはよう」と言いました。

 リビングで『おかあさん』と話して、私の名前は『真乙夜椅』であることを知りました。『おかあさん』は私の母親で、男性は私の父親であることを理解しました。というより、朝起きるとおぼろげながら、私は自分が何者であるのかを思い出しはじめていました。


「私は一週間ほどかけて記憶を徐々に取り戻したんだ。一度お母さんに、どうして私は記憶を失くしたのか聞いたんだけど、お母さんは事件のことを簡単に説明するだけでした。そのときはそれを信じたけど、思い出した記憶と照り合わせると、おかしなことばかり……。ねえ、どう思う、赤木くん?」

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